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対談・鼎談

オオヤサントボクコレカラ大家さんと僕 これから

矢部太郎

1,210円(税込)

日本中がほっこりしたベストセラー漫画、涙の続編!

日本中がほっこりしたベストセラー漫画、涙の続編! 季節はめぐり、僕と大家さんとの楽しい日々に少しの翳りが見えてきた。僕の生活にも大きな変化があり、別れが近づくなか、大家さんの想いを確かに受け取る僕。美しい感動の物語、堂々完結。

矢部太郎『大家さんと僕 これから』刊行記念対談

鉄拳さんと僕

2017年の刊行後、手塚治虫文化賞短編賞を受賞するなど大きな話題となった
矢部太郎著『大家さんと僕』。その続編の刊行にあたり、
芸人でパラパラ漫画家の鉄拳さんと矢部さんの対談が実現しました。
プライベートでも仲が良いお二人に「人気漫画家」としての喜びや苦労、
創作のヒミツなど大いに語って頂きました!

 鉄拳  ×  矢部太郎

矢部 いきなりですが謝りたいことがありまして......。

鉄拳 え!? なんですか!?

矢部 随分前のことになりますが、バラエティ番組「エンタの神様」で「せっけん」という鉄拳さんをパクッたキャラで、しかも「こんな○○は嫌だ」という鉄拳さんのフリップネタをそのままやっていた時期がありまして......。

鉄拳 なんだ、その話ですか(笑)。もう20年近く前のことですよね。

矢部 プロデューサーに言われるがままだったとはいえ、本当に申し訳ありませんでした! 公の場で一度きちんと謝罪しないといけないなと思って。

鉄拳 僕は一度しか出たことがないのに「エンタの神様毎週見てました!」といまだに声をかけられることがあります。でも結果、僕のネタの宣伝をしてくれたわけですから、全然気にしていませんよ。

矢部 何か食べたいものとかあったら言って下さい!

鉄拳 って随分簡単な謝罪じゃないですか!(笑) でも食事よりも、漫画の方がいいかな。1話分だけでいいから、「鉄拳さんと僕」を描いて下さいよ。

矢部 わ、そんなことでいいならいくらでも描きます!

鉄拳 『大家さんと僕』は1冊目の雑誌連載時に初めて読みました。4ページの1話分だけ読んで正直、「物足りないな」と思ったんです。でも1冊にまとまった後に再度読むと、その物足りなさがちょうど良かった。全編「濃い内容」だったらこれほどヒットしなかったと思います。

矢部 ありがとうございます! 僕自身が漫画を読んでいて「疲れるな......」と感じる瞬間が結構あるので、そうならないように、背景の描きこみやセリフを可能な限り減らすなど気を付けました。

鉄拳 駄菓子で例えると......シフォンケーキなんですよね。

矢部 駄菓子じゃないし!(笑)

鉄拳 一口がさらっとしているから、気持ちよく最後まで食べられる。1冊を通じて、すっきり読むことができました。

矢部 80代の大家さんにも読んでもらいたかったので、単純なコマ割にしたり真っ黒く塗るベタ塗りを避けたり、「見え方」にもかなり気を使いました。

鉄拳 実は全部計算の上なんですね、すごいなぁ。

ヘタなままでいましょう

鉄拳 今回発売される続編もそうですが、矢部君は「構成」も抜群に上手いですよね。1ページずつオチがありながら4ページで一つのお話になっているという各話ごとの構成もそうですが、まず最初に笑いをとって、しばらくは淡々としたエピソードを描き、そして時々感動できる話を挟んで......という全体の構成も素晴らしいと思いました。

矢部 1冊目を読んだ鉄拳さんが「僕に才能があったら映画化したい」と言って下さったこと、本当に嬉しかったです。

鉄拳 あまりに上手いから、ゴーストライターならぬ、裏に別の構成作家がいるんじゃないかと思ったくらい(笑)。

矢部 いませんよ!(笑)

鉄拳 笑い、ほっこり、そして感動という要素が絶妙なバランスで配置されているのは、矢部君がこれまで触れてきた映画や漫画、小説の影響はもちろん、俳優業もやってきた経験、それにやっぱり「芸人」だからこそ描けたものなんだな、ということも改めて感じました。普段の矢部君から笑いのセンスを感じたことは正直ないですが(笑)。

矢部 ちょっと! はっきり言い過ぎですよ!(笑)

鉄拳 そういう僕も人前で緊張して上手く喋れないタイプなので、描くことで何かを表現する方が向いているんだと思います。「エンタの神様」のプロデューサーも僕たちにそういう共通点を見出していたのかもしれませんね。ちなみに、漫画を描くにあたって、誰かに習ったりはしたんですか?

