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芥川賞受賞作 電子書籍化! 朝吹真理子×西村賢太 特別対談

「苦役列車」詳細


  • 前編「書くスタイル、書くよろこび、そして辛さ」
  • 後編「書くよろこび、そして辛さ」「電子書籍をどう考えるか」

まさかのどんでん返し!

朝吹 覚えると楽チンです。金沢に行った時に急に泉鏡花が読みたくなって、ダウンロードしてその場で読んだりしました。電子書籍はそういうことができるんです。

西村 僕、生まれた時代が早すぎたのかな。いや、早くはねえか(笑)。これで普通に読めちゃいますね。もうダメだ。負けました。

朝吹 お似合いですよ。

西村 でもね、こんなもん最初だけですよ。やっぱり本じゃないとね。

――ご自身の作品が電子書籍で読まれるということは……。

西村 イメージがないですねぇ。

朝吹 初めは戸惑うと思うんですけれど、でも人間は慣れてしまえるので、今に普通になるんじゃないかと思います。昔は箱がついてないと本じゃない、みたいな時期がありましたよね。でも箱がない状態が普通の本という認識になったように、どんどん物事は変遷していくものだから、電子書籍で何かを読むってことが普通になるということはあると思います。

西村 でも、絶対必要的な利点を感じないんですよ。頭に入らないんです、こんなんで読んでも。CDだったらレコードより音がいいという絶対的な利点があったじゃないですか。今もレコードが好きという人もいますがね。でも、CDで音がよくなるように、電子書籍で読めばその文章がよくなるかっていったら、全然違いますからね。慣れもあるだろうけれども、電子化の意義がよくわからないですよ。読書文化って、すべてを合理化して良しとするものじゃないでしょう。だいいち著者が損する。こんなもん読んでるヤツはダメだ!

――ご自身の作品は紙で読んでほしいと?

西村 もう紙だけにしてほしいです(笑)。

朝吹 グループ学習とかにはいいですよね。以前、ドゥルーズ・ガタリの『ミルプラトー』を数人で読んでいた時期がありまして、いろんな人の考えがレジュメで渡されてもかさばるしわかりにくい。端末をうまく活用すればそれを1つにまとめていけたりできる。便利です。紙と電子書籍、共存していられたらいいですね。

西村 (諦めたように端末を机に置いて)僕、結構です、これ。『苦役列車』の電子書籍化は、やめてください(笑)。

朝吹 今からですか? まさかのどんでん返し!

――電子書籍は基本的に絶版がない、だから100年、200年と読み継がれる、といった意見もあります。

西村 ふーん、そういうもんですかね。けど僕は懐疑的だなぁ。まぁ、確かに時代の流れというものはあれ、新潮社とか出版社とか、一部の最先端気取りの作家が過剰な期待をかけすぎなんじゃないですか。僕は懐疑的、否定派です。

朝吹 私は『国歌大観』とか『角川古語大辞典』をパソコンで使ってきたので、全然抵抗はありません。電子書籍には違う便利さがあるんですよね。検索をするなら電子のほうが便利ですが、和歌の配列を見ていくとしたら紙の『国歌大観』のほうが使いやすいしわかりやすい。それに、紙のほうはページをめくっていくと、目的とは違うところに目が行ったりして、そういう楽しさやよさもありますね。今の時点では紙の本と電子書籍に求めるもの、アクセスの仕方が人によって全然違うと思います。100年くらいの長いスパンで考えると、結局、作品が面白いかつまらないかしかなくて、紙だろうと電子だろうと面白い作品は読まれるし、つまらない作品は読まれない。当たり前だけれど、そういうことなんじゃないかと思います。そして、「後世に残る」ことがいいことなのかもほんとうはわからないです……。

面白い形が何かある

西村 いいものは残るというのは間違いない真理だけれども、しかし、いいものならやっぱり100年後にも本という形で残ったほうが、どれだけ文化的に豊かなことかとは思いますよ。(端末を指差して)こんな無味無臭の! これが主流だったら、小説なんか書くのをやめますね。読者としても本好きの人というのは、場所を取ろうが何だろうが、やっぱり本は架蔵して並べておきたいという気持ちがあるんじゃないですかね。図書館利用専門の人は別として。

――電子書籍で書き下ろしを、という依頼がきたら、どうされますか? 人を殴った時に「ドコッ」と音を入れるとかバイブレーションを効かせるとか、電子コミックなどではそうした効果音や振動を加えることも行われていますが。

西村 そこまでは完全にやりすぎだと思うんです。そしたらもう、小説の意味がないですからね。ただ、冗談で言うのではなく、ギャラが発生すれば、僕はやります。今、アマゾン内でのウェブマガジンの『マトグロッソ』で日記を書いているのだって、あれの依頼が来たのはどこからも仕事の話がきてないときで、タダ同然の原稿料だけど、まったくのタダだったらやってないです。一切の義理はないわけですから。義理があれば別です。朝吹さんにとってはそういう利己主義の僕なんか、一番唾棄すべき存在だろうと思うんですが(笑)。

朝吹 いえ。書くことは混じりっ気なしの水商売です。

西村 おっ、いいことおっしゃいますねぇ。

朝吹 そう思います。小説は、文字によって想像の世界に飛んでいけるというところが好きなので、私自身は、既存の小説に音をつけたり振動を加えたりすることは全く望んでいません。端末オリジナルでなにかモノを作るのであれば、いつかやってみたいです。ただ今と同じ「小説」にはならないと思います。これに合った面白い形が何かあるんじゃないかと思います。これのために書くということを念頭に置いて書いたら、紙の本と同じものにはきっとならない。でも、効果音を入れたりするというのでは、小説が小説でなくなる。作品が小説として成り立たなくなる。何と言うか、電子書籍も紙の本も共倒れするだけっていう感じがしますが。

西村 おおっ、そうですね。そう、共倒れ! それじゃあダメなんです。きっとそれぞれによさってものがあるんでしょうからね。よしっ、今日はみんなで共に倒れるまで、飲みにいくことにしましょうか!

朝吹 エッ?……ハ、ハイ。

――本日は、どうもありがとうございました。

スチール撮影・青木登
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