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書評・エッセイ

ウチュウノハシャベゾスヴァーサスマスク宇宙の覇者 ベゾスvsマスク

クリスチャン・ダベンポート 著/黒輪篤嗣

2,530円(税込)

無敵の経営者はなぜ宇宙を目指すのか? インターネット後の覇権を賭けた闘い。

テクノロジーの力で世界を変革してきた二人の傑物、アマゾンのジェフ・ベゾスとテスラのイーロン・マスク。彼らが人生を賭けた挑戦の舞台に選んだのは、冷戦終結後に目標を見失い停滞する宇宙産業だった。人類最後のフロンティアに挑む二人の熾烈な競争と、彼らの参入で新たな黄金時代を迎える宇宙開発の最先端を描き出す。

二人の「変人」が宇宙と地球のあり方を変える

――クリスチャン・ダベンポート『宇宙の覇者 ベゾスvsマスク』

藤吉雅春

 本書『宇宙の覇者 ベゾスvsマスク』を読み始めてすぐに頭に浮かんだのは、昔、教科書で見た「人類の進化図」だった。猿が二本足で立ち、猿人が原人になり、ホモ・サピエンスになっていく。子供の頃はこう思ったものだ。空腹に耐えられない猿が危険を承知で木を降りて、大地を歩き、移動を始めたのではないか、と。
 しかし、イーロン・マスクとジェフ・ベゾスの二人を軸に描かれるこの本を読むと、空腹が進化に繋がったのではなく、木を降りた猿は「群れることができない者たち」だったのではないかと思えてくる。なぜなら、この本がインターネット登場後の「社会の進化図」を描いているように読めたからだ。
 インターネットについて、イーロン・マスクは「人類に神経系を与えるようなもの」と言い、「人間の本質を根底から変えるもの」と述べている。言うまでもなく、ウェブは「時間」「距離」といった制約から人間を解放し、技術の進歩を加速度的に高速化させている。
 だからこそ、ウェブ事業で巨万の富を得た者たちにとって信じがたい事実が、宇宙計画の現状だった。アポロの月面着陸と国際宇宙ステーションの実現以降、遅々として進化をしていない。ウェブの進化を体現して旧来の産業を破壊した者たちにとって、「驚愕」の遅さである。その原因は、宇宙を国家の独占領域にしているからだと彼らは考えた。民間の参入により低コスト化を実現させ、インターネットのように起業家を爆発的に増やしたい。そんな信念から彼らは21世紀に入ると宇宙事業を開始した。その宇宙を巡る、予想外の泥臭いドラマがこの本の題材である。
 引き合いに出されるのが、「リンドバーグの大西洋横断」だ。この本に書かれていないことを少し補足すると、大西洋横断に成功した者には賞金を出すと言ったのは、ニューヨークのホテル業界だった。移動手段に革命が起きれば、観光産業は規模が大化けする。そして、挑戦に名乗りをあげたリンドバーグは、今でこそ歴史的英雄だが、偉業を達成する前は「大言壮語の頭のおかしな男」と見られていた。世紀を超えて、宇宙事業を始めたこの本の登場人物たちもまた、変人揃いである。ただそれは、群れの中で生きようとする私たちから見ると「変人」だが、「進化」という長い視点で考えると、必要な「変人」ではないかという気にさせられる。
 オンライン決済システムで成功を収め、31歳で純資産1億8000万ドルの億万長者になったマスクは、子供の頃、いじめられっ子だった。マスクと犬猿の仲で、宇宙ロケット企業「ブルーオリジン」を起ち上げたアマゾンのジェフ・ベゾスは「寡黙な秘密主義者」だ。そして、マイクロソフトの共同創業者、ポール・アレンが出資する宇宙船「スペースシップワン」の事業を引き継いだのが、英ヴァージン・グループのリチャード・ブランソンである。彼も落ち着きのない派手好みのクレイジーとして有名だ。
 この本を映画のように面白くしているのが、マスクとベゾスのライバルのドラマである。何度もロケットの爆発事故を起こして失敗を繰り返すマスクは、イソップ童話の「兎と亀」の兎に例えられている。マスクの「スペースX」は、「突き進め。限界を打ち破れ」を合言葉にしており、NASAと契約する大手企業を「一部の企業が独占するな」と訴える。敵は巨大企業群だけではない。ライバルのベゾスをツイッターで口撃し、事故の際には「何者かが狙撃したのではないか」と、背景に陰謀があると疑う。宇宙業界から「きゃんきゃん鳴く小犬」と見られていたマスクだが、失敗しても挑戦を繰り返す姿に多くの人が共感していく。
 ベゾスはマスクと好対照だ。2003年、テキサス州でベゾスを乗せたヘリが墜落する。なぜベゾスはヘリに乗り、辺鄙な土地にやって来たのか? その謎解きから物語は始まる。目立つのを好むマスクとは逆に、密かに宇宙事業を始めていたベゾスは、「ゆっくりはスムーズ、スムーズは速い」という格言を好む。ドラマチックだったのは、ベゾスの生い立ちだ。少年時代に祖父母の牧場で過ごした話は有名だが、その祖父の正体がドラマのなかで明かされていく。寡黙な少年にとって、祖父の存在は大きかっただろう。
 想定外の展開を見せるエピソードとともに、読者を歴史の目撃者にさせてくれる。そして、日本にもこんなドラマがあればいいのにと切に思わせる本である。

 (ふじよし・まさはる Forbes JAPAN編集長代理)

クリスチャン・ダベンポート著/黒輪篤嗣訳『宇宙の覇者 ベゾスvsマスク』978-4-10-507081-6