矢部 独学です。漫画を描くデジタルソフトの使い方をプロの漫画家さんに教えて頂くことはありましたが、漫画自体の描き方を習うことはありませんでした。

鉄拳 僕のパラパラ漫画も同じです。でも、師匠につくことも専門的な学校に行くこともしなかったから、「すでにあるもの」と一線を画せて見る人に新鮮に映ったのかなと思っています。だから僕、なるべく絵が上達しないように気を付けているんです。たくさん描いていると自然に上達してしまう部分があるのですが、僕にとっては必ずしもそれがプラス要素にはならないことで......。ヘタな絵だからこそ妙な味が出て応援してもらえていると思っているので。

矢部 まったく同じです! 色んな意味で調子に乗らないように気を付けています......。

鉄拳 僕たち、ネガティブなんだかポジティブなんだか(笑)。

偶然に導かれて

矢部 僕の場合、漫画原作者の倉科遼先生に薦められて描き始めたのですが、鉄拳さんは何がきっかけだったんですか?

鉄拳 まったくの偶然で、最初は番組の企画でした。ちょうど吉本興業に入って3年くらい、周りの芸人さんのあまりの天才っぷりに落ち込み帰郷して別の仕事をしようか迷っていた時期だったんです。

矢部 それが何年か後にあの傑作、「振り子」へと繋がったのですね。

鉄拳 運が良いことに、「振り子」が大きな話題になり賞まで頂いて。以降、パラパラ漫画の依頼をたくさん頂くようになり何とかここまでやってこられました。そもそも、パラパラ漫画を描く人が他にあまりいなかったということが僕にとっては最大のラッキーでしたが(笑)。

矢部 そんなことはないです。鉄拳さんの作品はパラパラ漫画としての質も高いですし、何より鉄拳さんの人柄の魅力がそのまま現れています。真面目さはもちろんですが、人生を肯定している感じも僕は大好きです。

鉄拳 照れますね......。家族愛や友情といったテーマは、リクエストされることが多いということもあるんですけどね。実は今日この後、ちょうど納品する新作があって、持ってきました。

(封筒から次々と原稿の束が出てくる)

矢部 うわー、すごい! これで何枚くらいですか?

鉄拳 1500枚くらいかな。繰り返す部分もありますが、約6分の動画になります。

矢部 コピーとかしないで、全部描いているんだ。すげーー!!

鉄拳 僕の場合、パラパラになった時の「揺れ」も重要なので、1枚1枚全て描いています。

矢部 僕だったら絶対コピーしてます。コピーして少しずらしてごまかしちゃうだろうな......。実際、漫画の背景とかコピペしてますし。

鉄拳 僕の仕事は漫画家とアニメーターの間にいるようなもので、実作業の割合が大きいというか、〆切を守るためにとにかく手を動かすしかなくて、下書きもせずにひたすら毎日10時間くらい描いています。だから常に利き手は腱鞘炎で、もはや肩まで痛み出している......。

矢部 アスリート的な悩みだ......。それにしても下書きをしないとは驚きです。

鉄拳 場面ごとに一番最初の絵となるものだけ描いて、あとは常に直前の絵がそのまま下書きになります。構成や流れも描きながら考えていると言ってもよくて。描き損じたところが細部だったら直さないで適当にごまかしちゃったりもしています。でも、そういった「偶然」が面白みを与えてくれることもあるんですよね。

矢部 すごく分かります! 僕も続編の最終回では、そんな「偶然」がものすごくいい方向に働いてくれました。

鉄拳 ちなみにどこですか?

矢部 テレビ番組に密着されていた事情があって、いったん最終回とその直前の回を入れ替えてみたらそっちの方がしっくりきて、そのままにしました。

鉄拳 そんな重要なポイントが偶然だったとは......。そもそも大家さんと出会ったこと自体が偶然ですもんね。

矢部 そうですね。大家さんと出会わなかったら、僕は漫画を描いていなかったでしょうし。

鉄拳 この先も、もちろん漫画は描いていくんでしょう?

矢部 理想としては80歳になっても漫画を描いていられたらいいなと思います。

鉄拳 僕は自主制作でアクションやホラーというような、これまでとはまた違うジャンルのパラパラ漫画を描いてみたいなと思ってます。

矢部 それは面白そう! 緊張しいの僕が芸人だけで食べていくのはしんどいので、漫画家芸人の先輩である鉄拳さんがこの先どんな道を切り拓かれるのか......めちゃめちゃ参考にさせて頂きます!

鉄拳 またパクらないで下さいよ〜(笑)。

矢部 は、はい......!

鉄拳 「鉄拳さんと僕」楽しみにしてます。

矢部 それは絶対描きます!

 (てっけん お笑い芸人、パラパラ漫画家)
 (やべ・たろう お笑い芸人、漫画家)

矢部太郎『大家さんと僕 これから』978-4-10-351213-4