インタビュー

2012年11月号掲載

『老いかたレッスン』刊行記念インタビュー

老後こそ、外に出よう

渡辺淳一

対象書籍名:『老いかたレッスン』
対象著者:渡辺淳一
対象書籍ISBN:978-4-10-324818-7

 ――老いかたを学ぶ本を書こうとされた原点は何でしょう。

渡辺 それは自分が年齢(とし)をとったからね。この本の中で、喜寿になったときのことを書いているけど、今年は傘寿だそうです。数えだから、まだ満八十になったわけではないけれど。

 ――この本は、リアルタイムでの体験に基づいて書かれたわけですね。医師でもあった渡辺さんですから、肉体の変化にも敏感でしょう。

渡辺 躰が一日ずつ確実に退歩していることは感じざるをえません。人間の肉体は二十代前半がピークで、それからはずっと下り坂なんだけど、みんな四十代、五十代からそれを実感するようになる。特に六十代から急速に弱りはじめて、ゴルフをやってもだんだん飛ばなくなるし、七十代半ばからは病気や怪我が目立ってくる。

 ――そういった肉体の衰えと折り合っていくのが、老いかたでしょうか。

渡辺 それもあるけど。人間は肉体的に下り坂になってから、五十年以上も生きる動物だからね。でも、ぼくもそうだけど、みんな六十代、七十代、八十代とそれなりに一所懸命生きてきて、いろんな人生体験を重ねて、それなりの意見も持っている。それなのに、高齢者の考えていること、望んでいることがほとんど表に出てこない。高齢者が発信する場がないし、若い人は耳を傾けようとしないでしょう。

 ――それはもったいない。

渡辺 高齢者のいいところだけ取り入れればいいんだから、きいて損はない。高齢者の側も、家の中でだけ威張っていても駄目ですよ。社会的に表に出て、前向きに言葉を発していかないと。

 ――前向きな「老いかた」ですね。

渡辺 人口比率としては大きいのに、高齢者がまとまりとなって存在していない。団結する絆がないんだね。だから「済んだ人」とでもいうのか、真剣に受け止められていない。たとえば尖閣諸島の問題だって、戦争を経験した高齢者には、それなりの意見があるはずです。でもそれを公に発表しようとしないし、若い人達もそれをフランクに聞こうとしない。

 ――どうしてなのでしょうか。

渡辺 日本はサラリーマン社会が世界で一番徹底しているから。だから、その枠外にいる人の意見はきこうとしない。定年を過ぎると、優秀な人材も、そうじゃない人も一律にクビにしてしまうんだから。そして仕事を取り上げられた途端に、男には何もなくなって、虚しさだけが残る。

 ――だから女性の方が元気なのかもしれません。

渡辺 いい意見を持っている人はいっぱいいるのにね。会社も年に二回くらい、退職者の意見を現役が聞く会をやったらいい。ぼくが社長なら、やるんだけど。

 ――この本の第二部では、定年退職を迎えたF君が一日の過ごし方に悩み、名刺がないことに戸惑い、年賀状やお歳暮の数に一喜一憂する姿が克明かつ軽妙に描かれています。

渡辺 幸い作家や医者に定年はないけど、『孤舟』という小説を書いたときに、いろんな人に会って取材したから。彼らの苦悩や体験をF君に集約したので、念のためにいっておきますが、特定のモデルはいません。

 ――第三部がいわばF君たちへの処方箋で、就活、婚活ならぬ「老活」を提唱されています。自伝の書き方、名刺の使い方、異性とつきあう秘訣と、こちらも非常に具体的です。

渡辺 定年退職してからの方が、女性との関係は自由で楽しくなる。変な企業倫理に縛られたり、今日は仕事が忙しいとか偉そうなことをいったりしなくなるから。一対一でつきあえるようになるでしょう。

 ――自由なだけに、退職後のお洒落も大問題ですね。

渡辺 ぼくも五十代の頃はグレー系を着ることが多かったけど、当時つきあっていた女性の意見で明るい色を取り入れるようになったんだ。食事もワインも、女性とつきあって学んで、それを次につきあう女性と分かちあってきた。定年退職者も高齢者も、いろんな人とつきあって、いい意味で影響を受けて、また影響を与える人になってほしい。この本がそのきっかけになってくれれば嬉しいけれど。

 (わたなべ・じゅんいち 作家)

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