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対談・鼎談

コンチュウガクシャハヤメラレナイウラヤマノキジンハイカイノキ昆虫学者はやめられない―裏山の奇人、徘徊の記―

小松貴

1,210円(税込)

ようこそ、知られざる昆虫たちと、それを追う昆虫学者の驚くべき生態の世界へ!

近所の裏山であらゆる生き物と戯れながら育った少年は驚異の観察眼を手に入れ、「奇人」と呼ばれる無双の昆虫学者となった。深夜の森にガの交尾を見つめ、雪の中で擬態するトンボに感涙し、洞窟を這ってメクラチビゴミムシを探し、新種発見かと思いきや糠喜びで身悶えする――極小世界の神秘を写真とともに描く極上エッセイ!

『昆虫学者はやめられない 裏山の奇人、徘徊の記』刊行記念トークイベント @ la kagū

「昆虫愛!」

速報版!

さる5月9日に神楽坂《la kagū》で繰り広げられた
“奇才”芸人と“奇人”昆虫学者の超絶マニアック昆虫談義。
トコトン語って語り尽くせぬ昆虫たちの深奥なる世界。
日常生活には絶対に役立たない、その話の行き着く先は……
偏愛か、偏執か、さもなくば変態か!?

小松貴 × 片桐仁

昆虫を探そう!

 本日は昆虫学者の小松貴さんと、ある時は俳優、またある時は彫刻家、奇才の芸人、片桐仁さんのトークショー、題して「昆虫愛!」にいらしていただきありがとうございます。昆虫学者の小松さんはもちろんですが、片桐さんは昆虫などをモチーフとした精緻なオブジェの作成でも知られており、ご家族でも昆虫採集に出かけられるとか。今日は徹頭徹尾、昆虫話。マニアックなひとときを!

 ということで、まずはウォーミングアップをいたしましょう。これからお見せする写真の中から昆虫を探して下さい。撮影はもちろん小松さんです。(写真①)

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 写真① わかるかな~?

片桐 え、いっぱいいます? これ。

小松 ええ、これいっぱいいるんですよ。実のところ私も何匹いるのか把握してないんです(笑)。ただ、少なくとも十匹以上は確実におるんですよ。

片桐 全体に白っぽいですが雪ですか?

小松 これはですね、地衣類っていって苔みたいなものですが、その地衣類が生えてるところにだけいる昆虫です。

片桐 そんなところに!?

小松 えーとですね、これ実は、アリジゴクの仲間がいるんですよ。例えばここ。

片桐 ああ、すごい! そう、これだ。これが口ですね。(写真②)

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 写真② これでどうにか!

小松 そうです。牙がありますね。百八十度、ガッと開いてる形で、正式な名前はコマダラウスバカゲロウという......。

片桐 あ、やっぱりウスバカゲロウ、

小松 の幼虫です。

片桐 この状態で待ってるんですか。

小松 そうです。普通のウスバカゲロウの幼虫、いわゆるアリジゴクと呼ばれているやつは縁の下とか砂地にすり鉢みたいな巣を作ってるんですけど、この種に関しては巣を作らないんですね。地衣類が着生した岩の表面にへばりついたうえで、自分の体の表面にもその地衣類をいっぱいくっつけてるんです。

片桐 へー。

小松 その状態で牙をガッと開いて、獲物が来るのを延々待ってるんですよ。

片桐 何を食べるんですか?

小松 基本的に、歩いてきた虫だったら何でも食べるんですけど、ただ、こいつ、動かないんですね。本当に目の前に獲物が来てくれないと捕食行動に移れない。要するに射程が短いんですよ。なので、餌にありつける頻度がものすごく低いんですね。多分、半年ぐらい......。

片桐 え、半年って、マジっすか?

小松 何も食べなくても平気です。

片桐 嘘でしょ~。

小松 水っけさえあれば、ずっとこのまま待ってます。本当に気が長い虫です。

片桐 昆虫を探そう、っていうから、なんかもうちょっとね、コノハムシだったりとか、そういうのかなと思ったら、いきなりアリジゴクの仲間から始まった。

――次、行きましょう。(写真③)

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 写真③ お尻の"足"でつかんでます

片桐 え、わかる? 枝じゃん。え、え? これ、どれですか。

小松 これ、実のところ、ど真ん中に写ってるのがそれでして。

片桐 え、え? こ、これですか?

小松 これです(笑)。これがですね、シャクトリ......。

片桐 まだわからない(笑)。

小松 (笑)。シャクトリムシなんですよ。

片桐 シャクトリムシ?

