TOP > 特集「絵で見る十字軍物語」

21世紀にもつながるキリスト教vs.イスラム教、対立の原点
聖地イェルサレム奪還のための遠征はどう始まり、どう戦われ、どう破綻したのか。
美しく精緻な版画に付した簡潔な短文で描かれる十字軍史、最高の入門書。

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著者のことば

いまなぜ十字軍か。
日本人は何を知らなければならないか。
塩野七生

二十一世紀の今なお、世界情勢の多くは、キリスト教世界とイスラム世界の対決によって動いている。しかし日本は、このどれにも属していない。にもかかわらず、影響を避けることはできない状態にある。
 ならばこの二つの世界の、今に至るまでの一千年にもわたってつづいている対決の歴史を振り返ってみるのも、この二つの大波をかわし乗りきっていくうえでの一助になるのではないかと考えたのだった。
 「わたしは常に、自分自身の想いに忠実に生きてきた。だから、他の人もそうであって当然だと思っている」(ユリウス・カエサル)
 これが、古代のローマ人の考えた「寛容」だった。だがその後は、当然ではない中世に入る。私はこの中世を、まず初めに『ローマ亡き後の地中海世界』と題して二冊にまとめた。キリスト教世界とイスラム世界に分れた時代を、「海賊」をキーワードにして描いてみたのだった。そして第二の試みのキーワードは「聖戦」。となれば、描き出す対象は十字軍になるしかない。今年から始まる、十字軍四部作である。『ローマ亡き後の地中海世界』でのテーマは、南ヨーロッパのキリスト教徒と北アフリカのイスラム教徒の対決にあったが、『十字軍物語』では、北ヨーロッパのキリスト教世界と中近東のイスラム世界の対決になるだろう。  そして、もしもあなたに、これらを読みつづける好奇心と忍耐があるとしたら、そのときにはあなたも考えると思う。この二つの一神教の世界に比べれば、わが日本の多神教の文明も捨てたものではないね、と。
 このことに納得いって初めて、われわれ日本人は、キリスト教徒とイスラム教徒の間に立っての、説得力をもつ仲介者になれるのではないかと思っている。部外者は、当事者たちの長い歴史を知って初めて、彼らの「想い」を共有しながらその調停に乗り出せるのであるから。
(初出:2010年1月1日新聞広告)