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書評・エッセイ

ソウリノオンナシンチョウシンショ総理の女(新潮新書)

福田和也

858円(税込)

教科書には絶対載らない宰相たちの素顔。明治維新から昭和の敗戦まで――日本近現代史の真実。

その選び方をよくよく見れば、総理の器が知れてくる――伊藤博文から東條英機まで、10人の総理の本妻・愛妾を総点検。恐妻家が過ぎて妻の銅像を建てようとした大隈重信、先立った妻と6人の子を生涯愛した山縣有朋、縁を切るために札束を並べた桂太郎、不義を犯した妻を捨て芸者を選んだ原敬、前妻と継子を追い出した猛妻の尻に敷かれた犬養毅等、教科書には絶対出てこない、指導者たちの本質が浮かび上がる。

総理の見栄と誠実と寂しさと

福田和也『総理の女』

福田和也

 現総理大臣夫人、安倍昭恵さんのお騒がせぶりは、驚き、あきれ、怒りを通り越し、今では感心の域に達している。
 基本的に昭恵さんは善意の人であり、世の中にとって、善いことをしたいと考えている。居酒屋を開くことも、大麻の栽培を手伝うことも、森友学園を助けることも、彼女にとっては等しく善意の行動なのだ。
 一主婦が見当違いの善意を行ってもさほど影響はないだろうが、総理大臣夫人となると事は重大である。国会では野党が昭恵さんの行動を追及して重要法案の審議もままならぬ状態となり、安倍政権の根幹をも揺るがす事態に陥った。
 しかしながら、これだけの長期政権となったのは、お騒がせな妻を忍耐し守り続けている安倍総理への国民の同情の現れなのかもしれない。
 こんな書き出しをすると誤解を受けそうだが、『総理の女』は安倍昭恵さんについて書いた本ではない。
 日本に内閣制度が創設されたのは、明治十八(一八八五)年。今から百三十四年前のことである。以来、現在にいたるまで六十二人の総理大臣が誕生している。
 総理大臣には、各大臣の首班として大政の方向を指示し行政の各部を統督する、という強い権限が与えられている。総理一人の力で国を動かしているわけではないが、総理の考えと行動が国の進路を決定してきたことは確かである。
 歴代総理の政治的な表向きの顔については、これまであちこちで書き、『総理の値打ち』なる本も上梓した。
 しかし、彼らはどんな人間だったのだろう。
 それを知る重要なファクターは女性である。
 この本では、十人の日本の総理大臣を取り上げ、彼らがどのような妻を娶ってどのような夫婦生活を送り、どのような愛人たちとどのような関わりをもったかに焦点をあてた。
 結果、意外な顔が浮かびあがってきた。
 病的ともいうべき好色で掃いて捨てるほどの女と関わりながら実は天子様と同じくらい妻を尊敬していた伊藤博文、権力欲が強く嫌われ者の山縣有朋が愛人に見せた優しさと誠実、糟糠の妻を捨ててトロフィーワイフを娶った「民衆政治家」大隈重信、誰にでも愛想のいい「ニコポン」桂太郎の愛妾への冷たい仕打ち、「憲政の神様」と称えられながら猛妻に全く頭が上がらなかった犬養毅、戦争における悪の代名詞ともなった東條英機の善良な家庭人の顔......。
 残念ながら安倍総理は取り上げていないが、こうしたテーマで書いてみようと思い立ったのは偏に安倍総理夫人のお蔭である。この場を借りて、御礼を申し上げたい。

 (ふくだ・かずや 文芸評論家)

福田和也『総理の女』978-4-10-610811-2