対談・鼎談

2020年11月号掲載

『リノベ暮らしはじめました』刊行記念対談

リノベで叶えた、こだわりの“私らしい空間”とは

Emi整理収納アドバイザー × たかはしみきイラストレーター
OURHOME主宰

空間をゼロから作り変える「リノベーション」。
中古マンションのリノベ体験を漫画にした本書の著者・たかはしさんと、同じく自宅マンションをリノベしたEmiさん。
そんなお二人にリノベの魅力を大いに語って頂きました。
理想の住まいづくりを、まずは本書で追体験してみませんか?

対象書籍名:『リノベ暮らしはじめました』
対象著者:たかはしみき
対象書籍ISBN:978-4-10-335693-6

emitakahashi

リノベのきっかけは?

たかはし 対談自体やり慣れていない上に今日はオンラインでの対談なのでちょっと緊張していますが、お話しできるのを楽しみにしていました。

Emi 私も楽しみにしていました、よろしくお願いします!

たかはし 私は長年、結婚、出産、子育て、女性特有の体の不調についてなど「自分自身が体験したこと」をエッセイ漫画にしてきました。今回の新刊も、2度トライした(結婚時に1回目、出産を機に住み替えて2回目)築40年ほどの中古マンションのリノベーションについて描いたものです。

Emi 普段あまり漫画を読まない私にも、たかはしさんの絵柄は親しみやすく様々にイメージも広がり、とても興味深く読ませて頂きました。

たかはし そう言って頂けて安心しました。私のリノベ体験は、工事開始直後に天井から火事の跡が見つかったり、建築士さんと大工さんとの間の確認ミスで工期が遅れたり、予算がなくて希望の内装や造作を諦め続けたりと、2軒とも順調とはほど遠い経緯を辿ってしまい......。リノベの楽しさだけでなく、そんな苦労やストレスも正直に描いたので、読者の方に楽しんで頂けるのだろうかと不安な部分もありました。Emiさんもご自宅をフルリノベーションされたのですよね?

Emi 2019年に約10年住んだ自宅マンションを半年かけて全面リノベしました。20代後半でマンションを買ったときには、現在小5になる男女の双子が中学生になる頃、それぞれの個室を作るためにリフォームしようと考えていたのですが、娘が小3になったら自分の部屋を欲しがったので、良い機会だと予定を少し早めました。
 余談ですが、私が「収納」に目覚めたのも小3の時なんです。ダンボールで引き出しの仕切りを作り下着を詰め、ベッドの下にも収納を作って......。

たかはし 小3で好きなことが「収納」とは渋いですね(笑)。

Emi 『すてきな奥さん』や『ESSE』が愛読誌でした(笑)。でもそんな私を両親は応援してくれて。それが今の整理収納アドバイザーという仕事に結び付いたとも思っているので、私も「一人部屋はまだ早いよ」と娘の好奇心を親の価値観だけで抑えることはしたくありませんでした。それに、お試しに5畳の部屋に娘一人で寝かせてみたら平気で、子どものワクワクが親の心配に勝ったことも決断を後押ししました。

たかはし 悩んだ時、いまの状況でできる範囲のなかから方法を考え、お試し期間を設けてみるEmiさんのやり方は、ひと手間かかるけれどその分、実用性が高いなと著作やブログを拝見して感じます。

Emi 「上手くいかなかったら元に戻せばええやん、とりあえずやってみよ~」と試して、思いのほか上手くいったときは喜びもひとしおなんです(笑)。

夫婦間のイメージのすり合わせ

たかはし ところで、リノベーションってどんなものかご存じでしたか?

Emi 私はOURHOMEを起ちあげる前の数年間、会社員として通販のベルメゾンで収納用品の商品企画を担当していたので、住宅関係の知識はある程度はありました。でもいざリノベが自分の選択肢に入ってきたのは、2017年に、阪急阪神不動産からの依頼で中古マンションのリノベをプロデュースするお仕事をさせて頂いたことがきっかけです。リノベの大変さと面白さ、それに一連の流れなど、仕事を通じて実体験さながら勉強させてもらえたんです。

たかはし それは羨ましいです。私は1回目のとき、当然ですがすべてが初体験だったので、決めなければいけないことの多さに戸惑い、楽しむ余裕が全然なくて......。

Emi 決断すること、本当に多いですもんねぇ。私も「決められない自分」に悩み、落ち込みました。しかもたかはしさんは1回目のリノベが2005年と、リノベに興味を持たれたのが早かったですもんね。

たかはし デザイナーをしている夫が昔から興味があって、その熱量に引きずられる感じで決めました。当時はまだスマホもなくネットもそれほど普及していなかったので、調べる手段は建築雑誌やインテリア関係の本でしたし、そもそもリノベを誰に頼めばいいの?と、手探りで糸口を見つけるところからのスタートで。夫はすごく楽しそうだったけど(笑)。

Emi いまは検索すると画像もたくさん見られますし。

たかはし しかも私も夫も30歳くらいだったのと童顔のせいもあって、舐められてしまう局面も多い"ひょろひょろの施主"でした。Emiさんのダンナさんは、リノベに対してどのようなテンションでしたか?

