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波

対談・鼎談

ゲキジョウ劇場

又吉直樹

1,123円(税込)

一番会いたい人に会いに行く。こんな当たり前のことが、なんでできへんかったんやろな。

演劇を通して世界に立ち向かう永田と、その恋人の沙希。夢を抱いてやってきた東京で、ふたりは出会った――。『火花』より先に書き始めていた又吉直樹の作家としての原点にして、書かずにはいられなかった、たったひとつの不器用な恋。夢と現実のはざまでもがきながら、かけがえのない大切な誰かを想う、切なくも胸にせまる恋愛小説。

『劇場』刊行記念対談

尽くす女、嫉妬する男

同い年の才能が語り合った、人間関係のいちばん柔らかい場所――

壇蜜 × 又吉直樹

壇蜜 又吉さんの新作『劇場』は、小さな劇団の主宰者の永田が、服飾の学校に通っている沙希と出会って......という恋愛小説ですが、男女の会話やメールがヒリヒリして息が詰まるようでした。又吉さんご自身も、男女の間に限らずとも、ああいう拗らせたようなメールなどのやり取りはよくなさるんですか?

又吉 あそこまでのはないですかね......いや、あるか? あるかもしれないです(笑)。

壇蜜 それはどなたと?

又吉 小説みたいな恋愛とかではなくて、ずっと僕に絡み続けて来る人でも割と無視しないんですよ。

壇蜜 返事を返すんですね。相手にするというか。

又吉 対応しちゃうんです。早めに撤退した方が楽なんですけどね。壇蜜さんは人間関係であまり揉めなさそうですね。

壇蜜 揉めない方だと思います。

又吉 シンドイですもんね。

壇蜜 シンドイし、覚えていられないんですよ、いろんなことを。直接会って喋るのでも電話でも、長いこと文句か何かを言われているうちに、「あれ、この人、最初何て言ってたっけ」とか思い始めて、ポカーンとしているうちに、相手がさらに逆上していく、という悪循環です。

又吉 壇蜜さんから怒ったりはしない?

壇蜜 私は怒りが持続しないんですね。というか、体力がもたない(笑)。でも、 ケンカするほど仲がいいって言いますけど、個人的には、ケンカする人とは大抵うまくいきません。

又吉 僕もそう思いますね。中学時代から今までずっと仲がいい友達がいますけど、一回もケンカしたことないです。

壇蜜 やっぱり。気が済むまでケンカして、それで仲直りしてうまくやっていける人たちもいますけど、誰もがケンカするほど仲がいいとは限らない。「そこ、個人差があるからね」って言うと、また怒られるんです(笑)。「今はケンカしてても、僕たちは分かり合えるはずだから」。だから、「だって今、ケンカしてるのは分かり合えてないからじゃないの」と。

又吉 それ、口に出して言っちゃうんですか?

壇蜜 はい。

又吉 向こうは粘ってきませんか(笑)。

壇蜜 粘ってきます。「それは君の本心じゃないだろう」とか言うので、「本心なんかないよ。私は玉ねぎと一緒だから」と(笑)。

又吉 剥(む)いても剥いてもずっと玉ねぎだぞって(笑)。それ、すごく分ります。

壇蜜 人間関係の上だけでなく、なぜテレビでも、すぐ本心とか本音とかを言わそうとするんでしょうね。よく言われませんか、「素の又吉さんを」なんて?

又吉 僕、よく言われる方かもしれません。「まだ知られていない又吉さんを」とか......。

壇蜜 そのうち副都心線あたりの中吊り広告で見そうですね。「まだ知られてなかった素顔の又吉直樹さん!」とか(笑)。

又吉 そういう質問されると、僕はいつも、「何で今まで隠してきたことを、ここであなたに言う可能性があると思えるの?」って思う(笑)。

壇蜜 三十ウン年、隠し通してきたことを(笑)。

又吉 隠すのには理由があるわけでしょう? 「これを言ったら生きづらくなる」とか「誰かを傷つける可能性があるな」とか思って、言わないわけですよね。「それを何で、今あなたの前で出すねん」と思う時はあります。でも、向こうの気持ちも分るというか、お互いさまというか、僕らも出始めの頃は「実はこんなんですよ」というトピックを必死で出していたんですよね。コンビでやっているから、相方の綾部は熟女好きとか、僕は本が好きだとか。

