対談・鼎談

2018年11月号掲載

対談 大宮エリー『なんとか生きてますッ』新潮文庫化! 特集*ダイアローグ!

不謹慎なオトナの友情

小木博明(おぎやはぎ) ×  大宮エリー

「仕事が嫌い」という共通点しかない二人は、いつしか家族同然の付き合いに。
放送禁止用語連発の夜、謎すぎる儀式、そしてムッシュかまやつとの別れ……。
破天荒な〈大人の青春〉を振り返る!

対象書籍名:『なんとか生きてますッ』(新潮文庫)
対象著者:大宮エリー
対象書籍ISBN:978-4-10-100381-8

大宮という不審人物

小木 初めて会ったときのこと、エリーは憶えてないんだよね。

エリー いつだっけ?

小木 鈴木おさむさん(作・演出)の舞台でね、「尋常人間ZERO」(2008年)っていうのをやって。今田耕司さん主演で、(千原)ジュニアさんも出てた。その稽古場にエリーが来たの。で、声を掛けられた。

エリー なんて?

小木 「大宮です」。

エリー 普通じゃないですか(笑)。

小木 は?って思って。僕はけっこう人見知りで、いきなり話しかけられても心を開けないんです。それをすぐに察知したんだろうね、「あれ、この人『大宮』にぜんぜん食いつかない!?」って。

エリー ちがうちがう!

小木 それでパッと本を出してきた。

エリー 『生きるコント』(文春文庫)かな。

小木 「こういう者です」と。ちゃんと本も出してる、怪しい人間ではありません、と。仕方なく「はい」って受け取ったら、「差し上げます」とか言うのね。

エリー そんなこと言ったかなあ。

小木 もちろん心は開けないよね。俺の不審そうな顔を見て「鈴木拓(ドランクドラゴン)とよく食事するんですよ」って言ってきたの。俺の事務所の後輩ね。

エリー 私まだしゃべってたんだ。空気読まないねー。

小木 そこで初めて、拓か!と。拓とごはんを食べられる人だったら間違いないって思った。性格が悪いし、妬みもすごいんだから。

エリー 私も人見知りなんですよ。なのにどうして小木さんに話しかけたのか、思い出しましたよ。拓ちゃんから小木さんの話をよく聞いてたんですよ。だから挨拶しなきゃって思った。小木セールでしたっけ、小木さんの洋服を......。

小木 「小木バザール」ね。いらなくなった洋服を後輩にあげるんですけど、そのとき住んでたのがリビングが吹き抜けになってる家で。二階から下に向かって服を放り投げるんですね。それを鈴木拓やアンガールズの田中、アンジャッシュの児嶋さんがキャッチするの。背が高いから殆ど田中が持って行く(笑)。

エリー そうそう、貴族みたいな感じで「くれてやる!」って。私は田中くんとまず知り合ったんです。スピッツの「群青」のPV監督をやったときに出演してくれて。田中くんと飲もうというときに鈴木くんを呼んでくれて、三人でよく飲むようになった。

隠語だらけの一夜

小木 それからしばらく経って、この本にも書いてあるあの夜ですよ。

エリー やっちまった日ですね。ムッシュ(かまやつ)が「奈歩(ムッシュの従姪であり小木の妻)と飲もうぜ」って紹介してくれて、初めて会った奈歩さんとすごく気が合って、飲み過ぎちゃった。

小木 奈歩から、小木も一緒に飲もうよ!みたいな感じで呼び出されて。俺としては「いいよ、もう。あの『大宮』さんでしょ」。

エリー 不審なね(笑)。

小木 前にもう話してるし、別に会いたくもないし(笑)。でも仕方ないから車で迎えに行ったら、エリーがべろんべろんに酔っ払って、シャンパングラスをいやらしく舐めてたんだよね。

エリー 嘘だ、舐めてない!

小木 もう、すんごい嫌で。

エリー 酔いすぎた。奈歩ちゃんも泥酔してたでしょ。家についてからお礼のショートメールを送ったら返事がきたんだけど、あの、卑猥な言葉が書いてあって......。

小木 それはね、すごいドラマがあるの。俺は子どもを(義母の森山)良子さんに預けて行ったわけ。娘はまだ一、二歳くらいだったかな。早く帰りたいのに、二軒目も行こう!って奈歩とエリーが騒ぐから必死で説得して。子どもを迎えに行かなきゃいけないからね、って。

エリー すごい記憶力。

小木 俺は素面なんだから。しつこいエリーの誘いをなんとか振り切って、家に着いたのが夜中の三時ですよ。そんな時間に申し訳ないけど、良子さんのところに行くわけですよ。寝てましたよ、次の日ライブか何かで。で、眠ってる娘を俺が抱っこして連れて行こうとしたわけ。そうしたら酔っ払ってる奈歩が、さっきエリーが言えなかった言葉を連呼したの。まあ、あれですよ、「ち○こま○こ」。

エリー そうそう!

小木 ぐでんぐでんになって、「ち○こま○こちん○まん○」ってずーっと言ってんの。エリーに教わったんでしょうね。

エリー 教えてない(笑)。

小木 良子さんに向かって、連呼してるの。深夜まで子どもを預かってもらったんだから、お礼を言ったり、謝ったりしなきゃいけないじゃない。俺の立場としてはもうぺこぺこですよ。なのに隣にいる奥さんがずっと「ち○こま○こ」。そしたら、それを聞いた良子さんが「奈歩ちゃーーーーーん!!!!」って叫んで......泣いて喜んだんですよ。

エリー なんでっ!?

