対談・鼎談

2018年3月号掲載

『BOOK BAR お好みの本、あります。』刊行記念対談

思わず読んでみたくなる本ばかり!

大倉眞一郎 × 杏

本を愛する女優と旅人という、異色のタッグが送る「BOOK BAR」。
人気ラジオ番組が10年を迎え、満を持して書籍化した。
ナビゲーターの二人が本には入らなかった裏話を語り尽くす!

カメラマン/緒方亜衣
スタイリスト/佐伯敦子
ヘアメイク/佐々木貞江

対象書籍名:『BOOK BAR お好みの本、あります。』
対象著者:杏/大倉眞一郎
対象書籍ISBN:978-4-10-351631-6

初顔合わせから10年

 2008年4月5日に「本から始まる四方山話」、BOOK BARはスタートしました。

大倉 だから10年。

 私、今31歳ですから、当時21歳でした。まだお芝居もほとんどやってなくて、ザ・モデルだったんですよね。海外のコレクションにも行っていたと思います。

大倉 僕は50になっていました。50歳と21歳のコンビ。よくこんなもん組ませたと思いますよ。

 BOOK BARの最初の企画書に、「怒れるオヤジ&モデル」とあって(笑)。

大倉 その組み合わせで、どうするつもりだったんだろう。

 でも、J‐WAVEへ初めての打ち合わせに行ったら、大倉さんは海外放浪中で連絡が取れなくて、いないと言われてしまって。

大倉 その会議をやる頃、ラオスの奥地に行っていて、参加しようにも、全然ネットがつながらなかったんですよ。

 十年一昔と言いますけど、やっぱりネット環境も今と全然違いますからね。

大倉 ラオスにも一応ネットカフェはあったんですが、いつ行っても停電なの。だから何が起こってるのか、さっぱりわかんないままで帰ってきたんです。

 そうして、そんなラオス帰りの大倉さんにお会いしたら、顔は真っ黒、目はぎらぎらで。

大倉 歯だけ白いおじさん。

 だからちょっと怖かったです。企画書には「怒れるオヤジ」と書いてあったし、初回はおびえてたんじゃないかな(笑)。

BOOK BARで紹介する本

 毎回本を選ぶのは大倉さんと私でほとんど同時です。「大倉さんがこれを持ってきたから、私これにします」ではなく、「僕は明日これ」「私はこれ」みたいな感じで。

大倉 相手の出方を見るようなことはしていないんです。

 でも、それぞれ紹介した本は、実はお互い読んでいません。

大倉 杏ちゃんがすごくいい紹介をしていたから、俺も読んでみようという思いはお互いにあるんだよね。

 そう、あるんですけど......。

大倉 週1冊本を紹介するって、意外に大変でして。

 そうなんです。もちろん楽しいんですが、さらに相手の紹介した本も読む余裕がないですね。

大倉 そうなんですよ。自分が読んだ本を全部紹介するわけではないし、そうなるとちょっと他の本まで読むのはなかなか難しい。

 あとは、買っていたのに先に紹介されたときなども、悔しくてそのあとは読めません(笑)。

大倉 お互い何度かあるんですよね。やられちまったぜーと。

 はい。読もうと思ってたのに!という。

大倉 宿題やろうと思ってたのにーみたいな感じにちょっと近いです。

 じゃあもっと、違う本を探してやる~!となります。だから、私たちよりリスナーの方のほうが、BOOK BARで紹介した本を読んでくださっているかもしれないですね。

大倉 読んでくださっている方は多いと思いますよ。あと、リスナーの方からいただくメールで、「杏ちゃんの紹介した本がとても読みたくなりました」とあって、同じ週に紹介しているのにもかかわらず、私の紹介した本には、一切触れられていないという場合も結構あります。

 逆もしかりですよね。

大倉 あれは励みになったり、逆にくっそーみたいに思うこともありますね。

 燃えますよね。メールは本当にうれしい。

大倉 特に紹介した本を読んでくださって、その感想まで添えてくれると、皆さんが思ってるよりも、ずっとうれしいんですよ。これからもじゃんじゃん送っていただけたら!

 リスナーの方からのメールはちゃんと全部読ませていただいています。「大倉さん、これこんなことが書いてありますよ」というクロストークも裏でやっていたりします。

この10年で変わったこと

大倉 僕の場合、どんなに忙しい時期でも、本だけはずっと読んでいたんですよ。ですから生活スタイルは変わってないんですが、一応本を紹介するという仕事になって。

 ある意味、趣味から仕事になったということですよね。

大倉 はい。それで何か変わったかっていうと、あまり変わっていないんですが、さらに幅を広げたいなとは常に思っています。

 私はやっぱり子どもができて自分の生活スタイルが変わったことですね。

大倉 そうだよね、杏ちゃん、この10年の間に、ドラマや映画にもどんどん出るようになって。もうあらあらあらっていう間に、頂点にまで駆け上がってしまった。

 最初はモデルしかやってなかったので、変化が大きかったです。さらにそのあと結婚、出産を経て、本を読む時間や、読むスタイルががらっと変わりました。BOOK BARをはじめた当初はモデルのお仕事で年の半分ぐらい海外に行っていて、移動している時間も含めると、本当に自分ですることを選べる時間が多かったんですよね。空き時間というか。今となってはあのときにもっともっと読んでおけばよかったなとも思います。生活の変化を言い訳にしちゃいけないんですけど、言葉が以前より入ってこなくなってきてる自分も確かにいて。

大倉 そうなの?