Emi 夫は会社の代表なのですが、あまり表に顔を出していないので、謎めいてると思われているかも!?(笑)

たかはし 謎めいてる? たしかにあまりお顔出されていませんもんね~。

Emi 実際は出たがりのよくしゃべる関西人!なんですが(笑)、たかはしさんのダンナさんと同じで、インテリアに興味があり自分の好みがはっきりしているタイプです。18歳のときに仲間と一緒に部屋に遊びに行ったら、ダークブラウンを基調にした家具や凝ったライティング、オシャレな木まで置かれていて当時の私には衝撃でした。

たかはし 小3で収納に目覚めたEmiさんとは相性ピッタリですね(笑)。

Emi そうかもしれません(笑)。私自身は白を基調にしたナチュラルな雰囲気が好きなので、結婚当初から互いに折り合いをつけながら家づくりをしてきました。リノベのときも、インテリア好き同士だからこそお互いの好みを把握した上で、最初に大きな方向性を一緒に決めたんです。

たかはし うちも同じです。それぞれの希望をたくさん話して、イメージをすり合わせていくのは面白い作業でした。そのあとは細かい決断の連続だから、お互いが思い描く「理想の空間」を話し合うのはすごく楽しかったです。

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思い込みを捨てて得た、心地よさ

Emi いま「理想」という言葉が出ましたが、リノベではすべてをゼロから決めるからこそ、自分の理想が何なのか分からなくなった時期がありました。というのは、「整理収納アドバイザーのリノベってみなさん期待してくださるよね」と、自分のなかで勝手にハードルを上げてしまって。

たかはし 分かります、その気持ちすごくよく分かる!「デザイナーとイラストレーターが建築士にリノベを依頼した部屋って、スタイリッシュでオシャレな空間でなければいけない」と、私も謎のプレッシャーを勝手に感じました。『渡辺篤史の建もの探訪』に出てくるようなこだわった間取りでないと、と。

Emi デザインの仕事をしているから、片づけの仕事をしているから......。無意識に属性や肩書に縛られているのだなぁとそのとき痛感しました。たかはしさんのダンナさんが空間にぴったりと収まる造作家具にこだわられていましたが、整理収納アドバイザーとしてすべてのサイズや配置に意味がないといけないと思い込んでからは、何も決められなくなってしまいました。

たかはし 自由に作れるからこそ生まれた悩みですよね。どうやってそこから抜けられたのですか?

Emi キッチンにカウンターを作るか否かどうしても決められなかったとき、「今決められないならば、決めないことを決めよう。与えられた枠の中で工夫するのがEmiの本質なのだから」とふと夫が言ったんです。確かに私は、「この隙間にはこれを置こう」「あのボックスを組み合わせてこの空間をより使いやすくしよう」など、ある枠組みのなかで自由に考えるのが好きで得意なんですね。夫の一言で迷いが吹き飛び、「フリーにしておく」ということを決めました。

たかはし 本質をついて軌道修正してくれるなんて素晴らしいですね。そういう意味でリノベは、「思い込み」を捨てていく作業でもあると今思いました。「結婚して家を買うなら新築」とか、「4人家族なら3LDKファミリータイプの間取りが一番住みやすい」とか、リノベを選ばなければ、それが「唯一の正解」とずっと信じていたかもしれません。

Emi 「家のことを考えたり決めたりするのは苦手だから、新築の建売を買う方が快適」という知人もいて、何を心地よいと感じるかは人それぞれで「正解」はないですもんね。

余白で考える、家族の未来

たかはし 「決めないことを決める」という点では、我が家も2回目のリノベのときには子どもの人数がまだ確定していなかったので、壁のないフリースペースを広くとりました。個室が必要になったらいつでも仕切れるので、今はその「余白」で子どもが自由に遊んでいます。

Emi いいですね! 私がリノベを通じて改めて実感したのは、「フレキシブルさを大事にしたい」ということでした。何にでも作り変えられるのは、何もないから、という思いから、OURHOMEのオフィスには壁がなく家具などで仕切っていますし、我が家の個室はすべて引き戸な上、回遊できる間取りなので、広いワンフロアのように全部屋が繋がっているイメージなんです。子どもたちが独立した後のことなど、将来暮らし方に変化があっても対応できることはもちろんですが、子どもたちに工夫して暮らす面白さと大切さを背中で見せたいという気持ちも大きくて。間取り図に従うのではなく、家という「箱」を自由に組み立てて考えられる、フレキシブルさを身に着けて欲しいと願っています。

たかはし 子どもの成長とともに生活スタイルはどんどん変わるし、そもそも子どもの性格によって個室が必要かどうかも変わってくるし......。家づくりでは「絶対に確定」と決められることって案外少ないのかもしれません。

Emi 漫画の最後の方でたかはしさんが〈それぞれが家で、部屋で、どんな風にどうすごしたいのかを雑談するのですが/その時間が私はとにかく幸せで...余白を残したからこその楽しさを感じています〉と、ダンナさんと息子くんと一緒に楽しそうに「暮らし方を通して、家族の未来の話をする」姿がとても印象に残りました。

たかはし 少し照れますが、家も家族も変化しながら育っていくもので、その変化を少しでも楽しんでいきたいというのが今の私の実感なんです。

Emi 子育てのこと、趣味のこと、お金の使い道、老後の暮らし方――人生の優先順位を夫婦や家族でシェアできるリノベの大きな魅力を、この漫画を通じて少しでも多くの人に知ってもらいたいです。

たかはし ありがとうございます。世の中の生活様式がめまぐるしく変わっているこのタイミングだからこそ、この漫画が自分の住む場所や空間を考えたり変えたりするきっかけになったら何より嬉しいです。

 (たかはし・みき イラストレーター)
 (えみ 整理収納アドバイザー)

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