対談・鼎談

2017年7月号掲載

『また出た 私だけが知っている金言・笑言・名言録②』刊行記念スペシャル・トーク

突っ込みとは、訂正力である!

高田文夫 × 相沢直

対象書籍名:『また出た 私だけが知っている金言・笑言・名言録?』
対象著者:高田文夫
対象書籍ISBN:978-4-10-100441-9

img_201707_07_1.jpg
高田氏(右)と相沢氏

高田 どうも、タブレット純です!

相沢 (笑)高田先生の書籍といえば、古今東西さまざまな芸人さんを取り上げることで知られていますが、今回の本では、ムード歌謡漫談で注目を集めている、タブレット純さんも登場しますね。

高田 なかなか彼を取り上げる人はいないでしょ? タブレット純の上手なイジり方を知っているのは俺ぐらいだからね。イジり方もイカせ方も知っているんだから......って、俺は上質なAV男優か!?

相沢 『また出た 私だけが知っている金言・笑言・名言録②』はタイトル通り、第2作目ということですが、そもそもこのシリーズはどうして生まれたのでしょうか。

高田 金言集とか名言集というのはよくあるでしょ。でも笑言と、それにまつわる笑い話やエピソードとなると、書けるのは私しかいないだろうと、新潮社から声をかけてもらったんだ。

相沢 でも芸人さんだけでなく、本当に多岐にわたる人たちの言葉が集まっていますね。

高田 芸事でも何でも同じだけど、20代や30代の読者が知りたい芸人に詳しいとか、60代の人だけが喜ぶエピソードに詳しいとか、年代ごとに語れたり書けたりする人はいるんだよね。でも、10代から70代まで、どの年代の読者にも色々なエピソードを提供できるのは俺だけだろうという自負はある。1980年代の漫才ブームの時、俺は番組制作をはじめ、直接関わった。で、今回の落語ブームだけど、周りを見回してみると、同じ立場で残っているのは俺だけ。両方の時代に現場に居たのは俺だけなんだよね。漫才ブームでは(ビート)たけしさんがいて、落語ブームではクドカン(宮藤官九郎)がいてね。評論家は資料で書くかもしれないけど、俺は常にそこにいたからね。

相沢 両方のブームを、まさにオンタイムで知ってらっしゃるわけですね。やはりその現場に、居ることが大事なんですね。

高田 そう。関わること、首を突っ込んでいるのが大事だよ。どれだけおっちょこちょいで野次馬でいるかってことでもあるよね。

相沢 それにしても、高田先生はテレビはもちろん、ラジオも聴くし、落語会や芝居やライブにもこまめに足を運ばれるし、とにかく現場で"観て"いらっしゃいますね。

高田 本当に好きなんだよ。子供の頃からテレビとラジオが大好きで。三木のり平さん、八波むと志さんを観ていると、本当に幸せだった。それは今も同じで、面白い喜劇人を観ているときほど、幸せな時間はないね。今でもそう。若手でも面白い子を観るのはたまらない。三四郎とかカミナリとかミキね、観ていて嬉しくてしかたないよ。それでラジオに呼んで直接話もする。このスタイルはずっと変わらないね。

相沢 でも、自分の一番好きな事が仕事になってしまうと、嫌になってしまうこともあるじゃないですか。自宅ではお笑い関係は一切、シャットアウトするとか。そういう方もいらっしゃいますよね。

高田 スケールは違うけど、長嶋茂雄さん。凄いでしょ。6月4日のイースタンリーグの試合で始球式に出て、小学生のピッチャーに4球投げさせたんだよ。残念ながら打てなかったけど、長嶋さん、そのうち必ず打つつもりでいるね。だから辛いリハビリも、まったく苦にならないんだと思う。

相沢 本当に野球が好きなんですね。高田先生がお笑いを好きなのと同じですね。

高田 きっと長嶋さんは家に帰っても素振りしているよ。俺も家に帰ったらカミさんに冗談ばっかり言っている。これがラジオより面白いんだから。客が人一倍厳しいからさ、よりレベルが上がるんだよね。

相沢 ところで、この本は笑えるエピソードも満載ですが、もう一つ、貴重な戦後の大衆芸能の歴史を教えてくれる本でもあると思います。前からお伺いしたかったのですが、高田先生は常にメモを取っておられるのですか?