 子どもと平易な言葉で話をしていると、たとえば行間の詰まった本など、これは気合入れないと、とワンクッション入っちゃう。

大倉 それはでもさ、今のそういう生活の中で読む本を選んでくればいいわけだよね。

 はい。継続は力なりじゃないけど、読む力は筋肉なので、とにかく読むことは続けようと思っています。また読む時間ができるかもしれないし、もっと時間を作っていくっていうふうになるかもしれないし。

大倉 これからの変化が楽しみだよね。

 はい、課題でもありますね。

読みたい本の見つけ方

 大倉さんは、本屋さんで本を買いますか。

大倉 もちろん本屋で見つけること、多いですよ。

 私は、本屋さんでたまに配っている出版目録とか、あと文庫とかに挟まっているやつが好きで。

大倉 杏ちゃん、目録好きだよね。

 はい。「ああ、こんな本もあった」と丸をつけて、あとで買ったり。やっぱりアナログというか、紙で見るのはいいですよね。

大倉 結局、ぽちっとやって買う本っていうのは、自分が知ってる本しか選べないわけですよ。こんな本どうぞ、とおすすめもされますが、それは自分が過去購入したものをもとに推薦してくるから、似たようなものが多いんですよね。

 確かに!

大倉 それは、本当に知らない世界には触れにくいっていうことになると思っているので、できるだけ本屋をまめに回るようにしています。

 本屋のカウンターに行くと、目録以外に解説だけを集めた小さな冊子とかあって、あれも面白いです。

大倉 面白いですね。それから、書評で気になったものは、結構読みます。週刊誌などは売れ筋の本の書評が多いんですが、新聞の書評はそうでないものも多くある。

 そうですね。あと新聞の広告も。

大倉 そうそう。気になったらメモして買ってくるということも多いですね。

本好きならではの悩み

大倉 僕の「今ここにある危機」は、僕の部屋が本で爆発したことです。

 そういう問題はありますね。

大倉 はい。それで自宅のあらゆる部屋に何十冊かずつ、そーっと置いてるんですが、そのうち絶対に家の者が怒るだろうと。

 電子書籍に変えるというのは、また違うんですよね。

大倉 違うんです。僕の場合、この辺で何か出てきたなっていう場所を、手が覚えてるんですよ。電子書籍の場合はそれがわからない。だから本を置いておきたくなる。

 これは本当に本好きの人にとっては共通の課題ですよね。

大倉 今はしょうがないから、毎月お金払って倉庫にも入れていますが、何の意味があるのかなあと。

 私は手に入りやすい、どメジャーなものは、泣く泣く手放すことにして、だいぶ減らしました。でも装丁が変わっていて、前の装丁が好きだったというような本は手元に取っておくようにするなどしています。

大倉 今、倉庫の天井までぱんぱんに詰めて30箱なんですよ。そこに入れている本も、手放したら絶対手に入らないという本だけにしています。

 大倉さんはそもそもそういう本が多いってことですね。

大倉 マニアックな本がね。

本を読むときのひと工夫

 大倉さんは以前、帯の扱いに困ってたんですよね。

大倉 そうなんですよ。

 私が帯をぱたぱたって畳んで、裏はメモ代わりにして、平たく折ってしおり代わりに本に挟んでいたら、それを見た大倉さんがすごい、いいじゃん!と。

大倉 僕はそれを見るまでは、帯は捨てていたんです。余計な情報は欲しくなかったんですよ。でも、帯でいろんな人がその本について紹介したりしているわけじゃないですか。この人はこんなことを思って帯を書いたんだなっていうのは、あとで見直すときにいいなあと思って。

 ラジオで本を紹介するとき、本来はその魅力だけを伝えるのがベストなのかもしれませんが、さらに彩るものとして、帯ではこう言っていますとか、この人もすすめてます、みたいな帯のキャッチーな情報って便利で。

