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作家・平野啓一郎 特別インタビュー 電子書籍は何をもたらすのか 紙の本はどうなる 読者は そして書き手は――

  • 音楽ビジネスと同じ流れ
  • 読み手が価値を付与する
  • 紙の本は「紙とインクの彫刻」
  • 無茶な安売りには反対

平野啓一郎 1975(昭和50)年、愛知県生まれ。京都大学法学部卒。1999(平成11)年、大学在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により芥川賞を受賞。著書に『日蝕・一月物語』、『文明の憂鬱』、『葬送』(第一部・第二部)、『高瀬川』、『滴り落ちる時計たちの波紋』、『あなたが、いなかった、あなた』、『決壊』(上・下)、『ドーン』、『かたちだけの愛』などがある。近著は、新書『私とは何か 「個人」から「分人」へ』、長篇小説『空白を満たしなさい』(11月27日発売)。
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音楽ビジネスと同じ流れ

――平野さんは「電子書籍時代の到来」を早くから予見されていました。

平野 僕はいわゆる「CD世代」に属しています。レコードからCDへという流れの真っ只中にいた人間です。ところがそのCDですら、mp3のようなネットからのダウンロードファイルにあっという間に取って代わられてしまいました。そうした変化を目の当たりにした者として、本もそうなるだろうと考えていました。電子書籍がマーケットのボリュームゾーンを占める時代がいつか必ず訪れるだろうと、かなり早い段階から思っていたのはたしかです。

――当初は電子書籍の普及について否定的な見方もありましたが。

平野 CDが登場したとき、周囲には「絶対にレコードのほうがいい」と主張する人たちが大勢いました。でも、結局はCD全盛の時代を迎えましたね。次いで音楽のダウンロード販売というビジネススタイルが現れた際にも、「mp3では音楽のよさなどわからない」と言う人はいっぱいいたのです。それと同じで、誰が否定しようと、電子書籍の普及は抗うことのできない、必然的な流れだと感じてました。

――平野さんご自身も、読まれるのはすでに電子書籍のほうが多いのですか。

平野 今でもやはり、電子書籍より紙の本で読むほうが多いですね。品ぞろえの問題もありますし、後ほどお話ししますように、端末側の問題もあります。ただ、大きな流れで捉えるならば、たとえば若い人たち、幼い子どもたちの世代が教科書さえ電子書籍として触れるという時代が到来するかもしれません。そうなったときには、紙の本は読まない、電子書籍しか読まないという人たちが「本」の主な購買層になってくるのではないかと思います。

呼称は「電子本」に

――これまでの電子書籍の歩みをどうご覧になっていますか。

平野 電子書籍が登場した頃は、電子ならこんなこともできる、あんなこともできるって盛んに喧伝されました。映像を挿し込む、音楽をつける、などといったいわゆる「リッチコンテンツ化」ですね。しかし、そういうものを読者が求めていないことははっきりしたと思います。すでにある小説に動画や音がついて値段が高くなることを、読者は望んではいない。小説は本来、動画や音がなくても完結するようにつくられているわけですから、考えてみればそれも当然です。YouTubeで映像や音楽に触れ、さあ文学を読もうかという気持ちになったとき、改めて映像や音楽が出てくるというのも、なんだか違うなぁと感じるでしょうし。

――草創期ならではの話といえるでしょうか。

平野 僕はいま「電子書籍」という言葉を使っていますけれど、この言い方もやめたほうがいいと考えています。「電子本」にすべきではないかと思うんですよ。「ナントカ本」という言い方には歴史があります。「黄表紙本」「円本」「文庫本」「単行本」、それから「エロ本」というのもありますね(笑)。これら日本の出版文化に根を下ろした、誰もが馴染みのある言葉と比べて、電子書籍という用語にはとても生硬な響きがあります。「紙か電子か」といった議論がなされる際、「紙の本はいいけれど、電子書籍はどうか」などと否定的な言辞が交わされて違和感を覚えることがあります。電子「書籍」という生硬な響きが、そうした議論を呼んでしまっている面も否めない。出版業界全体で、「電子本」と呼んでいくべきじゃないですか?

――呼称に異論はおありにせよ「電子」への流れは止まらないと。

平野 もちろん、紙の本はなくならないと思っています。アメリカでは紙の本の売り上げを電子本――と、以後、呼びますけど――のそれが上回ったと言われますが、日本は事情がやや異なります。アメリカに比べて日本では、文庫の値段が安かったりしますし、家の近所に書店があったりするという地理的な事情もあります。それに紙の本にはある種のフェティシズムのようなものがあります。注文していた紙の本が届いたときの嬉しさ。読み終えた本が書棚に並んでいて「ここまで読んだ自分はこんなに賢くなったんだ」と思える視覚的な悦びと満足感(笑)。紙の本の魅力は多々あります。が、そういったものさえも、いずれある程度は、仮想的に乗り越えられていくだろうと思ってます。

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