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書評・エッセイ

カイワノキッカケシンチョウシンショ会話のきっかけ(新潮新書)

梶原しげる

660円(税込)

気まずい沈黙が続く……。さて、どうする?

初対面の相手を前に沈黙が続く。さて、どうしよう……。苦手な挨拶を頼まれた。さて、どうしよう……。近隣トラブルが深刻だ。さて、どうしよう……。とかく面倒な世間でも、口のきき方と心構えひとつでずいぶん楽になるもの。しゃべりのプロが、時に自ら動き、時に先人の知恵を借り、時に勝手に聞き耳を立てて見出した、あらゆる「気まずさ」からの脱出法とは。人づきあいで気苦労を抱えがちな貴方への特効薬。

気まずさからの脱出

梶原しげる『会話のきっかけ』

梶原しげる

 長いことアナウンサーをやっていると「さぞや社交的でおしゃべり好きなんだろう」と私のことを勘違いして下さる方がいらっしゃる。ありがたいことだが私は仕事を一歩離れると人見知りが激しくあがり症で口下手だ。
 意外に思われるかもしれないが、お笑い芸人さん達にも私の様なタイプが結構いる。
 ある若手芸人が本番前テレビ局のトイレに行った。すると思いがけず司会の大物芸人が「小」をしながらちらっと振り向いたそうだ。
「今日一緒か?」
「はい! よろしく御願いしまーす!!」
 元気に挨拶をしたものの、その先、何と話したら良いのか「会話のきっかけ」が思いつかない。一緒に並んで用をたしながら言葉を交わすなどとても無理。彼は洗面台へ直行した。そして鏡に向かい大きく目を開け、「これすぐズレるんですわー」と両指を器用に使いコンタクトレンズを調整する風を演じた。
 実は彼、コンタクトはしていない。用を終えた大御所が洗面台にやって来て手を洗う。
「大変だな。じゃお先!」
「失礼します! よろしく御願いしまーす!」
 苦しまぎれのウソではあるが、「これすぐズレるんですわー」は彼にとって気まずさを克服する会心の「会話のきっかけ」となったそうだ。
 先日、親しい友人の娘さんの結婚披露宴に招待された時のこと。私の席は、新婦側主賓席。そこに座っているのは新婦の勤務先上司、以前の勤め先の女性部長、大学時代のゼミ教授、高校時代の恩師等々、私を含め全員初対面同士だ。
 乾杯後、それぞれが気まずさに耐えながらビールを黙々と口に運んだりメニューをじっと見つめたりしている。友人は主賓席の気まずい空気解消を私に期待していたのだろう。「これも仕事だ!」と割り切ったらすっと言葉が出た。
「新郎もなっかなかな男前ですねえ」
「ベタ」な一言が場を和ませたらしい。
「似合いのカップルですね」「○ちゃん好みのアスリートだわ」「彼女もテニスサークルでキャプテンでした」「高校ではインターハイ行きましたから」
 知らない者同士の「会話のきっかけ」には「肯定的な言葉」をポンと投げ込むと良い。
 高層タワービル。閉まりかけのところを無理矢理乗ったエレベーターに怖い顔の社長が……。
 どこかで見たことがあるけど名前が思い出せない「偉い人」と新幹線で隣り合わせに……。
 夜の町で女性と腕を組む上司とばったり……。
 入院して落ち込んでいる友人をわざとらしくない感じで励ましたいが……。
 私たちの日常は常に気まずさや戸惑いと隣り合わせだ。そんな時に何を言えばいいか。どう振る舞えばいいか。普段から考えてきたことをまとめたのが本書である。私同様、人見知り、あがり症、口下手な方の参考になると嬉しい。

 (かじわら・しげる フリーアナウンサー)

梶原しげる『会話のきっかけ』978-4-10-610591-3