書評

2015年4月号掲載

身体と心はつながっている

――長島千比呂『身体をゆるめて心をゼロに リセットするヨガ』

眞鍋かをり

対象書籍名:『身体をゆるめて心をゼロに リセットするヨガ』
対象著者:長島千比呂
対象書籍ISBN:978-4-10-339111-1

 もし、あの時にリセットしていなかったら、私はどうなっていたんだろうか――。心身の不調を解消するヨガのメソッドを紹介した本書を読んだ時、まず思い浮かべたのは、何年か前の自分自身の姿でした。
 もともとお酒は大好きだったんですが、二十代の後半は度が過ぎていたんです。朝起きるとすぐに「今晩は何を飲もうかな」と考えてしまい、仕事が終われば毎晩のように誰かと夜遊びへ。酔った勢いではしごすることもよくあり、週に四日は泥酔してしまうことも。記憶が飛んでしまったのは一度や二度じゃありません。翌朝はもちろん二日酔いなのに、またその夜のお酒のことを考えてしまう。
 日々の不摂生がたたってか、やがてウエストあたりが気になりはじめ、胃も不調に陥り、姿勢まで悪くなる始末。当時はテレビなどの仕事で、うまくトークやコメントが出来なかったらどうしようというプレッシャーが重なり、精神面でも不安を抱えていた気がします。
 この『リセットするヨガ』の中にも、満たされない感情を紛らわそうと暴飲暴食を繰り返し、その罪悪感から逃れるためにまた食べてしまうケースが出てきますが、私の場合、それがお酒だった気がします。気の合う仲間と楽しく飲めば不安から一瞬逃げられるし、毎晩飲むのが習慣になって、その習慣を何の疑いもなく受け入れていた。そんな生活を続ければ、身体が悲鳴を上げるのも当然です。
 すでに三十路を迎え、さすがに危機感を覚えた私がまず救いを求めたのが、筋トレでした。かなりハードなスポーツジムで体重と体脂肪を落とし、同じジムのトレーナーさんからの勧めで、さらにヨガを始めることになります。ちょうど、かつてアパレルのOLだった友人がヨガのインストラクターになったばかりで、彼女からいろいろ教わりながら、ポーズや呼吸法を覚えていきました。
 こういった筋トレとヨガを通して、私はリセットできたのだと思います。自然に飲む回数や酒量が減り、身体が軽くなって不調から回復しただけでなく、心に抱え込んでいた不安まですっと消えていた。「身体と心はつながっている」。ジムのトレーナーさんやインストラクターの友人がよく口にしていた言葉ですが、それは本当だったのだと実感したのです。
 本書を読み進んでいくと、ヨガの本質は「心の動きを止めること」、言い換えれば「心を空っぽのゼロの状態にすること」で、そのために様々な執着を手放すのが大切なのだと理解できます。筋トレやヨガに夢中になり、毎晩誰かと飲むという習慣、そして仕事の不安を手放したことで、私は健全な身体と心を得られたのではないでしょうか。この私にリセットするチャンスを与えてくれた友人のように、本書ではポーズや呼吸法、そして瞑想が丁寧に説明されていて、読者が「手放す」ことを助けてくれます。
 実際にヨガの教室に行くと、担当されるインストラクターの方との相性もあるのですが、説明がよくわからなかったり、疑問が出てくることも少なくありません。本書は入門書でありながら、ヨガに関する知識や情報が驚くほど豊富なので、そんな時にもきっと役立つでしょう。
 心身をリセットすることで、私は友人が増えました。かつての飲み友達からは付き合いが悪くなったと言われているかもしれませんが、ヨガの教室やスポーツジムで新しい出会いがあったのです。普段から身体を動かしている人はプラスのエネルギーを持っていて、話しているだけでこっちが元気になるほど。お酒が飲めない人とは仲良くなれないと思っていたあの頃が嘘のようです。
 最後に白状すると、実はお酒がもっと好きになりました。味覚までリセットされたのか、飲んだくれていた時よりも美味しく感じるようになったんです。でも、いくら美味しくなったって、もう飲み過ぎませんよ、絶対に。

 (まなべ・かをり タレント)

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