書評

2019年1月号掲載

吉川景都『さよならわたしのおかあさん』刊行記念特集

「当たり前」な今、だからこそ

スザンヌ

対象書籍名:『さよならわたしのおかあさん』
対象著者:吉川景都
対象書籍ISBN:978-4-10-352171-6

 普段あまり漫画は読みませんが、この作品はすごく読みやすくて、あっという間に読んでしまいました。息子を寝かしつけた後、ベッドで何気なく読み始めたら涙が止まらなくなって、リビングにティッシュを取りに起きたくらい感動しちゃって。涙の理由はいくつかあると思うのですが、肝臓がんと闘い亡くなってしまう吉川さんの「おかあさん」の姿に、祖母や母を重ねながら読んだから、というのが特に大きな理由かもしれません。
 とはいっても、私の祖母も母もまだまだとても元気。祖母は八十五歳なのでそれなりに老いてはきていますが、一昨年までは仕事をしていたくらい活動的ですし、母もまだバリバリ仕事をしています。なので、悲しい涙ではありません。
 吉川さんが漫画の中で描かれているように、私も、子供を育てるようになって、驚くようなことがたくさんありました。例えば子守歌。〈子どもを産んでみたら自分が歌えるんで驚いた〉というのはまさにそう。習ったわけでもないのに自然と口から出てくるそれは、母から私に受け継がれたもので、私たち娘にはそんな宝物のような思い出が溢れているのだ――と気がつかせてくれました。日常生活でも、子供と接している時にふと、自分と母や祖母の姿が重なることがあり、「ああ、愛してくれていたんだな」と、想像しながら感謝することも増えていて......。子供が生まれてますます母との距離が近づいた実感があるので、吉川さんが子供時代を振り返りながら「おかあさん」を想い、そして我が子を想う気持ちにとても強く共感したんだと思います。
 三年前に離婚してから故郷熊本に住んでいるのですが、徒歩五分圏内に、母、祖父母、妹一家がいるので日々助けてもらっています。母自身も私が二歳くらいの時に離婚してからは、昼も夜も仕事をしながら私と妹を育ててくれました。母がとても忙しかったので、小・中学生の頃は平日は祖母の家で過ごしたのですが、土日に朝から晩まで全力で遊んでくれたので、不思議と寂しい気持ちはありませんでした。祖父母との関係も深まったし、色々な人にお世話され助けてもらって育ったことは、今の私の財産でもあります。
「財産」と言えば、吉川さんの「おかあさん」が落ち込む吉川さんに、「あんたなら大丈夫、そういう風に育ててあるから」と励ます場面は特に印象に残りました。素晴らしい言葉ですよね。私も、母と祖母からもらった「言葉」をいまも大事な指針にしていて、母からは「笑顔・愛嬌・挨拶を大切に」と、祖母からは「出されたものは全部食べる」と言われ続け、それは今の仕事にも大いに役に立っていると感じます。img_201901_12_11.jpg

 でも息子は一月で五歳になるのですが、まだまだ甘えん坊。幼稚園のお友達と比べても幼くて、私がいる時は食べさせてもらえるまで自分からは食事をしないこともあります。恥ずかしがりやで偏食で、どうしたら母や祖母のようにできるのだろう......というのは今のちょっとした悩みです(笑)。
 週に一度はランチしたりお裾分けをし合ったりと、今は母とも頻繁に会えますし、元気な姿からは「弱っていく姿」を想像できないですが、もし今急に母に何かあったら、絶対に後悔するでしょう。〈行けばよかったんだ〉と「おかあさん」が行きたがっていた場所に行けなかったことを吉川さんは後悔していますが、私も、家族旅行を先延ばしにしちゃっていて。無理やりでもスケジュールを合わせて、みんなで出かけられる機会を作ったり、もっと頻繁にみんなで集まりたいなとも思いました。それがきっと、「いつか必ずくるその日」のための、心の準備にもつながるような気がします。
「おかあさん」、吉川さん、娘さんとが重なり合う最終話の見開きの絵は本当に素敵なシーン。死は終わりなのではなくて、次の世代への繋がりでもあることを感じさせてくれました。
 当たり前のことが当たり前じゃなくなる前に、この漫画と出逢えて本当によかったです。

 (スザンヌ タレント)

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