壇蜜 何かマスコミで取り上げられやすいポイントですよね。

又吉 はい。それを取材で聞かれたり、アンケートで答えたりして、一周回ったら、「本以外で何か」ってなるんですよ。ほな、「喫茶店、好き」とか「散歩、好き」とか答えて。三周目にもなると、「本とサッカーとファッションとコーヒーと散歩は分ったので、他に趣味、何がありますか?」。そんなにないでしょう(笑)。

壇蜜 たくさん過ぎると、もう趣味じゃない(笑)。

又吉 僕、趣味はわりと多い方やと思うんですよ。でも、「何か新しいことを」とか「このひと月で何かハマってることは」とか、そんな聞かれ方をします。僕はそれにできるだけ答えるようにはしているんですが、無理やり、興味ないものをあるって言ったり、何かに詳しいふりしたりするのは辛いですよね。壇蜜さんは、新しいものを吸収していこうというタイプではないんですか?

壇蜜 ええ。さっきのお話じゃないですが、デビュー当時に「いかに取り上げられるか」と世間に出したものに、今は苦しめられているような状態です。

又吉 そういうことってありますねえ。

壇蜜 調理師免許を持っていることを割と言ってきたので、「料理はお得意なんですよね」って。「いやいや、クックパッドがなければ何もできないんです」(笑)。私はタレントになって七年目ですが、今は広げて見せていたものをちょっとずつ回収する作業をしています。かつては、やたら「かつら剥き」をするキャラクターだった時期もありました(笑)。

又吉 やってましたね。僕も......あれ、壁に打つテニスみたいの、何でした?

壇蜜 スカッシュ?

又吉 「最近はスカッシュをやりたいと思ってて」って言ったことがあります。スカッシュって単語ももう出ないのに(笑)。あの時は、自分でも「そんなはずないやろ。大丈夫ですか、これ」と思いながらやっていましたね(笑)。

壇蜜 無理やりに外へ出してしまったものって、自分と食べ合わせが悪いパターンが多いですよね。

又吉 実際、スカッシュをやってみたら面白かったし、真剣にやっている人も一杯おるから「オリンピック競技になったらいいのに」と思いますけど、やっぱり継続してはできなかったです。人によっては、「これ、むちゃくちゃ好きなんですよー」とか言って、やってみたら全然できへんで恥かくけど、そこで笑われる潔さを出せる人もいます。でも壇蜜さんとか僕みたいなタイプがそれをやると、見ている人がいたたまれなくなりそうな......(笑)。

壇蜜 きちんと闇に葬り去れるのか、視聴者から心配されるタイプ(笑)。タイプで言えば、タレントやっている以上、自己顕示欲がまるでないわけはないけど、「見て〜、私の暮らし」「いいでしょ〜、みんなもやろうよ」みたいなテンションにはなれない方です。

「ヘンや」はもういいけど

又吉 『壇蜜歳時記』(大和書房)を読ましてもらったんですけど、あの本に「何でもかんでも面白がればいいってものじゃない」みたいなことが書かれていたのに共感したんですよ。僕は芸人で、常にふざけるとかボケるとかが美徳とされる世界にいますが、僕はわりとマジメな時があるんです。それが周りからすると逆にボケに見えるらしいんです。で、「何でそこ、マジメやねん」と言ってもらえる。でも、何か「今はふざけちゃアカン」という時があると思う方なんです。

壇蜜 けど、それを突っ込んでもらえるからいいですよね。芸人らしさ、と両立できているわけですもんね。

又吉 僕が「普通」と微妙にズレているのかもしれないです。まあ、何が普通か分からないけど......。あ、でも高校時代はちゃんとした普通の高校生でした。中学まではよく「浮いている」とか「ヘンや」とか言われていたのが、高校ではきちんと校則通りに制服着て、挨拶して、誰からも突っ込まれないようになりました。自分では「高校生のコスプレ」をやっている感じでしたけど。

壇蜜 『劇場』の登場人物たちは群れに馴染めずに苦労していましたが、又吉さんは、心は馴染んでないんだけど、表面上のスタイルとか外への出し方を馴染ませられた時期があったんですね。

又吉 そのまま突っ走れる強さがある人はいいと思いますが、そんな自分を俯瞰で見たり、客観的に見てしまう視点を持った人間は、一回は普通に馴染んどかないと、あとで突っ込まれた時、えらい恥ずかしいと思うというか......。まあ学生と違って、芸人は別に普通でなくてもいい職業だとは思いますけど、さっきのマジメな時の話みたいに、僕の中の「普通」でいると、それが「ヘンな自分」を演出しているみたいに思われたりもして――。

