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書評・エッセイ

ノウハカイフクスルコウジノウキノウショウガイカラノダッシュツシンチョウシンショ脳は回復する―高次脳機能障害からの脱出―(新潮新書)

鈴木大介

902円(税込)

「元の自分を取り戻す。」絶望するのはまだ早い――脳梗塞からの奇跡の回復を描く、感涙と抱腹の当事者手記。

41歳で脳梗塞を発症。リハビリを重ね、日常生活に復帰した「僕」を待っていたのは「高次脳機能障害」の世界だった! 小銭が数えられない、「おっぱい」から視線が外せない、人混みを歩けない、会話が出来ない、イライラから抜け出せないの「出来ないこと」だらけに加えて、夜泣き、号泣の日々。『脳が壊れた』から2年、著者はいかにして飛躍的な回復を遂げたのか。当事者、家族、医療関係者、必読の書。

脳に苦しみを抱える全ての人へ

鈴木大介『脳は回復する 高次脳機能障害からの脱出』

鈴木大介

 脳梗塞を発症して高次脳機能障害(以下高次脳)の当事者となってから二年九カ月経った。一冊目の闘病記である前著『脳が壊れた』発行からもおよそ二年、改めて思うのは、「見えない障害」と言われる高次脳が、想像以上に見えづらく理解されていないということ。脳梗塞をはじめとする脳卒中は今や国民病で、高次脳は誰にも訪れるリスクのある障害だから、医療機関や各自治体の地域支援の現場からも様々なパンフや資料が出ているが、当事者からすると心細いものが多い。例えば資料の多くから抜けていることを、あくまで当事者としての僕が書いてみようか。
・高次脳は脳卒中後の「ほとんどの人」に多かれ少なかれ残る。身体にマヒが残らなくてもである。
・高次脳は障害の重さにかなりグラデーションがあり、特に軽度のものの多くは医療機関や家族や本人自身にすら見逃されたまま。身体のリハビリ終了と同時に「もう大丈夫でしょう」と社会生活や家庭生活に復帰してしまっているケースが多い。
・軽度のケースでも、病前通りの社会生活に復帰する中で、大きく困難を伴う場合が多い。
・現状の保険適用の医療サービスや地域支援は軽度の高次脳のリハビリや日常復帰のためのケアをカバーできていない状況にある。
 書いていたらきりがない。けれど最も残念なのは、この一言が書かれていないことだ。
〈多くの脳卒中後の患者が「障害の回復は半年が勝負で、そこからの回復はあまり期待できない」との説明を受けるが、それは身体のマヒについての説明で、高次脳機能は遥かに長い五年十年といった時間をかけて、ゆっくり回復が期待できる〉
 そう、高次脳は回復する。残念ながらそうでない重篤なケースもあるが、そこには絶望ではなく希望がきちんと残されている。不安の中にある当事者に届ける資料に、この大事な一言が抜けているのは残念でならないが、それほどまでにも見えづらくわかりづらい障害だからなのだろう。
 実際、注意障害だとか遂行機能障害だとか、高次脳で起きる○○障害は数あれど、それによってどう不自由でどう苦しいのかは当事者によって千差万別。僕の場合は聴覚に問題がないのに人の話が聞き取れなくなり、言葉の理解も声の発声もできるのに上手に話せなくなった。
 ならばどうする? 二冊目の闘病記『脳は回復する』では、病後の僕が病前通りの日常に復帰するにあたって「何ができなくなっていてどのように苦しかったか、そのできない理由はどんな障害で、どうすれば対策できたのか」に焦点を当て、より掘り下げた。高次脳のみならず、認知症や発達障害や、うつ病などその他の精神疾患全般の当事者にも発見のある一冊を目指したので、多くの当事者と支援者に救いの一冊となることを望む。

 (すずき・だいすけ 文筆業)

鈴木大介『脳は回復する 高次脳機能障害からの脱出』978-4-10-610754-2