大倉 便利ですよ。だから僕、あれ以来、本の帯は捨ててません。

 大倉さんの持ってくる本は、作品によっては、付箋がびっしり貼ってありますよね。

大倉 面白いエピソードが山のように入っていて、そこに貼っていくと、これ結局貼らなくても同じじゃないかっていうぐらいになっちゃうんですよね。

 もう、どこが何だかわかんないぐらいの量になっているときもあります(笑)。

大倉 どこが大事というのが、わかんなくなったりするんですよ。

 私はドッグイヤーです。ページの端をぴっと軽く折ります。

大倉 端、折ってるよね。

 はい。付箋を持ち歩くという発想があまりないですね。

大倉 ないんだ? ドッグイヤーは本を痛めるような感じがしてね。

 そうですね。でも別に売る前提じゃないので、いいかなと。

大倉 そうなんだけどね。

 でも、私も線は引きません。あえてざっくり、この辺のページ、みたいな。だから見開きどっちのページについてのドッグイヤーなのか、わからないときもあります。

大倉 なるほどね。

 あとで使いたい事柄をまた調べないと思い出せないことってあるじゃないですか。だから、言葉遣いや出来事についてとか、ちょっと調べたいことがあると、ページの下の端を折ります。いいじゃんっていう感情のほうはページの上の端を折っています。

大倉 右脳と左脳を使い分けているような、そんな感じですか。

 ですかね。事務的なものと感情的なものみたいな。

大倉 そういうルールがあったんだ。

 そうなんです、一応(笑)。

書籍『BOOK BAR』の見所

 めでたく10年ということで、念願の本になりました。私たち、もう何年もBOOK BARを本にしたいと話していて、満を持してという感じですよね。

大倉 そうだね。10年というきっかけは大きかったです。

 今回、約1000作品から、選びに選んだ50作品を掲載しています。単純な抜粋ではなく、放送から抜き出しつつ、読み物として面白くしたという感じですよね。本当に悩みました、この作業。

大倉 こんなに悩んだことって、ここ数年ない感じですよ。

 自分が面白いと思って紹介しているのだから、基本的には今まで紹介したものは全部面白い。そこからさらに面白い本を選べって言われても......。

大倉 酷ですよ。

 私は普段紹介するものもそうなのですが、この本のために選んだものも時代小説が多くて、「それとそれは時代が一緒だから削りましょう」「いや、違うんです!」というようなやり取りをみんなでしましたよね。

大倉 そういうこだわりはあったほうがいいんです(笑)。ちなみに、今回取り上げた本の中で、印象に残っているのは何ですか。

 杉本鉞子さんの『武士の娘』でしょうか。明治維新後の時代に、もともと武士の家系の女性が海外に行ったという話です。これをBOOK BARで紹介したご縁で出版社の方から連絡があって、「これのおかげで重版が決まりました」とか、「帯書きませんか」とか言っていただいて。

大倉 おおー!

 もちろん、重版が私の紹介だけによるものではないと思うんですが、紹介したことで、その作品とかかわれたのは、すごくうれしかったですね。

大倉 なるほどね。僕はあえて1冊選ぶなら、初期に紹介したヴィカス・スワラップさんの『ぼくと1ルピーの神様』です。

 これねー。

大倉 のちに、『スラムドッグ$ミリオネア』という映画になって、アカデミー賞まで取りました。

 BOOK BARで紹介したのが、その1年くらい前なんですよね。

大倉 そうなんです。僕はこの本を手に取るまで、すごく苦労をしまして。とにかく本屋にない。Amazonでもいつ入荷するかわからないと出ているから、いつ出るんだと版元に電話しちゃったくらい。

 その年のうちに、ヴィカス・スワラップさんが日本にいることがわかって、インタビューまでできましたね。

大倉 はい。ヴィカス・スワラップさん、スタジオに来ていただいて、うれしかったですね。

 これがまさかあの映画になるとはっていう。ある意味、紹介するのが本当に早すぎた(笑)。

大倉 BOOK BARで盛り上げたのが、世間には全く知られてなかったっていう本です。

 これは一種BOOK BARの伝説になっています。

大倉 伝説になんのやだなあ(笑)。

 そういった作品を私と大倉さんで25冊ずつ番組から起こしたもののほかに、第1回目の放送を聞いて2人で対談したものや、書きおろしコラムも収録しました。あと何より、今までの全紹介作品を掲載した、巻末のリストがすごいですよね。

大倉 そう。これ、もしかしたら喜ぶのは僕ら2人だけかもしれないけど、へえっと思う人は思ってくれるんじゃないかな。本によっては手書きでおすすめコメントも入れています。

 本文も、あえてジャンル分けしないで、放送順にしたんです。そのほうが面白くじっくり読んでいただけるんじゃないかなと。

大倉 みんな、ものごとをまとめがちじゃないですか。

 「泣ける本」とか。

大倉 そんな感じにしたくなかったんですよね。

 まさに「四方山話」です。

大倉 そうなんですよ。並びはバラバラではありますが、へえ、へえって言いながら、ちょっとのぞいてみて、さらには購入していただけるとうれしいですね。

 満足間違いなしです(笑)。ぜひ学校とかにも、置いていただけると。老若男女、手に取っていただきたい1冊になったと思います。

 (あん 女優)
 (おおくら・しんいちろう 旅人)

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