TOP > 特別インタビュー渡辺実氏 大都市を襲う巨大地震の恐るべき「災害の顔」とは

大都市を襲う巨大地震 そのとき現れる恐るべき「災害の顔」とは
防災・危機管理ジャーナリスト 渡辺実氏

  • 01
「高層難民」「帰宅難民」「避難所難民」
3・11で犯した「負の経験」
  • 02
火の海へ向かう帰宅難民
「帰宅支援ステーション」の不安
  • 03
「帰るな」「帰すな」の本当の意味
「日常の延長」を防災に

「帰るな」「帰すな」の本当の意味

――帰宅難民こそは確かに、都市における新たな「災害の顔」ですね。

渡辺 ですから、会社員は帰らない。会社は社員を帰さない。それが大事になってくる。買い物客はデパートが引き受ける。観光客は外国人も含めてホテルが引き受ける。そうやって箱(ビル)の中に人がいれば、ターミナル周辺で大混乱が生じることもありません。やがてバスや電車が動くようになった段階で、少しずつ人を地上に降ろしていけばいい。
 なぜこのことが大事なのかと言いますと、ターミナル駅での混乱を避け、避難所に地元以外の人が殺到するという事態を回避できるからだけではありません。
 2011年9月に台風15号が関東を直撃した際、渋谷駅など東京のターミナル駅では何万人もの帰宅難民が発生しました。駅で身動きがとれずにいた群衆の中には、どうしても帰らなければならない人がいたはずです。共稼ぎで子どもを保育園に預けている人。寝たきりの親を自宅介護している人。そういう人は、まず先に帰してあげなければいけないのです。「帰るな」「帰すな」という原理原則が周知徹底されていれば、被災後に辛くもまだ交通機関が動いていたり、あるいはマヒした交通網が回復したりしたときに、こうした「例外的な」人たちをちゃんと帰してあげることができるでしょう。

――そのためには企業の備えも必要になってきます。

渡辺 会社が社員を帰さないようにするからには、自分のところの建物の耐震性をクリアさせなければならないし、水や食料や毛布などを少なくとも1週間分くらいは備蓄しておかなければなりません。災害後のBCP(事業継続計画)も策定しておく必要があります。けれど現実には、企業の準備はまだまだと言わざるを得ません。商工会議所がアンケートをとったところ、なんと6、7割の会社が社員に帰れという指示を出していたそうです。結果、信頼できる最新の数字ではじつに551万人もの帰宅難民が生じてしまった。では、会社はそれを教訓として3・11以降、何をしてきたか。その評価は別途、きちんと行わなければなりませんが、まだまだ他人事だなぁというのが正直な実感です。
 帰宅支援マップなるものがあります。いざというとき、この道を選んで帰れというわけです。しかしながら、100%アテにするのが危険であることは先に言ったとおりです。大きな地震がきた際には帰ってはなりません。本当に帰らねばならない人を先に帰すためです。このように、大震災に備えるにあたっては、社会の価値観をいま一度根本から見直すことが肝要です。
 もちろん行政も他人事ではありません。ここでは細々としたことは挙げませんが、東京都ではわれわれのような専門家の提言を受け、デパートやホテルに帰宅難民の受け入れを義務づける条例の制定に着手してくれています。これはせめてもの幸いと言うべきかもしれません。

「日常の延長」を防災に

――個々人のレベルで意識すべきことは何でしょうか。

渡辺 いつ地震に遭うかわからない。そのことを前提にして、自分の生活パターンを少しずつ区切って考えてみてほしいのです。朝起きて、出勤するまでに地震がきたらどうするか。家を出て、職場に着くまでに地震がきたらどうするか。職場にいるとき、帰るとき、同僚と飲んでいるとき、デートしているとき、帰宅して寝ているとき……。それぞれの時間帯やシチュエーションごとに、具体的にどうするかを考えておけば、せめて自分の命だけは守ることができるのではないでしょうか。
 地震対策というのは決してアバウトなものではなく、ディテールがすべてなんです。もはやアバウトにものごとを言っていられる時代ではありません。具体的に、ご自分の生活のシチュエーションごとに対策を考えておいていただきたいのです。