壇蜜 一周回っちゃう感じ。又吉さんは普通でいるのに作っていると思われる。

又吉 「ヘンや」とか言われるのは子どもの頃から慣れているから、そこに対する喜びはないねん、って言いたいんですけど......。

壇蜜 もう、「ヘンだね」「へへ、そうかな」は、何十年も前に又吉さんの中では終わってる。

又吉 終わってるし、飽きてるし、そこは端折(はしょ)って次の段階へ行ってほしいけど、初めて会う人とは永遠にそこをやり続けないといけない。そんなことをやっているうちに、また普通とは何か、よく分からなくなってきたりもします。

壇蜜 『劇場』の永田はどうでしょう? 「普通って何?」ということを考えてなさそうな気がします。いや、本当はどうしたらいいか、何となく分かっているけど、そんなふうに振る舞う自分が許せない、のかな。

又吉 永田は、簡単に言ってしまうと、周囲との関係性をうまく築けないんですね。下手くそというか......永田は物事や人間関係を複雑に考え過ぎたりすんねんやろな。

尽くすことを禁じられる方が

壇蜜 おかしな事を言うようですが、永田と沙希は同棲していて、おそらく狭い部屋で一緒にいて、シングルベッドか何かでぎゅうぎゅうになって寝ている感じですよね。でも、セクシャルなことを全く想像できなかったんです。作者が匂わせてもいないだけでなく、読む私も、ここで性描写とかセクシャルなイメージを想像しちゃいけないんだろうなって感じたんです。

又吉 それは......永田自身が嫌がったんですかね。つまり、二人の行為自体をじゃなくて、読者に二人の行為を想像させることが嫌だったというか。

壇蜜 私は「書かれていること以外は想像しなくていいからね」とちょっと拒否されている感じがしたんです。又吉さんも、セクシャルなことを持ち込んだらいけない、と考えられていたんですか? 『火花』の時は、愛情やセクシャルな情感を感じる場面も沢山あったんです。

又吉 永田の視点で書いているので、ヘンな言い方ですが、たぶん永田が書くべきこと以外は書いていないのかもしれません。永田の中の優先順位として――彼の記憶の中の優先順位というか――、性的な体験みたいなものは高くないんでしょうね、きっと。例えば、恋人が屁をこいたから窓を開ける、なんて日常的に起こりうる場面も書いていないことと同じかもしれません。ひょっとしたら、お互い傷つけ合ったとか、理解しようとし合ったけどできなかったとかの方が永田の記憶では重要なのかもしれないです。

壇蜜 永田さんは、家というものを寝る場所とか箱とかしか考えていないのかもしれませんね。一方で、沙希さんは永田さんが家にいないとダメな人じゃないですか。

又吉 そうですね。

壇蜜 二人の居場所に対する考えの違いが印象的でした。理解しようとしているのにスレ違っていって、どんどん息苦しくなっていく感じが圧倒的です。沙希は永田に尽くしたいんだけど......あれは、「尽くす」と呼んでいいんですかね。

又吉 ええ、そのまま見たら、尽くしているように見えますよね。

壇蜜 私も実はけっこう、沙希さんくらいのことはしちゃうんです。生活の面倒を見る人が必要なんだったら、自分がその役をやってもいいや、くらいは思います。だから、沙希が永田に尽くすところまでは自然に読めたのですが、その先がおそらく彼女と私は違ってくるんだと思いました。「この人が好きだ」っていう感情であそこまでひたむきになれるのは、きっと沙希は自分の得意なもの、好きなものがハッキリしているんだろうなと感じたんです。沙希は永田さんが好き、服作りが好き、将来はよくわかんないけど家族が好き、先輩たちが好きっていう、「好き」が多い人なんだろうなと。私は、自分の嫌なところを浄化させたいから相手に尽くしたい、みたいなところがあるんですよ。尽くすことで徳が積めるんじゃないかなと。悪く言えば、尽くす相手を踏み台にして極楽へ行こう、というような。

又吉 ふふふ。確かに、沙希は苦しんでいるけど、それはあの関係性で苦しんでいるんじゃなくて、結局永田を好きだから苦しんでいるんだと思うんです。尽くしたい人は、尽くすこと自体はしんどくない、むしろ尽くすことを禁止される方がつらいって言いますもんね。

