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芥川賞受賞作 電子書籍化! 朝吹真理子×西村賢太 特別対談

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  • 前編「書くスタイル、書くよろこび、そして辛さ」
  • 後編「書くよろこび、そして辛さ」「電子書籍をどう考えるか」

トラウマがあるんです

西村 「汚れっちまった悲しみに…… 」の後に、じゃあ何があったんだ、というのを考える。僕はものすごくリアリストなんでしょうね。その一行で完結されてしまうと、何層もの思考を本当に経て出てきた言葉なのかよって、どうしても疑っちゃうんですよ。

朝吹 でも、それって詩を「受け取る」からこそそう思うってことじゃないですか。詩に書かれなかったものに惹きつけられ、自分の思考を進めていくというのは、詩の正しい――正しいと言うとイヤな言い方ですけど――詩のまっとうな受け取り方だという気がします。詩というのはそうして凝縮した一行を抱えることで、自分の思考の支えになって、どんどんいろんなところに飛べるという感じなんですよね。そういうものを誘発するのが面白い詩なんじゃないかと思います。

西村 ウーン、極論すると、それを書けるのは、ごく一握りの詩人でしょうね。僕の場合、同人雑誌上がりということもあって、いろんな同人誌が送られてきます。それを見るとね、プロになっていない文芸愛好家の方々が、やたらと詩か私小説、いずれかを書くわけです。簡単だと思っているんですよ、その両方ともが。でもね、酷いんです。思いつきをただ並べただけのような。それと中原中也の差っていうのが僕にはわからない。

朝吹 うーん……。

西村 私小説に関しては、彼らと葛西善蔵、あるいは田中英光なんかとの差が歴然としているというのはわかるんですがね。僕は偏見があるのかなぁ。いい詩を読んでこなかったという素養の悪さというか。よし、これから、お父さまの朝吹亮二を拝読させていただきます。

朝吹 ……。いろいろな方の詩をお渡しさせてください。

西村 お父さまの詩はお好きですか?

朝吹 うまくお答えできないんです。小学生の頃、性的な言葉を父親の詩で知ったので、トラウマが(笑)。父親の詩は、官能的なのです。

西村 失礼しました。僕、読まずになんでも言うからダメなんだな……。そういうのは、お父さまに「これどういう意味なの?」とか聞きましたか。

パーンとビンタ

朝吹 いえ(笑)。父親とは、本当に普通の父娘として接してきたし、詩を書いていたというのも、母親から「詩人だった」って聞かされてはじめて知ったんです。でも、知ったところで「詩人って何するの?」って感じじゃないですか。大学の先生という認識もあまりなかったです。

西村 学校の先生くらい?

朝吹 はい、家の外で働いている人、程度の認識でした。小学校高学年になって、こっそり父の書斎を覗いたら、父の名前が書かれた雑誌があるから何だろうと。開くとエッチであろう言葉が書いてあった。あまり触れちゃいけないと思ってそっとしまった。今でも距離をとった形で父の詩を読むことができていません。西村さんは、ご結婚をなさってお子さんができたとして、その子が西村さんの作品をこうやって読んだら……。

西村 絶対ダメですね(笑)。絶対にイヤだ。「馬鹿者!」と一喝して本を取りあげ、パーンとビンタ!

朝吹 ダメなんですね(笑)。

西村 朝吹さんだってダメでしょう。お子さんが生まれて『流跡』とか、うなずきながら読んでたらどうします?

朝吹 知らない人が書いた本としてだといいな。そうはいかないですよね。

西村 芥川賞をとったことで、お父さまの接し方が変わったということはないですか。今までは「真理子」とか「おい」とか呼んでたのが、「朝吹さん」とか。

朝吹 父親がですか? 親として受賞を喜んでくれて、それはとても嬉しかったです。しいてあげれば、食事中に文学の話題がでたとき、以前よりも内容が具体的になったりはしました。

西村 やっぱり、ちょっと認識が変わられたんでしょうね。

朝吹 どうでしょう。最近はあまり会っていなくて。メールはしています、父と。

西村 仲がいいんですね。

朝吹 仲良しです。父親のTシャツを着て寝たりします。

西村 まさに理想の娘ですなぁ。

――7月に『きことわ』と『苦役列車』が電子書籍化されます。電子書籍についてはいかがですか。

西村 電子書籍、全然知識がないんです。そんな機械があるなんて、今初めて見ましたし……。ちょっと触ってもいいですか。へぇ、ページがめくれて……、えっ、戻る? あっ、ページを戻せたりもするの!

朝吹 ……かわいい(笑)。

西村 いやいやー。これではまるで本じゃないですか。朝吹さん、使ってます?

朝吹 私はiPhoneを使っています。

西村 (端末を手にページをめくり)これなら風が吹いても大丈夫ですな。うわぁ、ダメだな、俺は。取り残されました。もう老兵は消え去るのみですなぁ。

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