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新潮社の本が刊行されるまで―新人作家さんの場合―日記公開!三日月拓『きのうの家族』10/22発売!
本をつくる。本が世に出る。それは、著者にとっても出版社、担当編集者にとっても大きなよろこびです。けれど、道のりは決して平たんではありません。まして、著者にとって初めての本となったらなおさらです。ここでは、2007年4月に『シーズンザンダースプリン♪』(電子書籍で発売中)で「女による女のためのR-18文学賞」優秀賞を受賞した三日月拓(みかづきひらく)さん(34)の初の単行本『きのうの家族』が刊行されるまでの行程を全公開!三日月拓さんの担当編集者Nによる「本づくりのプロセス」解説とともに、著者の日記を順次公開します。

Ⅰ.著者と編集者はいかに出会うか

担当編集者Nによる「本づくりのプロセス」解説

毎月発売される文芸誌をチェック。仕事とはいえ、読む楽しみも味わいつつ。  編集者はいかにして著者の「担当」、いわゆる「担当編集者」になるのでしょうか。主な“ルート”には次のようなものが挙げられます。
イ:もともと自社で作品を出してくださっていた方を前任者から引き継ぐ。
ロ:自社主催の新人賞で受賞された方の最初の担当につく。
ハ:他社さんから出た作品を読んで「これは!」と思った方にアプローチする。

 今回ご登場いただく三日月拓さんは「女による女のためのR-18文学賞」の優秀賞を2007年4月に受賞されました。ですから、上の3つのうちの「ロ」になります。
 では、担当者はどうやって、最初の担当に「つく」のでしょう。
 たくさんいる編集者の中で、「この人が賞を獲ったら担当したい!」と手を挙げたひとりが、そのまま担当になるパターンがほとんど。ほかならぬ私もその一人です。
 長編に与えられる賞の場合、たいてい受賞作がそのまま本になります。分量的に十分1冊の本になり得るからです。しかしR-18文学賞の対象は短編で、1冊の本にするには枚数が足りません(この業界では文字数、分量のことを「枚数」と呼ぶことが多いです)。
 さらに原稿を書き足してもらうか、もしくはまったく新しい作品を一から作り上げるか――。
 三日月さんが最初の本を出すまでの4年半の道のりは、こうして始まりました。

『シーズンザンダースプリン♪』 三日月拓(みかづきひらく) 新潮社の本が刊行されるまで―新人作家さんの場合―
著者による刊行までの道のり日記
プロローグ
第6回R-18文学賞優秀賞受賞作「シーズンザンダースプリン♪」。受賞したけれど…… いまから4年半前のあの日、わたしは有頂天だった。
なんとなく書いていた小説を、たまたまインターネット上で見つけた賞に応募して、優秀賞をいただいた。とてもうれしかった。
なんとなく書いていたものの、でもなんのために書くのだろう、と考えたりしたことはやっぱりあったわけで、あの日わたしは、
「書くことへの許しを得たような気がした」とか授賞式のスピーチで言った。
「今日という日が人生最良の日になってしまわないように頑張ります」とかも。

ほんとうに、どうぞ書いてくださいって執筆依頼がいっぱい来ると思ったし、すぐに単行本を出したり活躍して、今日が人生最良の日になんてなるはずがないと思っていたのだ。甘かった。

執筆依頼はそれほど来なかったし、じゃあ受賞作(短編)を単行本にするために続きの物語を書くけれど、いまいちおもしろくできなかった。じぶんでおもしろくないものが他人の目におもしろく映るはずがなく、返ってくる原稿は赤字だらけだった。直して送るも赤字、また赤字・・・・・・何度くり返しただろう。  
わたしはとても疲弊した。もうなにも書けないと思った。
担当編集者さんも疲弊していることはわかっていた。とても申し訳なかった。

あの日もしかすると得ていたのかもしれない許しを、わたしはじぶんの手でふいにしてしまったのだ。もう、やめたほうがいいのだろうなと感じた。
受賞作から離れて全然ちがう話をいちど書いてみませんか。と、だけどある日担当編集者さんが言ってくれた。
なんにせよもう書けないです。とわたしはこころの中で言った。だけどうなずくしかなかった。
最後のチャンス、とじぶんに言い聞かせて書いた作品が、もうすぐ単行本になる。
まずは一度目の人生最良の日更新じゃないかと思う。
だけどわたしはいま決して有頂天ではない。
安堵や不安や感謝のごちゃ混ぜになったような複雑なきもちで、それからやっぱりどうしても、単純に、とてもうれしくはあるけれど。
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