小松 はい。シャクトリムシといっても、シャクトリムシの中にもいろんな種類がいて、クワエダシャクという蛾の幼虫なんです。名前のとおり、桑の木の枝にだけついてるシャクトリムシの仲間です。お尻のところに枝をつかむための特別な足があって、これでずっとしがみついてるんです。で、実はこれ冬眠してる状態なんですよね。

片桐 冬眠してるんですか?

小松 はい。このクワエダシャクという蛾は、幼虫の状態で越冬するんですけれども、まったく野ざらしのこの枝のところに、この体の尻の近くにある、この二対の足っぽいもので......。

片桐 いや、もう足でしょ。それでずーっと冬の間、つかまってるんですか?

小松 そうです。もう雪や雨や風にもさらされながら、ここにずっとしがみついてます。

片桐 これも見つけるの大変でしょ?

小松 一見これ大変そうに見えるんですけど、慣れるとわりと簡単に見つけられるんです。

片桐 慣れるって、どのぐらいよ!

小松 一年ぐらいかかりました(笑)。

片桐 一年かけて......。

小松 慣れました。桑の木の太い幹から、ちょっと出てるような枝。強い風とかに晒されても、あまり折れないんですよね。

片桐 折れたら大ごとですからね。

小松 なので、そういう折れない枝の付け根部分に着目すると、初めて行く場所でも、わりとすぐに見つけられます。

片桐 これ初めて認識したとき、相当うれしかったですか?

小松 「それ見たことか!」と。

片桐 でも真冬に探しに行くんですよね。

小松 もう。それが生きがいですからね。

片桐 何だったら今日だって靴に泥すごいついてるから、「どうしたんですか」ってきいたら、今日も行かれたとか。

小松 はい。さいたま市の見沼田んぼに。

片桐 今日は何を見に行ったんですか。

小松 ホシアシブトハバチというハチの幼虫をちょっと探しに行って。残念ながらちょっと寒過ぎて、いなかったです。

トンボ浪人、三年目!

――さらに次行きます。(写真④)

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 写真④ たしかにトンボなんだけど......

片桐 いや、もうわからないって! この小枝的なやつのどれかですか。

小松 そうですね。これも真冬なんです。

片桐 この杉だか、松だかの葉っぱっぽいやつですか?

小松 これはですね、まあ、この写真だったらわかる人はわかるはずですが。

片桐 さっきと同じパターンですか? それとも違うんですか?

小松 シャクトリムシっぽく見えて、実はトンボなんですよ。これはホソミオツネントンボといって、冬、トンボの形で冬眠するトンボです。

片桐 えぇー!

小松 日本にいるトンボの多くは卵か幼虫の状態で、水の中とかで越冬するんですけど、三種類のイトトンボだけは成虫の姿で冬眠します。で、その中のこのホソミオツネントンボというのはですね、夏ぐらいに羽化するんですけれども、そのまま冬が来る前ぐらいになりますと、薄暗い杉林みたいなところに移動していって、枝をしっかりつかんだまま......。

片桐 つかんでますね、全ての足でね。

小松 そのままピクリとも動かず冬を越す。写真だけ見たら、もう見紛うことなきトンボなんですけれども、これを枯れ野の中から見つけ出すというのは、すーごい大変で、一シーズンで一匹見つけられればいいほうです。

片桐 いや、一シーズンって何回やってるんですか!(笑)。

小松 私、これ探そうと思い始めたのが何年前だったかな、六、七年前ぐらいなんですが、最初の一年は全然ダメで。

片桐 最初の一年はダメで(笑)。浪人ですか!

小松 ええ、そうです。トンボ浪人です。

片桐 (笑)。

小松 二浪、三浪......。

片桐 三浪!

小松 ぐらいで、やっと見つけられた。

片桐 これ(笑)、どうやって見つけたんですか?

小松 えーとですね、まず、これを見つけるには、このトンボの気持ちにならなきゃいけないんですね。

片桐 そうですね......って、エッ!?

小松 要するに、どこで冬眠したほうが一番冬眠が失敗しないかということを考えなきゃいけないんですよ。

片桐 なるほど、なるほど。

小松 こういう何の障壁も防御もなしに冬眠するような虫というのは、それなりに、場所を選ばないといけないんです。

片桐 強風とか大雪とかね、あと枝が折れちゃうとか。

小松 はい。とくに冬、冬眠する虫にとって一番危険なのが、真冬の突発的に一日だけ暖かい日とか。虫は春が来たと思って冬眠から覚めちゃうんですね。でも、覚めちゃっても、また次の日、真冬の寒さですから死んじゃうんですよ。

片桐 だから温度変化が少ないところ。確かにこのへん薄暗いですもんね。

小松 はい、すっごい寒い場所なんです。もういるだけで、陰鬱な気分になれる。

片桐 (笑)。それを三浪して。

宮古島に行ったけど......

