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対談・鼎談

チノシズク血の雫

相場英雄

1,496円(税込)

スマホをタップした瞬間、あなたもターゲットになる――。ネット社会の深層領域(ダークウェブ)に迫る衝撃作。

東京都内で連続殺人事件が発生。凶器は一致したものの被害者同士に接点がなく捜査は難航する。やがて事件は、インターネットを使った劇場型犯罪へと発展していく――。前代未聞の「殺人ショー」に隠された犯人の真の目的とは。地道な捜査を続ける刑事たちの執念と、ネット社会に踏みにじられた人々の痛みが胸に迫る社会派ミステリ。

『血の雫』刊行記念対談 特集*ダイアローグ!

やっぱりネットはバカと暇人のもの

最先端のネット情報を巧みに配した物語と、予想のつかないスリリングな展開が「週刊
新潮」連載時から話題となっていた犯罪ミステリー『血の雫』。作品がいつも事件化する
「デスノート作家」と「炎上のプロ」であるウェブ編集者が語る、ネットの“いま”とは。

相場英雄 × 中川淳一郎

「事件」を呼ぶ男

相場 実は僕、新作を刊行すると、作品で書いた内容が実際に事件化することがよくあるんですよ。BSE問題や食品偽装をテーマにした『震える牛』(2012年)刊行後には、ホテルやレストランで次々と食材偽装事件が発覚しました。バブル期の財テクによる巨額の負債を扱った『不発弾』(2017年)の時には東芝の粉飾決算が、メディアを巻き込んだ政治の私物化を書いた『トップリーグ』の時は、「モリカケ問題」が弾けて......。

中川 さらに、SNSやネットの炎上が事件の鍵となる『血の雫』刊行前夜に版元の出版社が差別発言で炎上ですか......すごいですね。

相場 今回は連続殺人事件がテーマなので、なんか嫌な予感はしていたんですが、まさかこういう形で現実になるとは思っていませんでした。

中川 殺人事件といえば、最近 Hagex の追悼式に出席してきたんです。

相場 ネット上のトラブルが原因で殺害された、有名ブロガーの方ですね。掲示板で誹謗中傷を繰り返していた容疑者を、Hagex さんが運営側に通報したことで逆恨みされたという記事を読んだのですが、同じテーマの『血の雫』の連載中に事件が起こったので、ちょっとショックでした。

中川 まさか、こんなことが起こるなんて思わなかったですね。ここ十年ぐらいずっと、ネットに関するセミナーなどでは「ネットで炎上しても、実害はない」って言い続けてきました。せいぜい爆破予告が来るぐらいだと。私自身、多分1000回以上炎上していますが、それでも全然元気でぴんぴんしてるから、安心して炎上してくださいって......。でも、この事件でその持論を全部撤回しなくちゃいけなくなってしまいました。

相場 僕は以前、時事通信という会社で記者をやっていて、作家デビュー後に辞めてからは、ネットメディアに記事を書いたりもしていました。すると、急に読者から絡まれるようになったんです。しかも、編集部は守ってくれない。あくまでネット空間だけなのですが、この人たちはどうして絡んでくるんだろう、どういう人たちなんだろうって不思議に思っていたときに、中川さんの著書を読んで、ストンと納得できました。

中川 ネットにはバカと暇人だらけ、ってやつですね。

相場 全く自分とは違う世界に属する人たち、僕で言えば、北関東の幹線国道沿いのコンビニとかモールに集って、アルファードとか乗って、「湘南乃風」聞いてタオル回している人たち。どう考えても話が合わない(笑)。そういう人たちもネット上では、@とハンドルネームをつけてリプ(Twitter でのリプライ)するだけで、すぐ繋がれる。

中川 そういうもんですよ。実生活ではある程度、共通項のある人たちとしか会話しないじゃないですか。でもネットは違う。多分、彼らからしても、相場さんとか私は、よくわかんない人たちなんですね。うざいなこいつら、『カメラを止めるな!』の話ばっかしてる......っていう(笑)。全く同じなんです、彼らにしても。

