対談・鼎談

2021年5月号掲載

映画「砕け散るところを見せてあげる」 公開記念対談

誰かの「ヒーロー」でありたいから「UFO」を探し続ける

中川大志   ×   竹宮ゆゆこ
Taishi Nakagawa    Yuyuko Takemiya

ヒーローとは何か。どんな存在か。映画「砕け散るところを見せてあげる」公開を記念し、主演を務めた中川大志と原作者・竹宮ゆゆこが、映画について、原作について、さらには自分の「UFO」について、縦横無尽に語り合った。

対象書籍名:『砕け散るところを見せてあげる』(新潮文庫nex)
対象著者:竹宮ゆゆこ
対象書籍ISBN:978-4-10-180065-3

竹宮 映画を観て、いちばん最初に浮かんだのは「勝った!」という感情で、それはなぜかというと、劇中で中川さんが演じる濱田清澄というキャラクターが走っているシーンがあるんですが、ここがもう本当に「清澄」で、彼が文字の中の存在ではなく生きている人間として見事に受肉していて、だから「この勝負(=映画化)、もらったな」と思ったんです。

中川 嬉しいです。ありがとうございます。

竹宮 私は、コメディタッチで少しオタクっぽいノリの掛け合いを書くのが好きで、自分の小説でそうしたシーンをよく入れてしまうんですが、果たして実写だとどうなるのだろう、という疑問がありました。アニメでは良い形で映像化してもらえたものの、リアルの俳優さんが演じたとき、私の文章や会話文でうまくいくのかな?と。でも、それは完全に杞憂で、清澄と友人の田丸のやり取りはすごく面白くて、ずっと見ていたい、と思えて。そこに尾崎(姉)も加わって三人で話すシーンは最高で、永久にこのシーンをループしていたいな、と思いました。映画を観ながら、何度も笑ってしまって。

中川 今回、僕の中で一つテーマがあって、それは「何もしない」だったんです。余分なものをそぎ落とし、余計なことは何もしない。これを最初に監督ともお話しして。たとえば、台本を読んで、あるシーンには「笑わせたい」ってメッセージが込められているとするじゃないですか。そうした際、僕ら役者はもっといろいろなことをしがちなんですけど、今回は基本的に余計なことは考えずシンプルにやっていきました。ワンカットの長回しが多かったですし、テンポ感みたいなものは綺麗にはまり過ぎると逆に面白くなくなったりするので、かみ合っていないことも含めて、そのままでいこう、と。

竹宮 すごく自然な面白さがありました。

中川 教室の片隅って、あんな感じじゃないですか。毎日顔を合わせている同級生とのやり取りは、温度を上げるというより、ぼそぼそ喋っていることが多くて。

竹宮 素晴らしかったです。仲の良さもにじみ出ていて、クラスにいる男子の面白さって、これなんだろうな、と思いました。ちなみに、演じられて大変だったシーンはありますか。

中川 それはやはり......水系、ですね(笑)。

竹宮 ああ......水系。川とか沼とか、出てきますからね(汗)。

中川 実は、川のシーンは死んでもおかしくないぐらい流れが速くて、僕は水中で命綱をはって、そうしないと本当に流されてしまう勢いで、さらに、アクションチームの方々が僕が流されたとき受け止めてくれるよう、下流で待機していてくれました。

竹宮 伺いながら、ご本人がやるものなんだ......と驚いています。

中川 確かに、スタントさんがやることも多いのですが、結果的に僕は丸一日、川に入っていました(笑)。

竹宮 無事に帰還されて、本当によかった。よくぞご無事で。

中川 前々日ぐらいに大雨が降って、流れがとても速い日だったんです。実際のシーンの雨は撮影用に降らせているんですけど、流れはほんもので。

竹宮 リアル濁流(笑)。

中川 まさに(笑)。でも、あのシーンは流されている中でも何度も果敢に潜っていかないといけない。そして、止められるだけ息を止めて、上がって、また潜って、を繰り返す。本当に大変でした。車もぐちゃぐちゃにしましたし、とても大がかりなシーンだったと思います。

中川さんの「クロス」

中川 竹宮先生にお目にかかったら伺ってみたかったのですが、この『砕け散るところを見せてあげる』は、どういう経緯でご執筆されたのですか。

竹宮 私は小説を書くときはいつも悩むタイプで、一か月も二か月も悩んで、なかなか書き出せず、その果てにプロットを出すんですが、この作品だけは違って、「あっ、この話を書こう!」と、突然アイデアが降ってきたんです。物語がどーんと降りてきて、すぐにプロットを作って、担当さんに見せて。書きたくて書きたくて仕方がなくて。執筆中はこの話の続きが書きたくて朝目覚めるぐらいの気持ちで。そうやって書いた小説なので、実のところ、なんでこの話を書いたのか自分でもわからないんです(笑)。