壇蜜 私、「僕が何でもやってあげるよ」って人は選べない(笑)。

又吉 僕は永田的なわがままなところもあるし、沙希みたいに「意味わからん」と言われるくらい尽くすところもあるんです。『劇場』は恋愛小説ですけど、僕の場合、お節介なんですかね、恋愛でなくても、男女問わずに、「なんでそんなにやってくれるの」って言われるくらい尽くす時があります。自分でももう目的が分からなくなるくらい尽くすから、相手が引いているのが分かる(笑)。でも、自分はしんどくないんですよ。見て見ないふりをしたり、「家族やないしなあ」って干渉しない方がしんどい。相手と一緒にボロボロになる方が、僕には楽な時があるんですね。でも、相手にとって、それがいいとも限らなくて......。

壇蜜 「あなたが甘やかしたから、結局ダメにしたのよ」みたいに責任転嫁されますね。

又吉 まさに、そう言われたことあります(笑)。

壇蜜 でも、尽くすって、まさに共生ですよね。生きる力を分け与えている。最近、尽くす人って減ったのかな。「尽くしたい気持ちはあるけど、相手がいない」という人は多いんです。それで、「本当に好きな人に出会えてないんです」「本当にじゃない好きな人とは付き合ったの」「そんな不埒なことできません」「不埒なことしないと、本当に好きな人になんか出会えないよ」って言うと、ものすごく嫌な顔されて「そんなこと言うなんて最低!」(笑)。

又吉 そりゃ、付き合ううちにだんだん好きになる場合もあるやろしね(笑)。

嫉妬の解決法は

壇蜜 沙希さんが尽くす女なら、永田さんは嫉妬する男でもありますね。恋愛ではなく仕事面で、芸人さんってやはり嫉妬......しますよね?

又吉 僕は高校卒業して、よしもとの学校(NSC東京校)へ入ったんですが、そこには五百人弱いましたかね。成績優秀者だけがライブに出られたり、選抜クラスに振り分けられたりする中で、みんな嫉妬を感じていたと思います。

壇蜜 芸人さんが己が保てないくらい嫉妬した時は、ひたすら相手の受けているネタを見るしかない、って話を聞いたことがあります。本当ですか?

又吉 それは一例だと思います。僕はデビューしたての頃、嫉妬みたいな感情があったんです。同世代で世の中へ出て評価されている人を見てね。「あれ、自分がああなると思っていたのに、そうじゃなかった。自分はあっち側の人間じゃなかったんだ」と理解して受け入れるまでは嫉妬みたいな感情はありました。だけど、それ以降はあんまりないというか、そんな考え方をしないようになりましたね。ところが、そこに後ろめたさがあるんですよ。つまり、「なんで永田みたいに、全てを直視して、きちんと真っ向から傷ついていかへんねん」という声が僕の中にあるんです。

壇蜜 永田は額の向こう傷とか多そうですもんね。嫉妬するのを分かってても、正面から見ていくから。諦めても、まだ前を見るから。

又吉 僕も逃げるつもりはないけど、ちょっとズラして考えたりするじゃないですか。ハッキリ傷つく前に、「あいつらと自分は違う。じゃあ、何があんねんやろ。とにかく、自分の好きな事やるしかない」みたいな結論になるのが早かったりする。それを永田は全部受けに行くし、周囲にも当然「何逃げてんねん」って厳しくなるし。

壇蜜 永田の劇団の女優だった青山さんはいい餌食になりましたね。彼女は永田を傷つけもするわけですが。

又吉 僕からしたら、青山はわりと正論を言っているんですよ。でも、「そこまで言ったら反感買うよ」と思える発言を繰り返す永田には頑張ってほしいというか、僕は嫌いになれない。自分の周囲を見ても、僕をすごく気持ちよくさせてくれる人より、「なんでわざわざ、ちょっと傷つけてくんねん?」って人の方が友達に多い気がする(笑)。壇蜜さんは仕事面の嫉妬ってありますか?