小木 「ち○こま○こって言ってくれたのね!」って。すごくないですか、この親子。娘が「ち○こま○こ」って言ったことに対して、母親が感動して泣いてるんですよ。

エリー シュールすぎる(笑)。

小木 うちの奥さんはそれまでほとんどお酒を飲まなかったらしいの。初めてあんなに飲んで、「ち○こま○こ」って言い続けるくらい酔っ払ってる姿を見て、良子さんはすごく嬉しかったんだって。まるで自分を見てるみたいで。

エリー 良子さんもすごいから。ボンネットに寝てたりするんだよね。

小木 酔ってる娘を見て、血の繋がりを実感したんだね。

エリー いい話じゃん。

小木 あの夜、母娘の壁が取れたんじゃないですかね。

三万円で草むしり

エリー それから少しして、奈歩ちゃんからインディアンの儀式に誘われたんだよね。これもこの本に書きました。奈歩ちゃん、ありがたいネタ元です(笑)。野外に木と布でドームを作って、その中に熱い溶岩石を入れて、それをみんなで見つめるのね。そうすると心が解放されたり、トラウマが解消されたりするの。

小木 はいはいはい。俺はずっと断わってたの。なんかうまいこと理由つけて。

エリー 奈歩ちゃんから「エリー、インディアン興味ある?」ってメールが来たから、「あ、なくはないですよ」って。

小木 ないだろ、普通(笑)。

エリー 「あいつなら行くんじゃね?」と思われたのかな。いくらですか?って聞いたら――エッセイでは金額は書かなかったんだけど――三万円! 五千円くらいかと思ってたのに。しかもそんだけ払ってまずやらされるのが、草むしり。

小木 それも含めての儀式だからね。奈歩がそれからも四、五回行って、さすがに俺も断りきれなくなってきて、ついに行ったのね。房総でスウェットロッジをやるってことで、遅れて参加した。

エリー どうして?

小木 午前中は草むしりやらされると思って。

エリー サボってるじゃん!

小木 川でお浄めみたいなことをするじゃん? でも川がないから海でやると。ちょうどみんなが海に入るところで合流したの。五月の晴れた日曜でね、ビーチで家族連れがバーベキューしたりしてるんですよ。そこに俺が行って、上半身裸になるんです。女の人はTシャツを着たままだけど、男の人は脱ぐのね。それで、みんなで手を繋ぎながら海に入らないといけない。掛け声みたいなのがあるんだよね。なんだったっけ?

エリー えーと、「みたけおやしん」!

小木 十人くらいが横並びで手を繋いで、海に入っていくのよ。「みたけおやしん!」って叫びながら。外房だから、波が高いんです。繋いだ手を水面に叩きつけながら歩いていくんですよ。周りから見たら完全にカルト宗教だよね。ちらっと振り向くと砂浜で家族連れが笑ってるわけ。やばい、小木が入信したと思われてるわ、って。

エリー 小木さんだってバレてる?

小木 バレバレよ。

エリー 一緒に写真撮ってくださいとか言われなかった?

小木 そんなヤバいやつに写真ねだらないでしょ。

ムッシュとのお別れ

エリー あの頃は本当によく遊んでたよね。青春だった。最近は絵の仕事で忙しくて、誰とも遊べてない。私たち、「仕事が嫌い」というのが唯一の共通点なのに。

小木 最近遊んでないのは、ムッシュが死んじゃったからかなあって俺は思ってた。ムッシュが繋いでくれてたんだなあ、って。

エリー 死んじゃったんだもんねえ......。初めて家族以外の骨を拾いました。奈歩ちゃんが焼き場に誘ってくれて。そのときの小木さんと良子さんの会話がおかしかった。「まだ焼けないのかしらねえ?」「えっ、焼けた?」「あ、ほら焼けたって〜!」とか言って。パンか何かみたいな。そのあと二次会で......。

小木 あれ、二次会っていうの?(笑)

エリー ......精進落とし、って言うんですか? レストランでみんなで食事して。そうしたら最後のほうで小木さんが骨壺の入った箱をかついで「わっしょい、わっしょい!」とか言い出したの。

小木 そのうえ、エリーが箱の上にあったムッシュのニット帽をかぶってさあ。

エリー 違う! 奈歩ちゃんだよ。骨壺のお神輿が一段落してほっとして、ふと隣を見たら奈歩ちゃんがかぶってたの。

小木 親戚だから顔もちょっと似てて、「ムッシュが生き返ったみたいだ!」ってみんな喜んじゃってね。

エリー 「エリーもかぶれ!」とか言われて、嫌だなあって思ってた。

小木 ひどい言い方。

エリー 骨壺をお神輿した人がよく言うよ。

小木 あの家族のなかではちょっと異常にならないとやっていけないのよ。

エリー 小木さんがいちばん異常だよ!

※この対談のロング・バージョンを『なんとか生きてますッ』巻末に収録しています。

 (おぎ・ひろあき 芸人)
 (おおみや・えりー 作家/脚本家/映画監督)

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