中川 そんなことがあるんですね......。

竹宮 他の作品を書いた後は、出てくるキャラクターに関して「彼はこの後に......」とか「彼女が成長すると......」とか、続きを書くわけではないのに考えてしまうことがあるんですが、この作品に関してはそうしたことが一切なくて。書きたいことを全部書き尽くした、という納得感が自分の中にあります。異質な小説です。

中川 初めて本を手にしたとき、まずタイトルの『砕け散るところを見せてあげる』が目に入って、「どんな話なんだろう?」と思ったのを覚えています。

竹宮 一体、何をだよ?って感じですよね(笑)。

中川 「見せてあげる」って、基本的には自分ではない誰かが言っているわけじゃないですか。その時点で興味を掻き立てられて、いろいろ想像しながら読んだんですけど、まず日常のコメディの部分が絶妙ですよね。絶妙なゆるさと、絶妙な空気感。そして、そこから一気に、ガンッと話で落とされる。日常と非日常が隣り合わせになっていて、でもだから、ショッキングなシーンがあっても、それが唐突じゃない。自然な流れで、ひとつの世界で、学校での、町での出来事として、物語がある。そういうところが、僕は好きでした。

竹宮 ありがとうございます。中川さんが「絶妙」と言ってくれたまさにそれを、今回の映画で最高の形で演じてくださっていたと思います。特に、中川さんが「クロス」って言われるシーンがあるじゃないですか。どうでもいいギャグのシーン。元は自分で書いたものなのに、私はもう何度も何度も「うふふ......クロス」と笑ってしまいました。

僕は清澄に似ている

中川 僕は主人公の清澄にすごく共感できる部分があって、彼は玻璃を救う「ヒーロー」であろうとして全力で「UFO」に立ち向かうわけですが、僕自身、学生時代からずっと「その他大勢になりたくない」という気持ちがとても強くて、たとえ周りの流れに逆行していても別にいいや、というタイプでした。だから彼の心情はわかるし、実際に清澄のようなことができるかについては安易に言えないのですが、僕も人に世話を焼きたいタイプですし、杏奈ちゃんの玻璃には、守ってあげたい、きゅんとなる気持ちがあって。

竹宮 後半の玻璃の佇まいには、胸を締め付けられるようなところがあります。石井杏奈さん、素晴らしかった。中川さんは「清澄に似ている」ということですが、実際はどんな生徒だったのですか。

中川 「他と違っていたい」という感情は小学校の頃からありましたね。たとえば、運動会のダンスのようなもので、和太鼓を叩ける役が一人だけあると「やりたい!」と手を挙げて、全員をまとめる立場になったり、授業参観があれば司会を率先してやったり。たぶん、目立ちたがり屋だったんです(笑)。

竹宮 それはヒーローに通じる感情なんでしょうか。

中川 うーん、そうですね。とにかく、人と一緒が嫌だったんです。みんなが使っている筆箱、みんなが見ているアニメ、みんなが好きなキャラクター。そうやって人と被るのがとにかく嫌だった。逆に「あいつがやっているから、アレいいな」って言われたくて。

竹宮 流行に乗る人ではなくて、流行を作る人になりたかったんですね。

中川 そう、作る人。そうです。

私のUFOは

竹宮 さっき中川さんも触れてくださいましたが、この作品には「UFO」というものが象徴的に出てきます。中川さんにも「UFO」ってありますか。ちなみに私のUFOは「次は何を書くんだ?」とずっと囁いてくるんです。それは物理的な力としての締め切りとかと一緒に(笑)。

中川 僕のUFOですか......なんだろう(笑)。強いて言うなら「作品」ですかね。それは映画でもドラマでも、何でもそうなんですけど、良いと思っても全然届かなかったり、逆に自分としてはあまり納得がいっていないものが思いもよらず上手くいったり。現場にいる人もいろいろで。作品の全貌って、やっぱりわからないんですよね。さらにその中で演じる自分には、誰も答えを教えてくれない。得体が知れない。だから、自分で何かを見つけていくしかない。

竹宮 でも、中川さんは常にそれを、作品を、「やりたい」んですよね。

中川 やりたい。この映画を観た方が「UFOって何だろう?」と思うように、作品がどうやって生まれて、どこに飛んで、どのように着地するのか、僕を含めた誰にもわからない。もっと言えば、誰が乗っているかもわからない。その人たちとうまくいくかどうかも。でも、だからこそ、乗りたくなるし、知りたくなるんだと思います。

竹宮 きっと、中川さんのUFOは、中川さんが演技から離れると攻撃してきますね(笑)。「お前は次、何をやるんだ?」という質問(攻撃)を、絶えずしてくる。

中川 その問いがあるから、次も乗りたくなるのかもしれません。何より、楽しいですから、演じることが。

竹宮 それはもう、業......ですね。

中川 はい、業です(笑)。

竹宮 私にとっての小説も同じで、だからどんなに苦しくても、怖くても、書くのをやめられないのだと思います。今日はたくさんお話ができて、楽しい時間でした。ありがとうございました。

中川 ありがとうございました。


 (たけみや・ゆゆこ 作家)
 (なかがわ・たいし 俳優)

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