相場 だから、僕は基本方針として、ネット上では他人をディスらないし、自分の好きなものを押し付けたりもしないようにしてます。でも、ネット空間ってそこがすごくぶつかるでしょ、みんな。

中川 ぶつかりますよ。リオオリンピックの時、開会式見てたらすごい谷村新司にそっくりなおっさんが歌ってた。このおっさん誰だ、ブラジルの谷村新司かってツイートしたら、炎上したんですよ。どうもそのおっさんが、かつて、ブラジルの民主化運動で活躍した人らしくて。左翼っぽい人たちが、こんな偉大な人を知らないなんて、お前はどこまで右翼なんだ、ネトウヨ(ネット右翼:ネット上で右翼的発言をする人)なんだと(笑)、叩かれたんです。

相場 すごい理屈だな。

中川 炎上させる人たちは、勝手に政治の話にすり替えちゃう。要するにネタは何でもいいんですね。さらに言うと、基本的にはリベラル側についていればOK、反安倍であれば大丈夫なんですよ。批判している側に立つと、左翼から味方扱いしてもらえてちやほやされるし、朝日新聞、週刊金曜日あたりも褒めてくれる。

相場 僕は今、朝日新聞系と産経新聞、両方で連載を持っているんですが(笑)。

中川 たぶんね、相場さんみたいな、中道でややリベラル寄りぐらいの人が、今ネットでは右翼扱いされちゃうんですよ。安倍政権が長くなりすぎたせいで、左の極端な人たちが、あまりにも傷つきやすくなっているから。

相場 ネットの独特な空気感というか、人間関係が、最初は気持ち悪かったのですが、慣れてくると面白くなってきたんです。ツイッターや Facebook をやってると、意外な人がもの凄いヘイト発言をリツイートしてたり、明らかに宗教系の商品を絶賛していたりする。その二面性というか、皮を一枚めくった人間の素顔を観察するのが楽しくて。

中川 その取材の集大成が、この『血の雫』なんですね。

ネットに搾取される人たち

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中川淳一郎 1973年東京都生れ。
ネットニュース編集者。週刊新潮で
「この連載はミスリードです」を
連載中。他の著書に『バカざんまい』
『ネットは基本、クソメディア』など。

中川 『血の雫』、ものすごく面白かったです。メインの連続殺人の部分は勿論ですが、脇で登場するキャラクターや事件の元ネタを想像するのに夢中になってしまいました。PC遠隔操作事件の「ゆうちゃん」こと片山祐輔が出てたでしょう。豊田真由子と丸川珠代を足して二で割ったようなキャラとか。

相場 ありがとうございます。僕も自分で書いていて楽しくって。

中川 相場さんの観察眼の鋭さを見たのが、炎上の描写。カリスマ主婦モデルのインスタが炎上するくだりがありますが、ネットのバカさ加減の本質をついてますよね。熊本地震の時に長澤まさみが笑顔の写真をアップして炎上したでしょ、それを思い出しました。

相場 これも、いろんな人のSNSアカウントを取材した成果ですね。カリスマ主婦モデルは僕の知り合いの友人で、彼女のインスタグラムの写真がすごいんですよ。毎晩パーティーしてシャンパン飲んでる。フォロワー数も膨大なのですが、彼女、いわゆるマルチ商法の広告塔なんです。そうなると逆に、彼女をフォローして、「いいね」して、商品を買わされている人たちのことが気になってしまって......時間もお金もみんなネットに搾取されているという。

中川 そういう人は、時間の概念も金銭感覚も希薄なんですよ。たとえば、辻希美ってアンチがいっぱいいるじゃないですか。しょっちゅうブログの炎上が話題になっていますが、そのアンチの人たちのことを考えると気の毒で......。だって、彼女を叩くためにわざわざブログを見に行くでしょ。彼女が一日に何回も何回も更新するのを全部確認して悪口書くのって、最低でも三十分ぐらいかかると思うんです。ブログのコメント欄は検閲制だから2ちゃんねるまで出張せざるを得ない。毎日三十分彼女のために使って、通信代も払って、辻ちゃんはブログだけで、私の推測だけど、月一〇〇〇万円超稼いでるのでは。

