書評

2017年3月号掲載

文系? 理系? それは幻想だ!

竹内薫『文系のための 理数センス養成講座』

竹内薫

対象書籍名:『文系のための 理数センス養成講座』
対象著者:竹内薫
対象書籍ISBN:978-4-10-610705-4

 文系・理系という分類はナンセンスだ。
 そもそも複雑な物事を無理矢理「二分」するのは愚かなこと。政治家がテレビ番組で「YES」と「NO」の札のどちらかを挙げろと言われて怒るのも当然だ。
 私は海外生活が長く、幼少時は父親の転勤でニューヨークに連れて行かれ、25歳から32歳までは極寒のモントリオールに「島流し」になっていた。足かけ10年、海外にいたわけだが、「あなたは理系? それとも文系?」という質問には、アメリカでもカナダでもついぞ出くわしたことがない。
 それもそのはず。理系と文系なんてェ「区別」は、明治時代に日本で作られた代物であり、きわめてローカルかつ時代遅れのルールなのだ。
 実は、同じようなローカルな区別に血液型がある。「B型だといい加減でA型だと几帳面」などという非科学的な性格分類は噴飯物だが、海外で「あなたの血液型は?」なんてェ質問したら、「おまえはオレの主治医なのか? なぜそんな個人情報を知ろうとする!」と、少しおかしな人に分類されてしまうだろう。
 脱線したので話をもとに戻すが、明治時代にいきなり出現したのが、理系・文系という二分法。そんなものは共同幻想にすぎないと、一蹴するのはカンタンだが、実際に日本社会が「あなたは理系? それとも文系?」というマインドになっていることは事実である。
 そこで、日本に蔓延(はびこ)る「文系マインド」に楔(くさび)を打ち込んで粉砕してしまおう! と意気込んで、週刊新潮の連載「もう一度ゼロからサイエンス」は始まった。私には珍しく、最初から新書で出版することを念頭に、昨年末まで約2年、毎週せっせと原稿を書きためていたのだ。
 その結果できあがったのが『文系のための理数センス養成講座』である。驚くべきことに、現在連載中の「科学探偵タケウチに訊く!」を含めて10年近くも週刊新潮でコラムをやらせてもらっているのに、竹内薫著の新潮新書は、なんと、これが初めてである。空気みたいなもので、そこにある(いる)のがあたりまえで、編集部の誰も私の存在に気づかなくなっていたらしい(おいおい)。
 さて、そんなこんなでようやく世に出ることになった本書であるが、もしも本屋さんで手に取っていただけるようであれば、一つだけ留意事項をお伝えしておきたいのです(いきなり丁寧語......)。62頁の真理値から84頁の帰納法までの「論理」の解説は、少し難しいなあ、ともし感じたら、遠慮なくいったん飛ばして、最後まで本を読んだ後にまた戻ってきて、あらためてこの23頁分をじっくり噛みしめていただきたい。この部分は本書の肝なのだが、その分、人によってはそれなりにハードルが高い箇所なのですね。
 それでは、本屋さんにゴー! ということでお願いいたします。

 (たけうち・かおる サイエンス作家)

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