対談・鼎談

2017年5月号掲載

『ライムスター宇多丸の映画カウンセリング』刊行記念対談

そうだ!宇多さん、スーさんに聞いてみよう

ジェーン・スー × 宇多丸

寄せられた難問・珍問に、相談マスターの二人はどう答える?

対象書籍名:『ライムスター宇多丸の映画カウンセリング』
対象著者:宇多丸
対象書籍ISBN:978-4-10-101871-3

宇多丸 今回、私が本を出しまして。

ジェーン・スー おめでとうございます。

宇多丸 すみません、恥ずかしながら。『ライムスター宇多丸の映画カウンセリング』という、相談者の悩みに映画を使って答えるという本なんですけども。それで、皆さんよくご存知な相談スキルを持つジェーン・スーパイセンに学びたいなというのもあって......。

スー パイセンとかやめて下さい(笑)。宇多丸さんの方が先輩なんですから。

宇多丸 それで今回、来場者の方々から事前にお悩みを頂戴したんです。でもスーさんによると、回答は全て二種類に収斂されていくという。

スー 怒られるわ!

宇多丸 いいよいいよ。みんな気が楽になると思うので言っちゃって下さい。

スー そうですか? まず、一つ目は「ヒマだから」(笑)。

宇多丸 そんな悩みが出てくるのは、あなたがヒマだからだ、と。もう一つは?

スー 「それは悩みではなく、あなたのワガママです」。

宇多丸 どっちも結構バッサリ(笑)。

スー 悩んでるふりをして、我を通したいだけっていう方が結構な数いまして。

宇多丸 何で私のこの思い、わかってくれないの?と。なるほどね。今回の回答はその二つということで。

スー いや、終わっちゃったじゃないですか(笑)。ちゃんとやろう、ちゃんとやろう。まず最初のお悩みです。

 四〇代、男性。何かにつけて正解を求めてしまいます。仕事の進め方、息子の叱り方、パブリックスペースでの振る舞い方等々。私の行動はこれでいいのかと常に不安になります。

スー これけっこうわかります。

宇多丸 子育てなんか特に、正解がないって頭ではわかっていても、皆さん悩まれているだろうなと。

スー 正論としては「正解というのはなくて、自分が選んだものを自分で正解にしていくしかないんだよ」と私はいつも言っています。

宇多丸 第三者の意見をもらうような機会はないんですかね。

スー それもまた、誰に聞くかによるから難しい。

宇多丸 そのチョイス自体が、誰に聞くのが正解なのかってなるよね。

スー 正解地獄ですよ!

宇多丸 だから複数の人に聞けばいいじゃんって。そうするとだんだん、あいつの正解とこいつの正解が全く違うじゃねえかみたいになってきて、世界の認識が雑になっていく。

スー そうですね。人それぞれ、正解は違うんだって。

宇多丸 そう。もう一つ万能回答がありました。「人それぞれ」(笑)。程度によりますけど、何が正解か、考え続けているって悪いことじゃないんじゃない?

スー ある程度までだったら健全ですよね。これが正しいのか、あれが正しいのかっていう、いろいろな視点を持っているということですもんね。

宇多丸 例えばパブリックスペースで子供がマナーに反する行動をしてたりしますけど、俺、そういうときにどうすべきか、それこそすごい悩むんですよね。

 前に、銀行のATMの床で、知らない子供がおもちゃの車で遊んでたことがあったんですよ。さあどうしようかと。他の人たちもかわいいねって甘やかしてて。まぁいいかなと思ってたんだけど、そのうちその子が調子に乗ってきて、全然関係ない人のATMの機械の足元に入ってじゃれつき始めたわけ。

「今、おまえは一線越えた!」と(笑)。ここは顰蹙を買うかもしれないけど言うべきだと思って、「坊や、もうお兄ちゃんなんだからさ、もうちょっと格好よくいけるでしょう」と言ったんですよ。頭ごなしに叱るんじゃなくて、すごく配慮した僕なりの"正解"を。そしたら、恥ずかしそうにして止めてくれた。ただ、その子のお母さんは何も言わないんです。「すみません」もなし。何なら「はあ? 何介入してきてんの」みたいな。そんぐらいのバイブスを出してきているわけ。俺は、いや、日本の未来を考えたらこれが正解なんだ。俺が言わなかったら「マッドマックス」みたいな世界になっていくんだ!と心の中で(笑)。