――ところで片桐さん、最近ナナフシを探しにどこかに行かれたとか......。

片桐 そうです。この前、家族で宮古島に行ってでっかいツダナナフシってやつ。あれを探したのですが、捕まえられなくて......。でも、地元の人たちも、ほぼ見たことないと言ってまして。

小松 私も日本では見たことがなくて。一応、知らない方々のために補足しますと、ツダナナフシという長さ十センチ以上で、太さ一センチぐらいあるかな、バカでかくて太いナナフシがいるんですよ。

片桐 バカでかいやつね。

小松 沖縄のとくに南のほうにだけいるナナフシで、海岸沿いに生えているアダンという棘だらけの植物で、もう下手に手を出すと血だらけになるような。

片桐 革手袋持っていきましたからね。

小松 それの茂みにだけいるというナナフシなんです。私は台湾に行ったときに見たんですけど、日本ではまだなくて。みんなあれ捕まえて、うちに持って帰ろうとするんですね。しかも結構簡単に育てられる。ですから日本国内では、野生よりも、昆虫館にいるツダナナフシのほうがはるかに多いらしいです。

片桐 ところで小松さんは宮古島は行かれたことあるんですか。

小松 実は何回か行ったことがありまして、まあ当然ながら、虫を探すためだけの目的で行ってるんですけど、一回も海で泳いだことはないんです。

片桐 なんでだよ。泳げよ。最高なのに(笑)。でも、やっぱり宮古島にしかいない固有種というか。

小松 そうなんです。ゴキブリです。

片桐 え、泳ぎもせずに、宮古島にゴキブリを探しに行った!

小松 宮古島は石灰質の島で、洞窟がいくつもあって、洞窟にだけ生息している、珍しいゴキブリがいるんですよ。ミヤコモリゴキブリという。(写真⑤)

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 写真⑤ 幻のゴキブリです

片桐 いい名前ですねぇ。でも、うわー、ゴキブリですねぇ。

小松 形はまあ、モロ普通のゴキブリなんですけども、羽が退化して短くて飛べないんですよ。で、なおかつ、体の色が非常に薄いんですね。洞窟の入口の付近だけにしかいないものです。

片桐 (笑)。へぇー。

小松 で、このゴキブリは、一九〇〇年代の初頭ぐらいに、ゴキブリのすごい高名な専門家がいるんですけど、

片桐 ゴキブリ博士!

小松 いるんですけれども、その人が最初の一匹を見つけて、新種だという論文を書いて以降、誰も見つけていなかった。

片桐 え?!

小松 なので、今、地球上に生きているのかどうかわかんなかった。それで見つけてやろうと思って行ったんですよ、宮古島に。二泊三日ぐらいのすっごい短い時間だったんですけれども、徹底的に調べて、原付バイクで島じゅう走り回って、

片桐 洞窟に!

小松 はい。一箇所で二~三時間探し回るんですよ。最初行った二箇所で全然見つからなくて、最後にはなんだかんだで夜になって、その洞窟の入口に二匹いた。

片桐 でも、これは地元の人からしたら、何でもないゴキブリ。

小松 えー、多分、地元の人は......。

片桐 でも、その一九〇〇年代初頭に見つけられて以来、二回目ってことですか。

小松 そうですね、多分(笑)。普通にシレッと今、写真出しちゃいましたけど、これ、けっこう貴重な写真です。

片桐 すみませんね。ゴキブリって言うんでウワッと思っちゃいましたけど。

小松 見つけたときはもう、「そら見たことか!」と思って。

片桐 (笑)。「いるんだよ」って。

小松 ええ、そうなんです。

......というお二人のトークショー「昆虫愛!」。まだまだ続きますが、完全版は六月以降、新潮社ウェブマガジン『Webでも考える人』にアップ予定です。宮古島のさらなる幻のゴキブリ、アリの巣に棲むアリヅカコオロギの超絶マニアックな識別法、その他、千葉にある"夢の国"は超希少ゴミムシの楽園だったとか......。乞うご期待。

 (かたぎり・じん 俳優、芸人、彫刻家)
 (こまつ・たかし 昆虫学者)

小松貴『昆虫学者はやめられない 裏山の奇人、徘徊の記』978-4-10-351791-7