書評

2012年10月号掲載

国土を守る法整備を急げ

――平野秀樹『日本、買います 消えていく日本の国土』

安田喜憲

対象書籍名:『日本、買います 消えていく日本の国土』
対象著者:平野秀樹
対象書籍ISBN:978-4-10-323742-6

 市場原理主義とグローバリズムの進展の中で、資源の獲得を目指す中国や韓国そしてロシアなどの近隣諸国が、日本の豊かな島々の海底に眠る資源を狙い始めた。二〇一二年八月一〇日には韓国の李明博大統領が竹島に上陸を強行し、そこが韓国領土だと主張した。これに呼応するかのように尖閣諸島に中国人が上陸して国旗を立てるという騒ぎが起こった。
 日本人が護ってきた美しい島々は、これからこうした中国人や韓国人によって踏み荒らされるであろう。彼らは四千年このかた、森を守った体験のない人々であり、森里海の水の循環系を維持することの重要性を全く理解できない畑作牧畜民なのである。
 稲作漁撈民の日本人は、七世紀からすでに植林をしてきた。それは森林資源だけではない、水田への水を確保し、生物多様性を維持し、豊かな海を守るためであった。韓国には日韓併合で日本人に植民地化された時、やっと植林の技術が導入され、中国に至っては、本格的に植林をはじめたのは、経済成長を遂げた一九九〇年代以降のことである。
 こうした国民が支配者になった時、奇蹟の生命の惑星・地球が滅びへと向かうことは必然である。「永遠の日本」を守るためにも、こうした暴挙には断固対決しなければならない。
 日本はアジア諸国の中で唯一外国人が自由に土地を取得できる国であり、土地の所有者がもっとも強い権利を主張できる国である。土地を所有できない中国人にとっては、二束三文で美しい自分の土地が永代にわたって所有できる日本は、天国のような所である。
 グローバル化の中で日本は自国を守る法整備を怠ってきた。おまけに構造改革という美名のもと、対馬はビザなし特区になった。その結果、対馬の主要部は韓国人によって大半が買われてしまったのである。いずれ竹島だけではない、韓国の人々は対馬にも軍隊を駐留させるであろう。そして中国は沖縄を自国の領土だと主張するだろう。
 私はもう十年以上も前に、ある有力政治家に「外国人が日本の土地を買いに来る」と警鐘を鳴らし、「そのことを回避する法整備を早急に実施するよう総理に伝えてくれ」とお願いしたこともある。だが「日本はバブル経済期にニューヨークの摩天楼を買った。それと同じではないか」と言われるのが関の山だった。あの時に法整備をしておいたら、こんなことにはならなかった。中国人が尖閣諸島に上陸してから国有化したのでは、ますます問題は難しくなるだけである。対応が後手後手にまわっている。
 私は一九九〇年代に長江文明の探究で十年以上も中国の大地で調査を行った。当時の中国はまだ貧しかったが、この中国人が豊かさを手にしたら、かならず日本の領土を買いに来ると直感した。だから総理まで進言してくれと大臣にお願いしたのに、まったく対応できなかった。未来を見通すべき日本の政治家の目のくもりは驚くばかりである。
 しかも、ニューヨークの摩天楼を買うのと、日本人の命の源の水源林を買うのとはわけが違う。森里海の水の循環系は一億二千万人が暮らす日本列島の生命維持装置であり、それが外国資本によって破壊された時は日本人の終わりであると覚悟しなければならない。そのことを正しくかつ体験的に理解しているのは、稲作漁撈文明を持った日本人や東南アジア人なのである。
 日本は森里海の水の循環の重要性が理解できず、「スキあらば奪おう」と狙う大陸型の畑作牧畜民の国に取り巻かれている。これらの国民と、人を信じ自然を信じる海洋型の稲作漁撈民とは、まったく異質なのである。どうしてそのことが日本の政治家や官僚にはわからないのだろうか。
 その私の警鐘に唯一、呼応してくれたのが、東京財団の平野秀樹氏と吉原祥子氏だった。私と平野氏は二〇一〇年に発表した共著『奪われる日本の森』(現在は新潮文庫)で、この問題の重要性を指摘した。だが、その後もいまだに世の中はほとんど変っていない。やはり日本は、蒙昧なリーダーたちによって、いずれ崩壊へと導かれると言わざるを得ない。
 それでも平野氏は再度このテーマに挑戦して、このたび『日本、買います 消えていく日本の国土』を刊行した。全国を調査して最新の情報を書き加え、悪化していく現状と法整備の不備が詳細に描かれている。平野氏の努力には敬服するが、滅びのプロセスに入ったこの国を政治家や官僚が立て直せるかどうかは甚だ疑問である。この本は、叩いても叩いても目が覚めない日本のリーダーたちへの最後の警告の書である。

(やすだ・よしのり 東北大学大学院教授)

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