インタビュー

2015年8月号掲載

『なりたい』刊行記念インタビュー

ともに歩いて14年

柴田ゆう

「しゃばけ」ワールド、すべてのイラストを手がける柴田ゆうさん。可愛い、癒やされると大人気のイラストに込められた想いとは……。

対象書籍名:『なりたい』
対象著者:畠中恵
対象書籍ISBN:978-4-10-146135-9

――畠中恵さんの大人気シリーズ「しゃばけ」、第十四弾の『なりたい』がついに刊行されます。そして十四冊、全てのイラストを手がけたのは、ご存じ絵師の柴田ゆうさん。妖(あやかし)たちの声が聞こえてきそうな可愛いイラストは、シリーズの大きな魅力のひとつで、欠かせない存在! まずは「しゃばけ」との出会いを教えてください。

柴田 新潮社装幀室のデザイナーさんからお電話をいただいたのが最初です。まだ駆け出しの絵師でした。懐かしいですねぇ。お仕事のオファーをいただく時って、キャラクターやあらすじは教えていただくのですが、『しゃばけ』は、お話のラストまで教えていただけちゃって(笑)。それでも実際読み始めたら、面白くて引き込まれて、こんな楽しいお話のイラストを描かせていただけるなんて、なんて光栄なんだろうと思いました。

――最初に描いたキャラクターって、覚えていますか?

柴田 う~ん、ちょっと記憶が曖昧ですが、たぶん、一太郎と、妖は白沢(はくたく)、犬神(いぬがみ)じゃないかなと。

――鳴家(やなり)ではない?

柴田 ないです(きっぱり)。最初カバーは、一枚の絵で提出しようと思っていたんです。一太郎をセンターに、左右を白沢と犬神で固める予定でいたので、かなりかっこよく妖たちを描いたんですね。そうしたら、デザイナーさんにかっこよすぎるとダメ出しされまして……。バランスを取るのに悩んでいたら、現在のスタイルである、キャラクターごとにイラストを描いて、それをデザイナーさんに組み合わせてもらうという手法をご提案いただいたんです。それからはのびのびと描けるようになりました。最初の本が出来たときは、現物を見ても自分が描いたイラストがカバーになるなんて、まだ信じられなくて(笑)。本当に感動しました。

――この愛くるしく生き生きとした表情のキャラクターたちはどのように生み出されてきたのですか? モデルはいるのですか?

柴田 一太郎はとある若手歌舞伎役者さんをイメージしました。ただ、描いているうちにイメージがどんどん膨らんで、熟していくので、今は全然意識していません。妖は当時の絵を資料で探して、本来伝わっている姿を崩さないように心がけています。想像で描くこともできますが、やはり江戸時代に息づいた絵を守っていきたいですね。

 表情は、まさに畠中さんの文章通りに描いていると申しましょうか……。私は小説を読むと同時に、その場面が脳内で映像化されていくタイプなんです。実写のケースも、自分の絵が動いている場合もありますが、映像の一部を切り取って、イラストを描いているだけなので、畠中さんの小説が全てです。

――新しいキャラクターは、映像の中ではどう登場するのですか?

柴田 最初は?マークだったり、もやもやしていますが、背格好や着物の描写が出てくると、頭の中でしっかりと形作られていきます。どのキャラクターでもそうですが、物語を読む手助けであるべき存在だと思うので、イラストが主張しすぎないように気をつけています。

――なるほど。ちなみにどういう資料を読んでいらっしゃるんですか?

柴田 鳥山石燕(せきえん)の『画図百鬼夜行』、竹原春泉『絵本百物語』、アダム・カバットさんの著書で紹介されている黄表紙などです。色々なところからイメージをいただいています。

――たくさんのキャラクターが登場しますが、描きやすい、描きにくいというのはありますか?

柴田 描きやすいのは貧乏神の金次です。彼は骸骨なので、机の上にある骨格模型をスケッチして、着物を着せたらできあがりなので楽です。描きにくいのは、屏風のぞき……。そこそこイケメンで、憎まれっ子で、態度も大きい。なかなか手強い相手です。あと着物の柄を描くのが大変なんです。彼はなるべく締切より早い、まだ疲れていない時期に描かないと、色を間違って塗ってしまうので、危険なんです(笑)。

――一冊分を描くのに、どれくらいの時間がかかりますか?

柴田 約一ヶ月ですね。まず小説を読んで、そこからアイディアをスケッチします。それからラフを描いてデザイナーさんに提出し、OKが出たら、薄いトレーシングペーパーをラフに載せて、トレースしながら綺麗な線で描いていきます。その上に和紙を載せ、下からライトを当てて、線に沿ってペンでなぞっていきます。これで線画の完成です。カラーの場合は、厚手のトレーシングペーパーに線画をコピーして、裏から色鉛筆で色を塗っていきます。

――なんと全工程手作業! 大変ですね。ちなみにこれまでどれくらい描かれたのでしょうか?

柴田 年間百カットくらいは描いているような? 単行本だけではなく、文庫、「小説新潮」での連載、カレンダー、グッズなどありますからね。

――総枚数は数え切れないと思いますが、この十四年をふりかえって、特に思い入れがある作品はありますか?

柴田 体調を崩して、仕事の量を減らさざるを得なくなった時があったんです。色々な人にご迷惑をおかけしましたし、私自身、大きなターニングポイントになりました。復帰して最初に描いたのが『いっちばん』。なので、この作品には特に思い入れがあります。

――「しゃばけ」シリーズに携わってよかったと思った瞬間はありましたか?

柴田 たくさんあります! 書店でアルバイトをしていた時、お客さんから声をかけられたのはうれしかったです。テレビに表紙が映った時はびっくりしましたし、その後、映像化されたり、お芝居になったり世界がどんどん広がっていって、そこにも私のイラストを使ってくださって、本当に感激しました。絵師として、こういう作品にかかわれること自体がうれしいし、ありがたいし、光栄だし、絵本も描かせていただいたり、色々な経験をさせてもらいました。「しゃばけ」がなかったら今の私はありません。

――今後、どのようなイラストを描いていきたいですか?

柴田 手を動かして描くことを大切にしたいです。描いて消してを繰り返し、一本の線を見つけるような描き方はデジタル全盛の今は非効率的かもしれません。でも試行錯誤を繰り返すうちに思いがけない表現を見つけて、少しずつ引き出しが増えてここまで続けて来られたのではないかと思っています。アナログ絵師なんか必要ないと仕事を貰えなくなるまでは、端っこの方でしがみついていたいです。

 (しばた・ゆう 絵師)

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