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書評・エッセイ

2018 Summer Special
My Favorite Shincho Bunko Best5

わたしの選んだ「新潮文庫」5冊

今年の夏も「新潮文庫の100冊」を全国展開中ですが、
しかし新潮文庫は100冊のみにアラズ。
むしろ100冊のうしろにスゴい隠し玉があるとも言え……。

学生時代の夏休みに読みたかった5冊

朝井リョウ

●タダイマトビラ 村田沙耶香著
●黄色い目の魚 佐藤多佳子著
●数学する身体 森田真生著
●その日東京駅五時二十五分発 西川美和著
●楡家の人びと(第一部〜第三部) 北杜夫著

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 夏休み。それは不本意な同調や共感に侵された教室から脱出し、自分だけの物差しを磨くことができる時間だ。『タダイマトビラ』を始めとする村田沙耶香作品は、他人の視線とは無縁の世界にある。この本の中でだけ深く呼吸ができるあなたのための一冊だ。
 夏休み。それは理由がなければ会えなくなるあの人をもっと好きになる時間だ。『黄色い目の魚』を始めとする佐藤多佳子作品は、自分が生きる世界への好意をぐっと上げてくれる。海辺の町に暮らす二人の高校生の物語は、夏休みを早く通過してしまいたくなるほど学生生活への愛しさを膨らませてくれる。
 夏休み。それは行う意義すら分からない宿題の数々を突きつけられる時間だ。『数学する身体』を読んだあなたは、数学という、身体的な感覚から最も遠いように感じられる教科を全く違うものとして捉えているだろう。世界を見つめる視点を増やすこと自体が、大切な学びである。
 夏休み。それは戦争という言葉を聞く機会がどっと増える時間だ。『その日東京駅五時二十五分発』の、"戦争のさなかにいながら疎外感を抱く自分"に罪悪感を抱く主人公の姿は、戦争に関する報道を上手に受け止められないあなたを決して責めない。
 夏休み。それは大人になるとなくなってしまう数百時間だ。全三巻に亘る『楡家の人びと』を一気読みするにはもってこいである。何を隠そう未だ読み終えられていない私は、学生時代の夏休みにこの作品に出会っていれば、と、今でも何度も思う。

 (あさい・りょう 作家)

村田沙耶香/佐藤多佳子/森田真生/西川美和/北杜夫『タダイマトビラ』/『黄色い目の魚』/『数学する身体』/『その日東京駅五時二十五分発』/『楡家の人びと(第一部〜第三部)』978-4-10-125712-9/978-4-10-123734-3/978-4-10-121366-8/978-4-10-126471-4/978-4-10-113157-3 978-4-10-113158-0 978-4-10-113159-7