対談・鼎談

2018年7月号掲載

「僕僕先生」シリーズ 完結記念対談

僕たちにとっての始まりの物語

仁木英之 × 三木謙次

ツンデレ美少女仙人・僕僕先生とニート青年・王弁の中国冒険ロードノベルシリーズが、第十一巻にして、感動のフィナーレを迎えました!
この十二年間を振り返って、著者とイラストレーターが初の対談に臨みます。

対象書籍名:『師弟の祈り 旅路の果てに―僕僕先生―』
対象著者:仁木英之
対象書籍ISBN:978-4-10-137441-3

燃え尽きたシリーズ最終巻

三木 「僕僕(ぼくぼく)先生」シリーズ最終巻『師弟の祈り』の刊行、本当におめでとうございます。仁木さん、書き切りましたね!

仁木 ありがとうございます。デビュー作をシリーズ化していただき、その上、十一巻まで出版させていただけるなんて、本当にありがたいことで、幸せなシリーズです。

三木 書き終えてのご感想は?

仁木 第一稿は去年の晩秋に書き終えたのですが、その直後は、小説を書く手があまり進まなくなりました。僕の中では一番大きなシリーズだったので、燃え尽きたんでしょうね。平均して一日二十枚くらいは執筆していたのですが、五枚くらいしか書けなくなって......。予感はしていたので、慌てずに受け止められましたが。

三木 あのラストは、いつ頃、決めたのですか。

仁木 前作の『神仙(しんせん)の告白』を書いている時には、すでに決まっていました。三木さんのご感想も聞かせてください。

三木 最終巻は読みながら、ずっと第一巻の『僕僕先生』のニュアンスを感じていたので、「遂に仁木さんは、『僕僕先生』の世界を一周、回り終えたんだなぁ」と感慨深かったです。

仁木 どのキャラクターを描くかはすぐに決まるものなんですか。

三木 最終巻ですし、僕はとにかくたくさん描きたかったのですが、全部描くとぐちゃぐちゃになってしまうので、いつも以上に悩みました。ちなみに、このシリーズは、僕が描いたイラストを、装幀デザイナーさんがカバー、表紙、本扉、章扉に配置してくれるんです。どこに誰を置くかは、デザイナーさん、担当編集者さんと相談しながら決めていきます。

仁木 揉(も)めませんか?

三木 揉めません。「このキャラクターはここ」という感覚が一緒なのでしょうね。本扉にはその巻の主要キャラクターを置いているんですが、今回は、やはり王弁(おうべん)になりました。カバーには、第一巻と繋がるように、重要アイテムである杏をあしらい、仁木さんと僕で、十二年間、積み上げてきた物語への想いを込めました。

仁木 カバーの魃(ばつ)は、最高ですね。

三木 子どもっぽくないですか? 魃のようにグロテスクな容姿のキャラクターは、原稿通りに描いてしまうと、化け物にしか見えなくなってしまうから。

仁木 心配ご無用です! 嫌な印象もありませんし、化け物にもなっていません。しかも一目で、魃だと分かる。劉欣(りゅうきん)も最初に見た時、「おぉ! これこそ劉欣」と感動しましたし、僕が一番楽しく書いていたデラクもイメージ通りでした。

三木 仁木さんのデラクへの愛は描写から伝わってきていたのですが、デラクは一番難しかったです。僕は、ゲラにイラストを描き込みながら読み進めていくんですが、デラクは双子で、化粧をとると全然違う顔で、太っていて......。けど、仁木さんのイメージ通りなら、良かったです。ちょっと安心しました。

仁木 バッチリです。逆に、描きやすいキャラクターは?

三木 那那(なな)と這這(しゃしゃ)です。「僕僕先生」シリーズ以外でも描いている顔なので、何も考えなくても描けるくらいですよ。

執筆が辛かった時期

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三木 シリーズ全体を振り返って、ご執筆が大変だった時期はありますか。

仁木 第五巻の『先生の隠しごと』の頃です。実は、「僕僕先生」シリーズは、マイノリティの集まりなんですね。劉欣、薄妃(はくひ)、魃も。

三木 確かに! 王弁もですね。

仁木 ええ。マイノリティであるが故にしんどい想いばかりしている人にだって、良い事は起きるし、達成感を得られるんだよということを伝えたかったんです。作家デビュー前、不登校の子どもを集めてフリースクールを開いていたことも影響していると思います。しかし、お話を進めていく上では、主人公の王弁を成長させなければなりません。当時の僕は、成長=マイノリティからマジョリティへの移行を意味すると考えていたので、王弁の成長は、マイノリティを活躍させるというテーマと矛盾してしまうのではと悩んでしまったんです。それがちょうど、『先生の隠しごと』と第六巻の『鋼の魂』の頃で、辛かったですね。第七巻の『童子の輪舞曲』という短編集を書いているうちに、マイノリティをつきつめれば、かっこよくなるだろうと吹っ切れたので、以降はどんどん成長させました。王弁はヘタレを極めてかっこよくなったんです。

三木 では、マジョリティに属するキャラクターはいますか。

仁木 王方平(おうほうへい)ですね。彼はマジョリティの象徴です。

描き直したい欲求

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三木 王方平も第一巻から登場するキャラクターですが、確か、『僕僕先生』の原型は短編だったんですよね。

仁木 五行ほどの短編でした。僕僕と名乗る仙人が来て帰ったという、それだけの話です。それがネット上の短編コンテストで勝ち残ったので、長編に膨らませてみたんです。

三木 当時から、全十一巻という構想はあったのですか。

仁木 いえいえ。『僕僕先生』は「日本ファンタジーノベル大賞」への応募作品ですが、僕はこの一作で完結させるつもりで書いていたんです。ところが、大賞をいただいた後に担当編集者さんに、「続きを書きませんか」と言っていただき、シリーズ化することになりまして。実は、応募原稿のラストでは僕僕先生は王弁の元に帰ってこない設定にしていたのですが、シリーズ化するならそれではまずいので、単行本化に際して帰ってくるように設定を変えました。三木さんは、『僕僕先生』以前に小説のイラストを手がけたことはあったのですか。

三木 ほぼ、『僕僕先生』が初めてです。あの時、カバーイラストだけご依頼いただいたんですが、手順を分かっていなかったので、たくさん描いてしまって。そうしたら、章扉をはじめ、他の所でも使っていただけて、以降、それがスタイルとして定着しました。

仁木 第一巻のイラストを今、見返すと、どういう印象ですか。

三木 第一巻は俯瞰して見る余裕があるので、「わりとがんばってるな」という感じです。けど、九、十巻あたりは恥ずかしいですね~。ありがたいことに、第一巻で僕のことを多くの人が認識して下さって、書籍のお仕事も増えました。

仁木 お仕事の幅が広がったんですね。それは僕も本当に嬉しいです。このシリーズをここまで続けられたのは、三木さんのイラストの力が大きいので、あらゆる意味で、僕は感謝ばかりです。

三木 とんでもないです。僕も一緒にお仕事ができて、本当に楽しかったです。十二年間、お互いに健康だったから出来たことですよね。いち早く読める楽しみがなくなってしまうのはちょっと寂しいですが......。

仁木 この物語は終わりましたが、僕らにとっては、始まりの物語です。これからもお互いの本が書店の店頭を彩っていけるように、がんばりましょう! そして、また三木さんと新しい作品でご一緒させていただきたいです。

三木 もちろんです。待っています!

(にき・ひでゆき 作家)
(みき・けんじ イラストレーター)

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