スー 逡巡があったとして、そこで思い切るっていうことも大事ですね。

宇多丸 そうそう。ただ、公共の場でガキが騒ぐのは許さんとか、そういう正解の決めつけもよくないし。難しいなと思いながら行動しましたが、その難しいなと悩むぐらいがいいのかなと。

スー 仰るとおり。これが正解だって過信していることの方がよっぽど怖いです。

宇多丸 そうですよね。決めつけるんじゃなければ、正解を求めるのはいいんじゃね? ということでいかがでしょうか。

 四〇代、女性。独身です。先日あるライブで、ボーカリストの若々しさ、荒々しさに心を奪われ、すごく興奮してしまいました。子宮がうずいたというか、このまま枯れたくない、まだ女でいたい。しかし、男性から誘われることがなくなりました。かといって何をどうしたらいいのかわかりません。いざというときに雌豹になる方法を教えてください。

宇多丸 いや、すごいなぁ(笑)。

スー いいですか、ガツンと言っちゃって(笑)。「子宮がうずく」とか「雌豹になる」とか書いてるけど、本当はそんなこと思ってないでしょ! ちょっと前の世間が考える、世間に気持ち悪がられるババアのスペックみたいのを、あえて自分でつけちゃってるような気がする。たぶんもっと違う感情があるはずなのに、先に自分を落として、責められないようにしているというか。

宇多丸 もう一回青春したくなりました、それ自体はいいのに、何かそこで「子宮がうずき出した」、ウヘヘッ。

スー そう。ウヘヘッみたいな(笑)。キモキモババアでござるみたいな。男性にしても女性にしても、世代ごとに何かステレオタイプのキャラクターってあるじゃないですか。それをみんなやりすぎなんですよ。特におばさんは多い。

宇多丸 意識的にせよ無意識的にせよ、そのイメージに合うように行動し出しちゃう。

スー 特に四〇過ぎた女は、「ばばあでござい」みたいな人か、絶対にばばあなんて言わせない!っていう二手に分かれがち。中道ばばあがいないんですよ。

 友達同士で「私らばばあのくせにウヒヒ」とか言っているのは別にいいと思うんですけど、それを自己規定としてしまうと、思考停止だと思うんですよ。何かもうちょっと......素直な気持ちはどうなの?って。別に四〇過ぎて恋愛したって誰にも迷惑かけないじゃん。

宇多丸 四〇なんてまだ若いですしね。ちなみにこの方は「誘われることがなくなりました」と仰ってるけど、アラフォーになって、出会いとか、いい塩梅の男はどう見つけたらいいですか。

スー うーん、私、恋愛に関しては大間のマグロ釣り戦法なので(笑)。冬の凍てつく海に竿を一本だけ持っていって、魚群探知機も使わずに勘だけでシャーッと。一年に一本釣って三〇〇万、それで暮らしていくみたいな。

宇多丸 参考になるのかな、この例え。

スー モテる人って、トロール船なんですよ。大きい網を腰につけて、ずーっと深海を歩いてると、雑魚がどんどん引っかかってくる。でもその網を引くだけの腰の力があるし、水揚げした後に非情にも「はい、これも雑魚、これも雑魚」ってできる。ただ、この年になったら、そんなモテは難しいですよ。

宇多丸 大きなモテじゃなくても、どうしたら出会えるの?っていうのはあると思うんですよ。

スー 出会いがないのは、自分で勝手に周りの人を恋愛対象の外に置いてるからじゃないですかね。男女ともに、自分のことを素直に好きな人がいたら、その人のことを好きになる確率が高いと思うんですよ。だから、「向こうから誘われない」とかじゃなくて、自分が好きっていうのを素直に出すのが、一番いい出会いになるんじゃないかなと思うんですけど。