高田 基本は頭の中だな。自分で面白いと思った事はすぐに記憶しちゃう。でも、長いものとかはメモを取るようにしているから、記憶とメモと二刀流だな。

相沢 僕は今、水道橋博士が主宰しているネットマガジン『メルマ旬報』で、この春から高田先生の評伝『ギョロメ伝』を連載しています。毎月、取材で高田先生にお会いして、生い立ち、時代背景から世相、文化まで、とにかく根掘り葉掘りエピソードをうかがって、後で調べ直すんですが、高田先生の記憶力がもの凄く正確なので、取材のたびに、驚きの連続です。

高田 とにかく覚えた事は忘れないんだ。これを特技というのかね。

相沢 先生は芸人さんの好き嫌いはあるんですか。

高田 よく"関西系は嫌いでしょ"と聞かれるけど、そんなことない。基本的に全員好きだね。

相沢 たしかに、本ではダウンタウンや銀シャリの話も出てきますし、関西の笑芸界の話題も紹介されてますよね。

伝説の『オールナイトニッポン』

相沢 人生で最も大きな出会いとなった芸人さんは誰ですか。

高田 弟子になったくらいだから立川談志師匠もそうだけど、やっぱり、たけしさんだろうな。同世代であの才能に巡り会ったのは、やっぱり運がいいんだなと思うね。

相沢 先生が構成だけでなく、出演もされた、伝説の『ビートたけしのオールナイトニッポン』(以下ANN)ですね。

高田 その前にね、俺、大学出てから10年間、とにかく放送作家として書きまくってた。だけど一緒に仕事をするのがポール牧さん、三波伸介さん、青空球児さん。みんな年上なんだ。三波さんなんか一回りも年上。芸には厳しい反面、原稿を書いて持っていくと、あれこれと教えてくれて、可愛がってくれたけど、なんか違うなと思い始めるのよ。この台詞の間(ま)はこうだよなとか、ここはこうやって欲しいんだけどなァとか、自分の原稿と演者に溝が出来てしまう。俺も若いから、生意気だしさ。

相沢 仕事はあっても、ストレスがたまる環境だったんですね。

高田 そんな時に、ビートたけしに出会うんだ。そうしたら言葉のリズムが一緒。考えていることから、感性まで、みんな同じ。お互い30過ぎてるけど、屈折してたな。俺は忙しいけど、世に名前が出ないし。たけしさんはまだ売れる前で、出番があっても客席がガラガラでね。「やってらんねぇよ」という二人が、出会うべくして出会ったんだな。

相沢 1981年1月1日にANNがスタートした時、高田先生がたけしさんと一緒にしゃべるというスタイルは、当初から想定されていたのですか。

高田 ない。俺も最初は一般の放送作家と同じように、進行表に書いたメモを、目の前のたけしさんに渡していた。でも、たけしさんも俺も、なんか調子が出ないんだよね。そのうち、たけしさんが何か言ったら「そんなバカな」とか「言わせておけば」とか、突っ込みを入れ始めちゃったんだよ。その間がはまったんだね。リズムというか句読点というか。俺が声を出して笑ったら、リスナーもここは面白いところ、突っ込むところなんだ、と分かってくるんだね。逆に俺が黙っていると、これはあんまり面白くないな、と。たけしさんにも伝わるんだよ。今のトークが受けているのかいないのか。

相沢 まさにライブですね。

高田 そこで俺がゲラゲラと笑っている声が、あの松村邦洋には「バウバウ!」って聞こえたんだよね。それが俺のモノマネで後に大ヒットして一世を風靡するんだから。でも「ANNと北野ファンクラブでウケてる高田文夫」なんてネタ、最初は誰も分かんないよな。マニアックすぎて。