相場 すごいですね。

中川 お前の一クリックがどれだけ彼女を儲けさせてるか解ってんのか、って教えてあげたい。ただ、搾取されている側の方も気持ちがいいんですよ。有名人が使っているものを買って気持ちいいし、辻ちゃんをディスってすっきりして気持ちいいし......って、これってもしかして、win-win の関係?

相場 そこにメディアも乗っかっている。タレントがテレビ番組でこんな発言しました......なんてネタで記事が成立する日が来るとは、記者をやっていたころは思ってもみませんでしたよ。

中川 膨大な時間とお金を使って取材した社会派の記事よりも、グラビアタレントがブログで胸の谷間を公開したとか、そういう記事のほうが圧倒的にアクセス数が多いんです。残念な現実であるし、それこそ私が「ウェブはバカと暇人のもの」といった所以でもあります。

相場 テレビ見て、まとめ記事読んで、ブログ読んで、それを叩いて、またテレビ見て......。

中川 実は永久機関なんです、これ(笑)。まず誰かがテレビでしゃべります、これをネットニュースが記事にして、スポーツ新聞も記事にします、それで2ちゃんねるまとめができます、その情報を一般ユーザーがSNSでシェアします、そのシェアが炎上した場合、またネットニュースが記事にします......って、ずっとひとつのネタで回っていくんですよ。

癒えないトラウマ

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相場英雄 1967年新潟県生れ。時事通信
勤務の後、『デフォルト 債務不履行』で
ダイヤモンド経済小説大賞を受賞しデビュー。
他の著書に『血の轍』『ナンバー』『リバー
ス』『ガラパゴス』など。

中川 今のネットの異様な空気というか、政治をめぐる激しい対立っていうのは、やっぱり東日本大震災の福島から始まっているような気がします。実は、『血の雫』の真の読みどころは、この七年間のネットの変遷を物語の中に凝縮させて、きっちり押さえているところだと思います。

相場 ありがとうございます。政府が堂々と国民に嘘をついたというトラウマから、まだみんな立ち直っていないんですね。七年経った今でも、政府発表の情報を信じず、冗談みたいなガセ情報を得意げに語っている人たちがいる。

中川 いろいろな炎上を見ていて思うのですが、きっかけは義憤なんですよ。悪意じゃない。みんな、自分は正しいことを書いていると思っていて、それに共感する人たちが次々出てくるから、快感を覚えてしまう。今のネットの何が問題かといえば、気に食わないものを、あまりに簡単に糾弾できてしまうということに尽きます。他人に賛同するときや肯定するときよりも、怒ったときの方が声がでかくなるでしょう。それが見事に表れているのがインターネット。

相場 気に食わないものなんて、本来スルーしてきましたよね、昔は。お金払ってまで嫌いな雑誌や本を買わないから。

中川 さらに、ネットがどんどんリアルと融合してきたせいで、実生活との境がなくなってしまった。隣人に腹を立てて殺しちゃったっていう事件は、これまでいくらでもありましたが、同じことがネットでも起こりうるようになってしまった。以前は、ネットを仮想現実と呼んでいましたが、もう違うんですよ。

相場 もう「仮想」ではなくて、「現実」ということですね。

中川 だから、ネットは道具として使うことに徹するのをお薦めしますね。思想だとか、感情だとかを乗っけなければ、こんなに便利なツールはない。

相場 インターネット見ててもろくな情報は取れないから、本読もうぜってお薦めしたいですね(笑)。『血の雫』では、そのあたりの怖さを、全力で描いていますので、ぜひ。

 (あいば・ひでお 作家)
 (なかがわ・じゅんいちろう ネットニュース編集者)

 (2018年9月21日 神楽坂にて)

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