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書評・エッセイ

厄介な親を持つすべての人へ

水島広子『「毒親」の正体 精神科医の診察室から』

水島広子

「毒親」という言葉をご存じだろうか。初めてフランスの精神科医マリー・イルゴイエンヌによって紹介されたのが1989年、日本では『毒になる親』が99年に刊行された。それまでの「どんなに酷い親でも、子どものことを考えている」という「常識」を根本から覆す概念として広がり、「毒親育ち」などの言葉も知られるようになった。
 私自身は、トラウマ関連障害の患者を診ることが多いため、これぞ「毒親」という人も見てきた。
「毒親とは縁を切るしか生存の道がない」と言う人もいる。確かにそういう「真正」の毒親は存在する。世の中から凶悪殺人犯が消えないのと同じように、親になったからと言って誰もが子どものためを思って穏当な行動をとるわけではない。
 そもそも、親は免許制でもないし、児童相談所が介入でもしない限り、子育ては「自由に」行われる。親が考える「正しさ」を子どももそうだと思い込んで。そして、子どもは成長するにつれ、だんだんと「自分の家はおかしい?」と思うようになるが、それを隠す傾向にある。恥ずかしいから、ということもあれば、誰かに知られたときに何が起こるかわからないという不安もある。そもそも、最低限の安心を与えてくれるはずの親から安心を得ていないのだから、「誰かに話せばきっと助けてくれる」などという人間への信頼は育たないだろう。
 一方で、「毒親とは縁を切るしか生存の道がない」と言われ、長い間離れていたという人の場合、親は単に発達障害を持っている、ということが少なくない。子どもがそれまで抱えてきた「うちの親は私よりも世間体が大事」とか「親は自らの癒やされていないトラウマを私にぶつけてきている」と言った高尚な推論は、実は親が発達障害であるために、一つのことに意識が向いてしまうと他が見えなくなる、というだけのことだったりすることの多さを、臨床で気づいてきた。
「毒親」の本は、とてもデリケートだ。私も原稿を書き終えてから2年近く、刊行を迷ってきた。全員が正確に拙著を読み取ってくれればよいが(例えば、決して全ての毒親を分類、網羅するつもりなどない、という真意など)、そうでなければ人を傷つけることにもなってしまう。
 それをできるだけ防ぐため、いろいろと工夫をして誕生したのが本書である。本書によって、様々な角度から親との関わり方を考えていただければ何よりであるし、無条件の愛を親に対して持って生まれてくる子どもたちが、発達障害などの特徴を知ることで、「自分は愛されていなかったわけではないのだ」と、自己肯定感を回復してくれること、そして一生懸命育てたのに「毒親」と呼ばれるのはなぜ? と悲しい気持ちでいる親に指針を与えることを心から祈る一冊である。

 (みずしま・ひろこ 精神科医)

水島広子『「毒親」の正体 精神科医の診察室から』978-4-10-610756-6