TOP > 『切れた鎖』電子書籍化記念特別インタビュー 芥川賞作家・田中慎弥

三島賞・川端賞ダブル受賞作『切れた鎖』待望の電子書籍化
芥川賞作家・田中慎弥 特別インタビュー 「自分の中にないものを書く」


第146回芥川賞受賞決定時の記者会見で「もらっといてやる」と発言、一躍“時の人”となった田中慎弥氏。
次は何が飛び出すかと注目を集めた贈呈式のスピーチでは「どうもありがとうございました」のたった一言で降壇して会場をどよめかせ、テレビや新聞各紙はこぞってこの“歴史的挨拶”を取り上げた。
Shincho LIVE!の特別インタビューは、まさに贈呈式の翌日、都内の新潮社クラブで行われたが、前夜の余韻冷めやらぬ中、氏はいったい何を語ったのか。
新潮新人賞を獲ってデビューを果たしたときのこと、このたび電子書籍化された三島賞・川端賞ダブル受賞作『切れた鎖』のこと……。
誠実に言葉を紡ぐ文学者としての真の顔を、動画とともにぜひご覧ください。
  • 01 永久に封印します
  • 02 一番うれしかった「新潮新人賞最終候補に」の知らせ
  • 03 「小説を書くこと」と「人間を描くこと」

田中 慎弥 1972(昭和47)年山口県生まれ。山口県立下関中央工業高校卒業。2005(平成17)年「冷たい水の羊」で新潮新人賞受賞。2008(平成20)年「蛹」で川端康成文学賞受賞、同年に「蛹」を収録した作品集『切れた鎖』で三島由紀夫賞受賞。他の著書に『図書準備室』『神様のいない日本シリーズ』『犬と鴉』『実験』など。幼くして父親を亡くし、母親と2人暮らし。これまで定職に就いたことはない。

永久に封印します

――まず最初に、昨日の贈呈式の感想から伺えますか。

田中 人が多かったのでとても緊張しました。まぁ、でもなんとか乗り切ったかなという感じでしょうか。

――いま、昨日のことを報じた新聞各紙をご覧いただきましたが。

田中 まぁ、あんなもんじゃないですか。贈呈式というのはさほど大きなニュースでもないですし。

――それにしても、いたって簡潔なご挨拶でしたね。

田中 東京に来るまえに、いろいろ言わなきゃいけないなと思って、あれこれ考えてはいたんです。今度は変なことを言うのでなく、まともなちゃんとしたことをしゃべろうと思い、長いバージョンのものを用意していました。でも、とっさに変えたわけなんです、短いのに。

――「長いバージョン」は秘密ですか。

田中 長いほうは、もう永久に封印することにします。あのときは時間も押していました。パーティー会場には1400人だかの人たちがいて、このあといろんな人に会わなきゃいけないんだなぁ、などと会場の端に座りながら考えているうちに、どうもいろいろと面倒になってきてしまいまして。で、いっそ挨拶も短めにしようと。いや「短め」じゃなくて「短く」ですね。

――会場はドッと沸きました。贈呈式にいらしていたお母さまのご感想は。

田中 まぁ、せめてもう少ししゃべれよって、きっとみなさん思われたでしょうね。司会の方がうまいこと「万感の思いがこめられていました」と言ってくださり、それで笑いも起きたのではないでしょうか。でも、万感の思いなんか何もなくて。早く終わらせなきゃって言いますか、早く壇上から降りたかったんです。昨日は母とはあまり話をする機会がありませんでした。贈呈式のあと、立食形式の2次会があり、さらに担当編集者の人たちと内々の3次会があり、ホテルに帰ったら母はもう寝ていました。自分は深夜の2時半くらいにシャワーを浴びて寝て、酒も入っていたのでぐっすりよく眠りました。今朝は8時半くらいに起きまして、あまりはかどらなかったのですが1時間ほど仕事(原稿執筆)をしました。母とは顔を合わせましたけれど、とくに何も言っていませんでした。こういうことに関してはいつも感想を言ったりしませんので。

魔術みたいなマネはできない

――受賞決定直後の記者会見では自分だけが話題を独占した形になり、ともに芥川賞を獲られた円城塔さん、直木賞を獲られた葉室麟さんに申し訳ない、と語っておられましたが。

田中 今回もそうですけれど、あのとき(受賞直後の会見)は酷かったので、本当に申し訳ないことだと思いまして……。贈呈式については、受賞は確かに書き手にしてみればありがたいことですけれど、賞そのものはすでに通り過ぎて行ったわけですから、そのあとでなお、どうしてこんなに人が大勢いるんだろうと思いました。昨日についてはそれが率直な感想です。

――本日は、田中さんが作家としてデビューされたときのことも伺いたいと思います。2005年に新潮新人賞を獲った「冷たい水の羊」は、田中さんにとって初めての小説だったのですか。

田中 そのまえに実はひとつ書き上げたものがありました。ある程度の長さで完成させたと言いますか、最後までやっとたどり着いたのはそれが最初でしたが、われながらかなり荒っぽいもので「これでいいんだろうか」とか思いながら新潮新人賞に応募したら落選でした。ですから「冷たい水の羊」はラストまでたどり着いた2作目、ということになります。

――「たどり着いた」と言いますのは……。

田中 いまでもそうなんですが、小説のラストは“ピタッとそこで終わり”とはいかずにズレますね。書いていくとそこにラストがあったりだとか、「あ、通り過ぎた。あそこがラストだ」って気がついてそこまで削って戻ったりだとか。逆に「ここがラストだ」って思っても、もうちょっと先だったり、というようなこともあります。いつだってそんな感じです。どういったラストにするかはまったく考えません。思い浮かばない。だから書くしかなくて、書いていったその先で「このへんかな」というのがわかるんです。

――書き進めていくうちに、ラストが自然に生まれてくると。

田中 よくわからないんです。もちろん自分が書いていくことでそこに到達するのですが、すべて自分で作り上げているというのでなく、道をたどっていく感じなんですよね。完全に自分が創作しているというよりは、どこかにあるものを見つけ出していくといったような。何もない、まっさらなところに自分で何かを生み出すという魔術みたいなマネは自分にはできません。だから、どこかにあるであろうものを探している感じなんです。そのわりに、原稿用紙100枚でお願いしますと言われれば、ちゃっかり枚数はだいたい合っちゃうんですけどね。

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