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対談・鼎談

フホウアイサイカ不法愛妻家

デビット・ゾペティ

1,408円(税込)

何があっても、愛妻家を貫こう──波瀾万丈の国際結婚を描く、傑作長編!

イタリア人のファブリは、大阪生まれの和泉と出会い、恋に落ち結婚する。せっかちでドライな和泉と、どことなく要領が悪く、ロマンチストなファブリ。「大阪人vsイタリア人」とも言える二人は、惹かれ合ったり反発し合ったりしながら、日々を送り、やがて子供も生れる。爆笑の中で、夫婦、家族、日本を問う、新鮮な、書き下ろし長編。

デビット・ゾペティ『不法愛妻家』刊行記念対談

僕たちの家族の愛し方

迫力ある小説/『ダーリンは外国人』と比べて/家族と言葉/国際結婚という冒険

トニー・ラズロ × デビット・ゾペティ

迫力ある小説

ゾペティ トニーとは僕がまだテレビ朝日に勤めていた頃からの友だちで、日本人女性と結婚して日本に住んでいるという境遇が似ていることもあって、今度の小説『不法愛妻家』を一番に読んでもらって感想を聞きたいと思ったんだ。

ラズロ とてもパワーフルだと思ったよ。

ゾペティ 迫力があった、という訳でいいのかな。

ラズロ そうだね。

ゾペティ その表現はちょっと意外だな。確かに奇想天外なことがいろいろと起きるんだけれども、自分としてはほのぼのとした幸福感が漂うような家族の物語、静かな作品を書いたつもりだったから。

ラズロ 僕は本を読むとき、特に小説を読むときは、読まざるを得ない、読み続けなきゃいけないという気持ちにさせられると、あ、これはいいものを読んでいるなという気持ちになる。確かに最初の方はほのぼのとしている。二人の出会いとか、結婚までは。だけど、だんだんテンションが高まってきて、対立だとか、問題が起きて来ると、スピーディになってくる。で、パワーを感じるわけ。引き込まれる。読まなきゃいけないという気持ちになってくる。特に真ん中あたり。最後は、またふんわりした雰囲気に戻って、余韻が伝わって来る。そういうような印象だね。どのくらい書き手本人のことなのかな?

ゾペティ それは、家族に対して守秘義務があって言えないんだけど(笑)。

ラズロ 映像も浮かんで来て、映画化もありかなと思った。言いかえれば、かなりイメージが湧く作品だった。主人公の故郷のサルデーニャや、最後の方で家族が旅行する西表に、僕も行ったことがあるので、思い出したりしたこともあるけど、読んでて、楽しかったね。

『ダーリンは外国人』と比べて

ゾペティ イタリア人の主人公ファブリが大阪生まれの和泉と結婚して家庭を築く、というこの小説を書き始めたとき、ちょうど『ダーリンは外国人』がすごく話題になっていたけど、あえて読まなかったんだよね。書き上げてから全部読んだんだけど。書いている最中に読んだら、影響を受けるかもしれないと懸念していたから。でも書き上げてみたら、だいぶ違うものになっているかと思うんだけど、どう思う?

 ラズロ 『ダーリンは外国人』の書き手は女性。日本人女性が、彼女の目線でいろいろ書いている。小説は外国人男性が書いているというのが大きな違いだよね。『ダーリンは外国人』は僕は書いていない(笑)。 

ゾペティ 主人公だけどね。

ラズロ だけど、夫婦が描かれていて、悩みだとか、課題が共通のものだよね。例えば家事だとかね。世界中そうかと思うんだけれども、女性が大部分の家事をやってきて、この頃男性の分担が少しふえてきたという傾向にあると思う。家庭によっては五分五分だったり、さらに主に男性がやっているという家族もあるだろう。僕は男性がもっと早く入って、台所の設計から一緒にやった方がいいと思うよ。女性が仕切っている台所に後から入るのは大変だから。

ゾペティ 家事のやり方が家々で違うのは、国際結婚に限らないけど、いろんな場面で妥協案を探りあう夫婦の悪戦苦闘というのを書きたいと思ったんだ。セックスレスとか育児、家やお金の問題も含めて。

ラズロ 『不法愛妻家』の夫婦は対立が激しすぎて、ちょっと心配になるくらいだ。離婚まで行ってしまうのではないかなと。

ゾペティ そういう危機を乗り越える愛というものがテーマなんだ。ファブリと和泉はルーツも考え方も性格もすごく違っていて、結婚してからは特にそれがあきらかになって来るんだけど、愛があるから大丈夫だということを。

ラズロ ファブリは和泉を愛しているけど、和泉はどうかと途中から心配になるけど(笑)。夫婦の、この問題は解消されるのかな、どういうふうに解消されるのかな、ということに引っ張られて読んで行く。それが迫力の一部だな。

ゾペティ 和泉はドライでクールだけど、彼女なりの方法で愛しているんだ。僕は、よくけんかする夫婦、何度も離婚の危機に直面してしまう、でも、それを乗り越える夫婦の方が、本当に愛し合っているという気がするんだよ。絆が一層強いというのかな。

ラズロ ジョン・レノンの有名な歌詞に、人生というのはふいに思ってもみないことが起きて来る、別のことを考えているときに違うことが起きるものだという言葉があるけど、人生設計をしないで愛し合って、次々に問題が起きてしまう。子供ができてしまう。どうする、どうなる、危険、危険という感じが心配だな(笑)。特に僕だけの反応かもしれないけれども。