相沢 ナインティナインの岡村隆史さん、爆笑問題の太田光さん、脚本家の宮藤官九郎さん、ANNの影響を受けて育った方が、今もラジオの第一線にいらっしゃいますね。

高田 今回の本にも書いたけど、今名前の挙がった人たちのラジオ番組は毎週聞いているよ。その理由は、彼らが面白いからというのもあるけど、俺とたけしさんのANNが負けていないか、チェックするためでもあるんだ。とにかく負けず嫌いで、勝てず嫌いだからさ。

相沢 どうですか?

高田 勝ってるね。TT砲だね。"たけし高田砲"。まだまだみんな、俺たちには敵わないね。

相沢 (笑)やっぱり。

高田 ANNでは色々なことができたし、俺とたけしさんの影響力は強いだろうな。俺の影響を受けたクドカンなんて、再来年は大河ドラマの脚本だからね。ハナタレ坊主が日本一の作家だよ。こんなことが起こるんだから、やっぱり、理屈で言うよりも、笑い話をいっぱい残してあげることが必要だね。そのエピソードで人柄が知られたり、芸事が分かったりって大事だよな。

相沢 特に笑いは瞬間、瞬間で残らないことが多いですからね。

高田 例えば、俺はよく談志師匠の言葉を書くんだけど「バカは隣の火事より怖い」なんて、そうだなって思うし、本当にバカって怖いから奥が深いじゃない。それから(明石家)さんまちゃんの「生きているだけで丸儲け」もいい言葉だよ。タモリさんの「やる気のある奴は去れ」もいいよな。

相沢 真理が出ますよね。重いというか、新しいことわざとして広まってほしいですよね。

高田 言葉って消えちゃうからね。だからこそ、こうして書き留めておきたいんだ。

あのCMソングまで!

相沢 それにしても「ホテル三日月」のCMソングの歌詞が入っているのも笑いました。

高田 こんな本ないだろ? 前の都知事が正月に家族連れで会議していたというホテルのCMソングだけど、作曲したのは、日大芸術学部の俺の同級生なんだ。『およげ!たいやきくん』作った男。あの話題で持ちきりだった時、そういえばこの歌、俺の友達が作ったんだとすぐに思い出してラジオにもすぐ呼んだんだよ。これが不思議だけど、俺って何が起きても、その話題を身近に引き寄せることができる。何かが誰かとつながっている。要は人間好きなんだな。人が好きで、誰とでも絡んでいくから、色んなネタが自然につながっちゃう。

相沢 思い出す材料とか、引き出しが無尽蔵にあるんですね。

高田 そう。だから人呼んで"検索要らず"。

相沢 記憶力とも重なりますが、高田先生のトークにおける反射神経の早さからも、頭の回転の早さが凄いのだなと思います。

高田 早いね。日本一だと思うよ。瞬間で言葉を選ぶセンス。これは実戦で鍛えたものだね。

相沢 やっぱり突っ込みですか。突っ込みの早さと的確さというか。

高田 ただ突っ込むのではなく、訂正する力というのかな。「違うよ!」とか「そうじゃねぇよ!」ではなく「○○という風に言うんだよ!」とか「松村、こうだろ!」って言うのが面白いんだよね。突っ込みとは訂正力である......あ、これ次に本が出る時に使おうかな。

相沢 まだまだ楽しみです。

高田 この本もそうだけど、相沢君にも、今まで誰にも話したことのないエピソードをたくさん話しているし、『ギョロメ伝』もぜひ、いっしょに読んで欲しいね。こっちも秘話満載だよ。俺の人生はイコール、戦後の大衆芸能の全てでもあるからね。

 (たかだ・ふみお 放送作家)
 (あいざわ・すなお 作家)

最新の対談・鼎談

ページの先頭へ