――具体的な対策と言っても、簡単なことでしょうか。

渡辺 『高層難民』や『都市住民のための防災読本』は、いかに防災対策に「日常の延長」を取り込めるかということを意識して書きました。どれほど地震の危機が切迫しているからと言ったって、普通の人は年がら年中、地震や防災のことなんか考えてはいられません。だから特別なことをさせてはいけない。日常から遊離した防災対策は無意味と知るべきであって、日常のものを役立ててもらうことが何より肝心なんです。
 電気が止まって冷蔵庫が動かなくなっても、庫内を冷やすために冷凍食品を利用することができます。製氷庫で氷が溶けても飲み水になります。備えといえば、誰しもまず水のことを心配しますけれど、ペットボトルを買いだめするばかりが手ではありません。『高層難民』や『都市住民のための防災読本』をぜひお読みいただきたいのですが、水洗トイレのタンクの水も有効活用できます。あくまで日常生活の延長を防災に活かしていく哲学こそが大事なのです。
 それから、防災グッズを備えていらっしゃる人は、免許証などIDになるものをコピーして入れておくのもいいと思います。モノクロコピーで構いません。いざ罹災証明などを取得する必要が生じたときに、「自分が誰か」を証明する手立てになってくれるでしょう。

――地震に遭ったとき、最優先すべきことは何だと思われますか。

渡辺 当然ですが、自分の身を守ることです。死なないでほしい。ケガをしないでほしいということです。平常時であれば、何かあったら救急車がきて病院に連れて行かれ、死亡が確定すれば、あとは葬儀屋さんとの話になります。けれど、大震災がきたときにはそのフローが一切動かなくなる。何ひとつ機能しなくなる。
 考えてほしいのは、そうした状況下で遺体が出たり、ケガ人が出たりということがどれだけ周囲の負担になるかということです。あえて言いますが、周囲の迷惑になると思ってください。重いケガをすれば、周囲に手当や介助を強いることになります。だから、死なないでほしいし、ケガもしないでいただきたい。
 で、生き残ったらどうするか。すぐに家に帰るのではなく、目の前にいる血だらけの人、動けなくなった人、倒れた家の中に取り残された人。そういう人を助けてあげてほしい。阪神・淡路大震災は早朝5時46分に起きた地震でした。ほとんどの人たちが家の中にいました。生き残った方たちに聴きますと、8割は消防でも警察でも自衛隊でもなく、「周囲の人」に助けられたと言います。首都圏で昼間に大きな地震があったとき、3・11では帰宅難民になった人たちが、ケガ人や閉じ込められた人たちを助ける「周囲の人」になってくれなければならないと思います。
 まず自分の命を守り、外出先にいる場合にはすぐに帰ろうとせず、身の周りにいる人たちを助ける力になる。このような順番で考えて、そのときに臨んでほしいのです。

――本日は、まことにありがとうございました。

撮影/インタビュ―カット・坪田充晃
東日本大震災時都内各所・本田武士
西新宿ビル群空撮・南慎二

『高層難民』 渡辺実著

『高層難民』

詳しくはこちら

都市を襲う巨大地震が見せる「震災の新しい顔」の実態を解説、都会人のための震災生き残りマニュアル。

『都市住民のための防災読本 渡辺実著 (2012/1/27発売)

『都市住民のための防災読本

詳しくはこちら

切迫する首都直下型地震など近代都市が襲われたときに発生する事態を真正面から見据え、考え抜かれた対策。避けられない現実を「自分の問題」として捉えられるか。

『彼女を守る51の方法』

詳しくはこちら

平凡な大学生だった三島ジンが、震度7のお台場で遭遇した光景とは!? 衝撃のリアル震災コミック!!