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書評・エッセイ

若宮イズムに大いに共鳴したい

――若宮正子『60歳を過ぎると、人生はどんどんおもしろくなります。』

茂木健一郎

 人間には様々な思い込み、固定観念がある。
 私たちは本来自由なのだが、自ら「檻」をつくって自分を閉じ込めてしまう。そのような制約を外してくれる「発見」があると、「おっ!」と思い、心の中にさわやかな風が吹き始める。
 若宮正子さんのことを初めて知ったのは、TEDxTokyo で登壇され、お話された時のこと。81歳でプログラミングを始めて、iPhoneのアプリを作られたという。そして、米国で開かれた世界の開発者向けの会議で、アップルのCEOのティム・クックさんと話したという。
 このプロフィールだけでも、若宮さんが私たちの固定観念を破る人だということがわかる。
 80歳を超えて iPhone のアプリ開発?
 アップルのカンファレンスでティム・クックさんと話す?
 どういうこと? たくさんの「?」が飛び交うだろう。
 私自身、普段から、脳には無限の可能性があると強調している。何歳になっても、脳は成長することができる。神経細胞がつなぎ変わる「可塑性」は、年齢を重ねても維持できる。だから、若宮さんのようなご活躍は、脳科学的には十分あり得る。それが「サプライズ」になってしまうのは、私たちが固定観念という「檻」に閉じ込められているからだろう。
 若宮さんは素晴らしい。その挑戦する姿はすべての人が参考にしたら良い。ここまでは、プロフィールだけからもわかった。しかし、それでおしまいではなかった。
 今回、若宮さんのご著書『60歳を過ぎると、人生はどんどんおもしろくなります。』を読んで、そのあまりのユニークさに驚愕した。正直、ここまで「面白い」方だとは、想定していなかったのである。
 例えば、CNNから取材のメールが来た時のエピソード。サイト更新に間に合わせるため2時間以内の回答を要請された若宮さん。なんと、驚くべき行動に出る。
「2ページ分ぐらいの質問票を全部コピペして『グーグル翻訳』で日本語にして、日本語で返事を書いて、それをまたコピペして『グーグル翻訳』で英語にして......。無事に、時間内に間に合わせると、その30分後には世界中に配信されていたという、驚くべき展開の速さ!」
 確かに、何も間違っていない。だけど、まさかそんなことを、80歳を超えた方がされるなんて、世間の「常識」は想定していない。だからこそ痛快であり、面白い。
 世間の「常識」の中にいれば、「世界のCNN」から問い合わせが来たら、「英語の表現として大丈夫か」とか、「私なんてとても」とか、そんな風に躊躇するだろう。若宮さんの中には、そんな固定観念がない。コピペして、グーグル翻訳でホイホイしてまたコピペである。
 何と素晴らしいのだろう!
 他にも、若宮さんの生き方には、固定観念にとらわれた人が目を白黒させるようなユニークさが満載。
「アップルから招待されたとき、私は自作の『世界にひとつだけのペンダント』をつけていきました。そのペンダントは、独学で習得した初心者向けの3D製図用のソフトで設計して、3Dプリンターのある工房で作ってもらったもので、とてもお気に入り」
「私の趣味に加わったお琴。『お琴を始めたの』なんて話すと『素敵ねえ、すごい!』と言われますが、なんのことはない。iPad のアプリでできてしまうのです」
 いや、本当に脱帽である。確かに、若宮さんの言われる通りなのだが、それを出来ない方、いや、出来ないと思い込んでいる方が、世の中の大半だろう。
 本書は、あらゆる年齢層の方に読んでもらいたい。若宮さんのユニークな生き方が、読む者を自由にする。若者からお年寄りまで、若宮イズムに大いに共鳴したら良い。
 若宮さんの初恋の方が、若宮さんがCNNのサイトに載った時に送ったという素敵な言葉を、私もこの本に対して贈りたい。
 若宮正子さん、この本は「ホームランだ」。

 (もぎ・けんいちろう 脳科学者)

若宮正子『60歳を過ぎると、人生はどんどんおもしろくなります。』978-4-10-351371-1