宇多丸 それだと思います。僕も、とにかく「素直に」「優しく」この二つしかなくね?と思ってて。好きだったら好きって伝えて、それで嫌な気持ちになる人はいないしさ。だからガンガン行って、だめでも優しくちゃんと着地していけばいいと思いますけれどもね。

スー 告白しなきゃいいんですよ。

宇多丸 告白しなきゃだめでしょ! どうするの、じゃあ。

スー いきなり「好き好き」っていうのを言葉にするんじゃなくて、会えているときに、すごくうれしそうな顔をちゃんとするとかね。「好き」がバレてもいいんですよ。バレて、相手がOKだったら、向こうも何か言ってくるから。それで明らかにシカトされたら、あ、この人は気がないんだって。

宇多丸 傷を深める前にフェードアウトすると。コミュニケーションの詰め方として当たり前のことなんだけど、その距離感ってけっこう難しい。

 今日来てた他の相談でも、「相手はどう思ってるんでしょうか」っていうのがいっぱいあった。でも、逆にあなたは相手のことをどう思ってるんですか? 自分は安全圏にいて損しないまま、誘われないって言ってるのはどうなの?って。

スー 私が言ったら嫌われるんじゃないか、っていうのはあると思うんですよね。でも、世間はおまえを拒絶しているほどヒマじゃねえよって話ですよね。

宇多丸 それもやっぱりヒマ問題になる。勝手にうじうじ。行動する前からうじうじしているみたいな。

スー 好意は出していくに限る!

宇多丸 格好つけずに、素直に言ってみようかということですかね。

スー それにはまず、自己規定としてのステレオタイプおばちゃんをやめましょう!

 映画が好きなんですけど、自分が面白いと思った映画がことごとく批判されてて、自分の感性がおかしいのかなと。どう対処したらいいでしょうか。

宇多丸 批判してたのってまさか僕じゃないでしょうね(笑)。でもわかりますよ、その気持ちすごく。高橋ヨシキさんというすごく仲のいい映画ライターがいますけど、実は好みは全然一致してなくて。僕が大絶賛した映画を、結構ヨシキさんはケチョンケチョンにするわけ。しかも、マジ容赦なく、こっちの気持ちとか全く考えずに論理的に畳みかけてきて、だんだんこっちも元気なくなってくる(笑)。

 この方が心折れてくると言うのはよく分かる。ただ、最初に自分が観て面白いとか、何か感じたからには絶対何か理由があるわけです。そこから、こう感じたのは何故なんだろうとか、考えるようにしていくのはどうでしょう。

 さっきの「正解」の質問じゃないけど、映画の見方に正解なんてあるわけないので。ある一つの作品を一人の人が褒めることもけなすこともできるし、ある作品に対してどう光を当てるかによって、物の見方なんて全然変わってくるし。なので、今後私の言うことで気に入らないことがあるかもしれませんけど、それは俺の意見だから!(笑)

スー 宇多丸さんを権威にしないというのもリスナーの責務の一つだと思いますよ。「宇多丸がああ言った」とか「あいつが言ってんだから間違いない」とか言ってる人は、絶対何年後かに「あいつが言っているからだめなんだ」と簡単に寝返ったりしますから。

宇多丸 いいこと言いますねえ(笑)。『映画カウンセリング』の「まえがき」にも書いていますけど、僕としては、ラジオにしても、その映画を僕がどう捉えるか詳しく語ることで、こういう見方もあるという判断材料を提供しているわけで。別にそれ以外の考え方や思考の道筋だって幾らでもあるんですけどね。

スー 宇多丸さんはラジオで「映画時評」と言ってますけど、まず「評」という言葉を使う時点ですごいリスクと勇気が必要なことだと思います。それを背負った上で、今しゃべっていることは絶対ではないというのを常に同じ出力で出していくって、物すごいエネルギーが要ることで、それを一〇年ぐらい続けているって本当すごいなと思うんですよね。

宇多丸 いえいえ、とんでもないです! ということで......。

スー 褒められて終わると(笑)。

宇多丸 素直なのがいいんです!(笑)

一月二十七日神楽坂 la kagū にて

 (うたまる ラッパー・ラジオパーソナリティ)
 (じぇーん・すー 作詞家・コラムニスト)

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