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ニセイヘイシゲキセンノキロクニッケイアメリカジンノダイニジタイセン二世兵士 激戦の記録―日系アメリカ人の第二次大戦―

柳田由紀子

660円(税込)

なぜ米陸軍最強部隊となったのか? 「偏見と差別も敵だった」――苦悩と慟哭の戦記。

日本人の血を引きアメリカで生まれた「二世」。アメリカと日本、そしてヨーロッパやアジア、太平洋の島々で、二世兵士は日本人の美徳を発揮し、壮烈に戦った。その姿は、米大統領の心をも揺さぶるものだった。米陸軍史上最強の第一〇〇大隊、第四四二連隊、“米軍の秘密兵器”情報語学兵、そして日本兵になった二世、GHQ、朝鮮戦争……。未だ激戦の記憶が生々しい元兵士たちの膨大な証言から浮かび上がる第二次大戦。

なぜ『山河燃ゆ』は全米放映中止になったのか?

柳田由紀子『二世兵士 激戦の記録 日系アメリカ人の第二次大戦』

柳田由紀子

「慌てて街に飛び出すと、日系紙の号外が配られていたんですが、大見出しの真珠湾の『湾』が横に倒れていました」
 本書の校了直前、ロサンゼルスに96歳になる日系米国人二世を訪ねると、古老は開戦の日をこう振り返った。新聞社もよほど慌てていたのだろう。
 私はこの日、ディビッド・アキラ・イタミ(伊丹明)のことを聞きたくて古老に逢った。イタミは1950年に自殺した「東京裁判」の言語裁定官、かつて大河ドラマ『山河燃ゆ』の主人公のモデルになった人物である。1911年、鹿児島から移民した両親のもとカリフォルニアで生まれ、2歳で日本に渡り19歳まで居住。彼のように日本で教育を受け米国に戻った二世は「帰米」と呼ばれるが、古老とイタミは戦前からの帰米仲間だった。
 実は、84年に『山河燃ゆ』が米国で放映されると、日系社会の猛抗議にあって前代未聞の放映中止に追い込まれている。けれども、私にはその理由がいまひとつわからなかった。校了前になんとか納得できる答えが欲しかった。古老が差し出したイタミ直筆の遺稿集からは、二つの国の狭間で懊悩し自殺へと追い込まれる様が痛いほど伝わってきた。そして、あるページに「自分の母国語は日本語だ」の文章を発見した時、私はすとんと合点のいく思いがした。
 意外なことに二世は日本語が苦手だ。片言の日本語は話せても、大半の二世は完全に英語の世界に生きている。「祖国とは国語だ」とはよく言ったもので、英語と日本語の能力バランスが、そのままその人の日米両国との距離感、愛情の度合いを表すことを私は本書の取材で学んだ。母国語が日本語だったイタミの心は、明らかに日本寄りだったはずだ。また、だからこそ日本人好みで大河ドラマのヒーローにさえなったのだろう。
 だが、「それが二世の代表として全米放映されたのでは誤解を招く」、要は「困る」と日系人たちは言いたかったのだ。「困る」の背景には、二世が流した数多の鮮血があった。あの国で生きていくために、多くの二世が米国人であることを証明すべく戦場に向かった。一方、二世の忠誠心を疑った米政府は、彼らに一般兵より苛酷な軍令を与えた。“弾よけ”を承知で欧州戦に向かった二世、アジアや太平洋の島々で父祖の国の兵隊と対峙した二世、その彼らの家族の大半は強制収容所に入れられていた。差別のために踏まれても踏まれても、二世兵士は悲壮なまでに良き米国人であることを示すために戦い続けた。だから、日本寄りの二世がドラマの主人公では「困る」のだ。
 イタミは、おそらく日本で一番有名な二世だろう。しかし現実には、3万6000名もの無名の二世が第二次大戦を戦った。私はそれを記録しておきたかった。米軍史上最強といわれた第一〇〇大隊/第四四二連隊、“米軍の秘密兵器”情報語学兵、日本兵になった二世、そして戦後のGHQから朝鮮戦争まで――本書は、そんな二世たちの証言から綴った第二次世界大戦記である。

 (やなぎだ・ゆきこ 在米ライター)


柳田由紀子 『二世兵士 激戦の記録 日系アメリカ人の第二次大戦』 978-4-10-610479-4

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