インタビュー

2012年6月号掲載

『レジェンド』(新潮文庫)刊行記念 インタビュー

「リアルな抑圧社会」を描く

マリー・ルー

対象書籍名:『レジェンド 伝説の闘士ジューン&デイ』(新潮文庫)
対象著者:マリー・ルー著/三辺律子訳
対象書籍ISBN:978-4-10-218061-7

『ハリー・ポッター』に代表される魔法もの、『トワイライト』に代表されるバンパイアものに続いて、欧米のティーンを熱狂させている反理想郷(ディストピア)小説で鮮烈にデビューしたマリー・ルー(二十七)。本作は世界十九カ国での出版や映画化が決まっており、著者は「次なるJ・K・ローリング」との呼び声も高い。続編執筆中の著者に聞いた。

   *

 ――小さい時に物語を書き始めたとか?

ルー ホッチキスで綴じた「処女作」を書いたのは五歳の時。中国からアメリカに移住して間もない頃です。早く英語を覚えるための手段だったのかもしれませんが、お話作りが楽しいことに気づきました。十四歳で本格的に小説を書きはじめて、十五歳で出版エージェントに投稿するようになりました。

 ――着想はどのようなところから?

ルー あらゆるものから影響を受けています。『レジェンド 伝説の闘士ジューン&デイ』の構想は、映画版「レ・ミゼラブル」を見ていたときに突如浮かびました。ジャン・バルジャンとジャベールのような“追いつ追われつ”を演じるのがティーンエイジャーだったら……と。アイディアを温めているうち、一枚の地図に出会ったのです。氷河が溶けて海面が百メートル上昇した世界を予想した衝撃的なもので、アメリカ大陸が分断されていました。そこで、物語をこの世界に置いてみようと思ったのです。インスピレーションは思いがけないところからやってきます。

 ――『レジェンド』で描かれた反理想郷には、北京での経験が反映されていますか?

ルー 天安門事件が起きた一九八九年六月、私は天安門広場のすぐそばに住んでいました。民主化要求運動が続くなか、おばと一緒に広場を見に行ったのです。学生たちの近くに戦車があったのを鮮明に記憶しています。政府が彼らを弾圧したのは、まさにその日の夜でした。あの光景が私の脳裏から消えることはありません。『レジェンド』の共和国にも間違いなく影響を与えています。加えて、古代スパルタやナチスドイツ、中国の文化大革命や北朝鮮も参考にしました。リアルな抑圧社会を描きたかったのです。現代のアメリカでも、保守とリベラルの双方が極端に走って対立が深まる状況は『レジェンド』が描く内戦状態と重なります。

 ――もう少し詳しく説明してください。

ルー 豊かな者がいっそう豊かになる一方、貧しい者はより貧しくなり、中間層は死滅しつつある。ヨーロッパの財政危機、アメリカの財政赤字、アラブ諸国の民主化運動……実際に様々な困難や抑圧とそれに立ち向かう人々が存在します。『レジェンド』は現代社会の鏡なのです。

 

 ――デイとジューンの造形はどのようにして?

ルー 高校生の時に書いた『ガラスのソナタ』というファンタジーの主人公である若い犯罪者の名がデイでした。出版には至りませんでしたがデイのことはずっと気になっていて、彼にストーリーを見つけてあげたかった。『レジェンド』のアイディアを思いついた時、彼にピッタリだと思ったのです。ちょっと悪っぽいけれど、苦難にもかかわらず楽天的でいられる人物が好きだから、彼が心に残っていたのかもしれません。ジューンも当初は男の子でした。でもボーイフレンドに「追う方は女の子にしてみたら?」と言われて、なるほどと思ったのです。ただ、いざ書き始めると、ジューンの人物像をつかむのが難しかった。ジューンと私は何もかも正反対。私は自信がなくて恥ずかしがり屋だし、感情的。むしろテスに近い。ジューンの知性や台詞、行動を自信をもって書けるようになるまで時間がかかりました。

 ――若い読者にこの本で伝えたいことは?

ルー 社会に対して目を開くことの大切さに気づいて欲しい。表に見えるものに納得しないで、真実は何かを追求して欲しい。この小説に流れる大きなテーマはそれだと思います。意図してそう書いたわけではないのですが。

 ――読者からの反響はどうですか?

ルー 幅広い読者に受け入れてもらって感激しています。特に楽しいのは、十二歳、十三歳の若い読者から届く声で、彼らは歯に衣を着せませんから、「デイは大好きだけど、ジューンは大っ嫌い」など、ストレートな反応が返ってきます。大半の読者がデイに親しみを覚えるのとは対照的に、ジューンに対する意見はまっぷたつに割れて中間がないんです。

 ――続編は進んでいますか?

ルー 第二巻を書き上げて、いま第三巻の真ん中くらいを書いています。第二巻はアメリカで二〇一三年一月に刊行されます。

 ――日本のアニメが大好きだとか。

ルー アニメをはじめ日本文化は何でも大好きです。「AKIRA」も「エヴァンゲリオン」も、宮崎アニメはぜんぶ、大ファンです。初めてテレビで見たのは「ああっ女神さまっ」。とにかく、小さい時から日本のマンガばかり真似して描いていました。日本語版『レジェンド』のカバーを田中達之さんが描いてくださることに、ものすごく興奮しています!

Marie Lu 一九八四年中国生れ。二〇一一年秋に刊行された本作でデビュー。南カリフォルニア大学(政治学専攻)卒業後、専業作家になる前はゲーム会社でアートディレクターとして働いていた。ロサンゼルス在住。

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