壇蜜 二十九歳でデビューした当時、「君は土俵が違うから、他の子たちとは比べられないからね」って、DVDの監督やカメラマンからさんざん言われてきたんです。「君は浜辺で走って、バランスボールに乗ってはしゃいだり出来ないから」と。おかげで私は端からいろいろ諦めたので、「どうしてあの子には、あんな仕事があるのに、私だけずっとシャワーホースを体に巻きつけてロデオマシーンに乗らないといけないの」って嫉妬せずにすみました。

又吉 独特なお仕事をされてきましたね(笑)。

壇蜜 最初に「比べられないからね」と頭ごなしに言われたのが、結果として非常に良かったんです。言った人は、きっとヌードのDVDを撮りたいためにコントロールしようと思っていたのでしょうが、私の道が逸れていったので、いい教育だけしてくれて卒業した感じです。

又吉 それはラッキーでしたね。僕が嫉妬していた頃、「比べられないからね」と自分で思えるまで、やっぱり一、二年かかりました。今でも「それ、言い訳ちゃうか」「そう思うてるの、自分だけや」とか考えが揺れる時もありますからね。

壇蜜 本当に幸運だったと思います。毎回、ものすごく「君は勝負するところが違うんだから」とか言われ続けて。だから、コントなのかエロティックなのかよく分からないような撮影も「まぁ、いいか」と出来たんでしょうね。嫉妬は自分を成長させもするけど、ストップもさせますしね。

又吉 嫉妬で立ち止まってしまうマイナス面の方が多いかもしれないですね。最近は、何か言われていますか?

壇蜜 私たち、同い年ですよね(一九八〇年生れ)。そろそろスポーツ選手だと引退する人も多くなってきて......。

又吉 お笑いで活躍している人は、マラドーナと同じ年代の人が何人もいらっしゃるから感覚が麻痺しそうになるけど、自分のことで言うと、体力や集中力がいつまで持つかなと思いますよね。

壇蜜 畑は違いますが、私も「今のままでいけるわけないじゃん」と思っています。すぐに劣化とか衰えとかって言われるだろうし。それでマネージャーに「いつまで出来るか分かりませんよ」って言ったら、「あ、大丈夫。しれっと脱げばいいんだから」と。これは「おお、第三者の意見!」って刺激になりました。

又吉 周囲に恵まれていますね(笑)。

壇蜜 又吉さんは恋愛方面ではあまり嫉妬されませんか?

又吉 昔はしていたけど、だんだん、「そもそも、なんで自分が好かれているっていう前提にしてたんやろ」と思うようになって、嫉妬しなくなりましたね。壇蜜さんは?

壇蜜 心のコスプレとして、わざと嫉妬することはあります。

又吉 三十六、七歳の男って、あんまり嫉妬せえへんのかなあ......。嫉妬しないということは、半身しか乗っていないというか、「まあ、こいつも他所で何してるか分らんし」とかわざと思って、自分が傷つかないように、半分くらいしか己を捧げていないのかもしれないですね。

壇蜜 私、敢えて「前の彼女になんて呼ばれていたの」って訊いて、その呼び名で呼んでいる時もありました。実は『劇場』の主人公と同じ苗字の人でしたが、彼を前の彼女のおかげでしばらく「ながにゃん」と呼ぶハメになりました(笑)。

又吉 いま思い出したことですが、お付合いしていた人の町へ遊びに行ったことがあるんです。高校時代のことです。そしたら、ある男の人にバッタリ会ったんですが、彼が僕とそっくりだったんですよ。見た目、恰好、坊主頭、もみあげの感じ、ママチャリの自転車と(笑)。彼女は決してその人を見ないし、その人も「あっ」みたいになっていて、僕は「ああっ、もうこれ一〇〇%そうやろ」と思って。それで実際、そうだったんです。

壇蜜 あ、彼女に訊いたんですね。

又吉 何となく訊きました(笑)。で、僕はその人に似ていたから、彼女に選ばれた可能性が高いな、と気づいた。体型もサッカー部の筋肉のつき方をしていたし、プロフィール書いたら、あの人とほぼ一緒やなと(笑)。

壇蜜 嫉妬しましたか?

又吉 しなかったと思います。ま、ちょっとショックはあったかもしれないです。「彼女の好きなタイプやから、二人は当然似ている」のならいいけど、向こうがオリジナルで、コピーとしてこっちが発見されたのなら嫌やなと(笑)。でも、いま久々に思い出したくらいなんで、そんなショックじゃなかったですよ。その夜、電気消した時に、ちょっと考え込んだくらいです。

壇蜜 お話を伺っていて思ったのは、永田は又吉さんみたいに明るく解消できる思考回路がないから、ひたすら内向してウジウジしちゃうんでしょうね。

又吉 だからまあ、永田は僕じゃない、ってことです(笑)。

壇蜜 永田は「まだ知られてなかった素顔の又吉直樹さん!」じゃないと(笑)。

 (だんみつ タレント・文筆家)
 (またよし・なおき 芸人・作家)

又吉直樹『劇場』978-4-10-350951-6