ゾペティ 小栗左多里さんも書いているけど、トニーは人生設計をきちんとするからね。

ラズロ 「プランB」だね(笑)。img_201209_08_3.jpg

(メディアファクトリー刊)

家族と言葉

ゾペティ それから、これは特にファブリに反映されているかもしれないけれども、僕は人生設計をしてもどうせそのようにならないという考え方なんだ。人生設計よりも、自分がやりたいこと、好きなこと、熱中できることを大事にしたい。その方がおもしろい人生になると思う。

ラズロ 僕は離婚を避けたいと思っていて、晩婚だったんだけど、慎重だったのは良かったなと思っている。もう一つは子供が生まれると、また新たな責任が出来てくる。プレッシャーがかかってくるわけだよね。この小説にも書かれているけれども、母語と外国語の問題、学校は公立か、私立かという問題。家庭の中の言葉と、社会での言葉。非常に深い問題でしょう。子供の言葉についてはあらかじめ良く考えて行きたいと思っているんだ。

ゾペティ 実生活に話を移すと、子供が小さいころには徹底してフランス語でしゃべりかけていた。でも地元の保育園に通い始めてからは、フランス語でしゃべりかけても、日本語で返事が返ってくるようになった。英語とかフランス語を学ばせなければ、と思ってはいたんだけど、日本語が中心になった。ところが去年、中二のときに、アメリカから帰国子女の子が息子のクラスに転向してきて、仲よくなって、その子が英語と日本語が話せるんで、うちの息子が、急に目覚めて、「パパも英語しゃべれるんだ」。それで僕が言ったんだ。「よし、From today, I will speak English.」、その日から、もう英語しか使っていない。今はもう日常会話は普通にできる。上達ぶりが信じられないよ。

ラズロ それはすごいね。子供の言葉について、夫婦がつくる状況の選択は、それだけで一冊の本が書けそうだね。僕自身はアメリカで育って、父親がハンガリー人で母がイタリア人なんだけれども、それぞれの言語は僕に伝わってこなかった。あえて教えられなかったんだ。それぞれの文化あるいは習慣というのも伝わってこなかった。移民の二人が、子供がアメリカでアメリカ人として不自由なく育って欲しいと考えて、全部アメリカ社会に合わせていた。それは、英語は使えるけれども、一番いいパターンではなかったと思っているんだよね。前の世代の考え方だと感じる。これはまねしたくないという部分もある。日本語でしゃべっていた方が子供のためになる、家庭のためになる、ストレスがなくなる。子供はしっかりとしたルーツを持つ。日本というアイデンティティを持つ。そう思う一方で、人生設計を上手くやれば、二つの言語を母語として持つ、使えることになるかもしれない。やってみよう。そう思うところもある。今は息子は六歳半だけれども、日本語と英語が使えるようになっている。なにが一番いいという答えはないかと思うんだけど。

ゾペティ 僕も母がアメリカ人で親父がスイス人。家の中では英語で話して、フランス語圏だったから学校でフランス語を話していた。親父がスイスのドイツ語圏出身だったからドイツ語もしゃべって、家族はイタリアからスイスへの移民だったから、イタリア語もしゃべった。物心がついたころから四カ国語がしゃべれていたわけ。日本でその話をすると、みんながいいなあって反応をするんだけれども、僕は正直言ってどの言葉も完全にマスターしていないような、自分の言語的アイデンティティがすごくあいまいな感じがしていた。自己分析すると、ひょっとしたら、だから日本語というものを、これは自分だけの言葉としてマスターしたいと思って、自分のものにしたい、習得したいと思ったところがあるかもしれないね。

ラズロ そうだったんだね。その気持ちもわかる。

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国際結婚という冒険

ゾペティ 小栗さんもどこかで似たようなことを書いていたのを読んだ記憶があるんだけれども、僕はこの小説を書くときに、国際結婚について書こうというつもりは、特になかった。ただ単に、極端に異なった環境で生まれ育って、かなり強烈な個性を持った二人が一緒になったらどうなるんだろうか。結婚生活のいろんな場面で、どう折り合いをつけるかということを、自分の家庭生活からヒントを得ながらのフィクションという形で書いてみたかったんだ。一番の中心的なテーマは夫婦であって家族なんだけれども。でも一方では国際結婚をテーマにした小説として読まれると思うんだよね。小栗さんも、国際結婚を漫画にしようと思ったんじゃなくて、トニー・ラズロという非常に個性的な人間との関係を描こうとしたんだけれども。

ラズロ そうだね。

ゾペティ 国際結婚って、二〇〇六年まで、数がずっとふえてきて、二〇〇六年を境目に減少傾向に転じたわけなんだけれども、それでも毎年三万組の国際結婚カップルが誕生している。換算すると、毎日八二カップル。もちろん平日に結婚する人は少ないから、週末で言うと、毎週末日本のどこかで五六六組の国際カップルが正式に結ばれているわけなんだ。だからもう特別のことじゃないと思うけど。

ラズロ 大きな冒険だと思うけどな。

ゾペティ でも、結婚自体が物すごく大きな冒険じゃない?

ラズロ 全くだね。

 (トニー・ラズロ ジャーナリスト/デビット・ゾペティ 作家)  

デビット・ゾペティ『不法愛妻家』978-4-10-332681-6