TOP > 特別インタビュー渡辺実氏 大都市を襲う巨大地震の恐るべき「災害の顔」とは

大都市を襲う巨大地震 そのとき現れる恐るべき「災害の顔」とは
防災・危機管理ジャーナリスト 渡辺実氏

  • 01
「高層難民」「帰宅難民」「避難所難民」
3・11で犯した「負の経験」
  • 02
火の海へ向かう帰宅難民
「帰宅支援ステーション」の不安
  • 03
「帰るな」「帰すな」の本当の意味
「日常の延長」を防災に

火の海へ向かう帰宅難民

――すると、どういったことになるのでしょうか。

渡辺 帰宅難民は、国道1号、厚木街道、甲州街道、中山道、日光街道、京葉道といった、郊外へと放射状に伸びる道を歩いて家に帰ろうとするわけですが、彼らの前に火の海が立ちはだかることになります。当然ながら容易に突破することなどできません。火の海の前で人々は立ち往生する。さらに後から後から人がきて、どんどんどんどん増えて溜まっていく。猛火を目前にした彼らは身動きがとれません。考えるだけで恐ろしい状況です。
 ここでもう一度振り返ってみると、3・11のあの晩、人々は歩いて家に帰ろうとし、実際に帰れてしまいましたね。いずれ近い将来に首都を大きな地震が襲ったとき、同じ行動をとってしまうおそれが大いにあると言えるでしょう。彼らは火の海に向かって突き進むことになります。帰れてしまった経験が、次は大変な災厄につながりかねない。だから私は「負の経験を積んでしまった」と申し上げたのです。

――避難所に関しても問題がありました。

渡辺 3・11ではさまざまな施設が人道的な観点から帰宅難民を受け入れました。しかし、避難所というのは本来、帰宅難民が入ってはいけないところなんです。避難所はあくまでその地域の夜間人口、そこに住んでいる人たちが避難するために設けられているのですから、通りがかりのサラリーマンが入ってしまったら、地元の人が使えなくなってしまう。『都市住民のための防災読本』に詳しく書きましたが、もとより都内の避難所は、想定される避難者に対し、面積にして東京ドーム12個分も不足しています。
 地域の人たちに対してそもそも足りていないのですから、帰宅難民が避難するなどあってはならないことなんです。
 なので僕は東京都の猪瀬直樹副知事に、都庁を避難所として開放したのはかえってマイナスだったのではないかと申しあげた。なぜならやはり、東京が大きな地震に遭った際、つまり“本番”が訪れた際、帰宅難民は過去の経験から都庁へと押し寄せるだろうから。もちろん、都庁だけではありません。小学校や中学校などの公共施設にも押し寄せるでしょう。彼らは言います。「3・11のときは泊まれたじゃないか」「水や毛布をくれたじゃないか」……。
 3月11日、陽は暮れて気温も下がり、各地の避難所はあくまで善意から帰宅難民を受け入れたとはいえ、厳しい言い方になるかもしれませんけれど「うちは避難所ではありません」と、毅然と対応すべきだった。帰宅難民が避難所に入れてしまったことも「負の経験を積んだ」と言ってしまっていいでしょう。

「帰宅支援ステーション」の不安

――災害時に徒歩で家に帰ろうとする人に対し、可能な範囲内でトイレや水や情報を提供すると申し出たコンビニやファミレス、郵便局などが「災害時帰宅支援ステーション」として登録されています。これら「帰宅支援ステーション」はうまく機能してくれるでしょうか。

渡辺 3・11の直後に関して言えば、機能していませんでした。帰宅支援ステーションにはその旨を知らせるステッカーが貼ってありますけれど、たとえばコンビニの店員さんに聞いてみてください。だいたいが自分の勤務している店が帰宅支援ステーションになっていることを知らなかったりします。3・11から今までの9か月間、それら帰宅支援ステーションとなる店舗で、従業員に対してしかるべきトレーニングが行われているとも思えません。
 それに現実問題として、店員さんとて大地震が起きたら家に帰ろうとするでしょう。家のことが心配にもなるし、だいいち残っていると怖いし。3・11の地震では、被災地に近いコンビニで、どういうわけか新聞紙が目張りのように貼られているところがありました。なんだろうと思って中に入って聞けば、コンビニチェーンからの指示で「営業してもいいが、店内に物資があることを見られないようにせよ」と言われたそうです。要するに略奪を恐れているのです。そんな風に言われた店員さんは気が気じゃない。店にはとても残っていられないでしょう。そうしたことを考えるにつけ、帰宅支援ステーションが現実に機能するかどうか、残念ながら悲観的にならざるを得ません。

――避難や帰宅の問題だけをとっても、難題が山積しているわけですね。

渡辺 都市型の災害である95年の阪神・淡路大震災では、多くの人が近隣の学校へと避難しました。われわれは過去に苦い経験を持っておりまして、関東大震災のときに人々が陸軍被服廠跡地へ逃げたところに火事が起こり、3万8000人が火災旋風に巻き込まれて命を落としています。
 同じように、人々が学校に逃げてしまうと火災旋風に巻き込まれ、悲劇的な事態が起きるおそれがあるのです。大都市においては延焼火災や火災旋風という「災害の顔」を常に考慮に入れなければなりません。だからこそ広域避難場所が設けられていて、延焼火災が発生したときはまず最初に広域避難場所に逃げ、鎮火するまでそこに留まる。その後、家を失った人々は近くの学校に避難するという多段階避難の考え方が導入されているのです。しかし、阪神・淡路大震災のときにみんなが学校へ逃げてしまったものだから、それが当たり前のように受け入れられてしまっている。この問題も無視できないものだと思います。

――3・11の大地震では、あまり高層マンションにおける被害は注目されなかったように見受けられます。

渡辺 首都圏においてはその日の夕方くらいにはおおむね電力が復旧しました。だから、エレベーターの閉じ込めも実際には起きているわけですが、あまり顕在化しなかったんですね。しかし、建物は言うまでもなく大きく揺れました。転倒防止対策を施していない部屋では、家具などが転倒したり、家電製品が落下したりして大変な被害を出しています。ただ、人的被害が出なかったせいで、ほとんどニュースにならなかった。人的被害がなかったこと自体は幸いでした。が、ニュースにならなかったせいで、高層マンションの防災について考え直すきっかけが失われてしまったとしたら、これもまた「負の経験」と言うべきではないかと思います。

――「負の経験」を克服するために、われわれが心すべきことは何でしょうか。

渡辺 帰宅難民に関して言えば、原理原則は「帰るな」「帰すな」ということです。それは考えれば当然のことで、都市では人間がタテに積みあがっています。高層ビルがある。だから都市は大量に人を収容できている。超高層ビルなんて、その中に何千もの人が“積みあがって”いるわけです。それがひとたび地震が起きてみんな地上に降りてきて、もし交通網がまったく動いていなかったら、人が溢れて動けなくなるに決まっています。ごく簡単な話です。

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