インタビュー

2018年9月号掲載

『夜の側に立つ』刊行記念インタビュー

夜のすべて

小野寺史宜

対象書籍名:『夜の側に立つ』
対象著者:小野寺史宜
対象書籍ISBN:978-4-10-121153-4

夜のはじまり

『ひりつく夜の音』(2015年9月刊)が出てすぐくらいの打ち合わせで、次は凝った構成のものでいきましょう、ということになったんです。打ち合わせを何度か重ねて、プロットを出して、そのときには物語の根幹は完成していたように思います。
 主人公(野本了治(のもとりょうじ))の、十代、二十代、三十代、そして四十歳になっている現在、四つの時代の一人称で書き進める。過去に三つの悲劇があって、物語が進むと、悲劇がなぜおこったのか、それによって人生がどんな風にかわったのかが浮かび上がってくる。ただ、冒頭においたエピソードは、プロット段階では見えていませんでした。打ち合わせを繰り返しているうちに、ああ、前からいつか使ってみたいと思っていた、ボート転覆のシーンをここに入れられる、と。実際に、河口湖で友人のボートが転覆したことがあって、ずっと記憶に残っていたんですね。肝になる場面を思いついたときに、ああ、これはやったな、いいものができるなと思いました。全体像ができて、2016年の10月に書き始め、12月8日に第一稿、四百三十六枚のデータを編集者に送りました。

夜の書き方

 むかしから同じやり方なんですよ。まずは、B5のノート(三十枚/六十頁/五冊で二百五十円くらい)にシャープペンで(以前はボールペンで書いていたが、二本に一本はノートの紙粉を吸い込むためか途中でインクが出なくなる現象におそわれ、断念)手書きで下書きをします。文法や接続詞のことはあまり考えず、消しゴムも使わず、書き進めます。紙一枚(二頁)で、四百字詰め原稿用紙六枚くらいの分量になるんです。一日でノート四枚、原稿用紙でいうと二十四枚書きます。最後まで、下書きの状態で書き上げるんです。
 下書きが終わったら、パソコンで本書(ほんが)き(清書)するんです。本書きのときは、一日ノート三枚分。推敲しながら、清書をします。これも前から変わっていないんですけど、たまに、この文字、読めない......、という困難にもぶつかりますが、そこはがんばって乗り越える。打ち込んだあとにも、推敲します。それで、一日のしめくくりに、清書した分のノートを手でびりびりと破って(過去にはシュレッダーを使っていたこともあったが、すぐに機械が熱くなって、しばらくお待ちください状態になるため、断念)ゴミ箱に棄てる。全部清書し終えたら、パソコンのディスプレイ上でまた推敲して、納得がいったら印刷します。そこでまた推敲をして、データを修正し、その段階で編集者に提出します。修正の提案をいただいたら、考えて、データを修正し、打ち出してまた推敲します。推敲が好き、というわけではないんですけど、重視はしていますね。整えたい、という気持ちが強くて、自分の納得のいく推敲ができていないと落ち着かないんです。
 登場人物の名前は、さいしょから全部決めます。アイデアを編集者に出すときに、もしかしたら小説には出てこないかもしれない人物の名前まで決めています。なるべく、印象の似ている名前は使わないようにしようとか、名前の持つイメージの強すぎるもの、たとえば有名人や知人の名前は使わないようにしようといった命名のルールも作っています。これまで小説で使った名前は、全部メモもしています。正直、もう名前のストックがなくて、本当に困っています(笑)。
 おもしろいもので、名前、年齢そして職業を決めると、そこからストーリーが広がったりもするんです。物語の筋はまったく決まっていないのに、二十人くらいの名前を決めて、さてどうしようと考え始めると、プロットがみえてくることもあります。

夜のおわり

 本筋のストーリーとは別に、書きたいことがいくつもありました。たとえば、青春時代と大人になったときの社会的なポジションの変化。高校生のときには誰からも尊敬されるような、学校でトップクラスにいた人が、偶然なのか必然なのかはわかりませんが、社会人になってクラスメートに追い越されてしまっている。その切なさについて。もうひとつ、高校時代、憧れのこの人と仲良くなりたいけど、でも仲良くはなれないだろうな、人としての相性としては無理だろうな、とあきらめてしまう劣等感。人間と人間の、考える必要はないかもしれないけれど確かにある微妙な関係性について、感じてもらえたら、これほどうれしいことはありません。
 いちばん書きたかったことは何だ!と質問されたら、『夜の側に立つ』は、なが~い青春、のおわり、ではなくて、なが~い、青春のおわり、を描いた小説です、と答えるのが正解だと思います。主人公の二十二年をかけての「青春のおわり」、を描いたものなんですね。十八歳の四月にバンドやろうぜ、と声をかけられ青春がはじまり、それが八月の夏休みにおこった悲劇によっておわりがはじまり、四十歳になってやっと、おわりがおわる。何年かけて、おわらせてんだよって話ですけど(笑)。

 (おのでら・ふみのり 作家)

最新のインタビュー

ページの先頭へ