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書評・エッセイ

女子たちよ、闘いを楽しもう

――坂木司『女子的生活』

大矢博子

 足に自信があるからフレアのショーパン、トップスはエアリーなブラウス。ゆるふわモテ系ファッションだけど、女子ウケが悪いからメイクの一部をクールに決めてカーキのジャケットを合わせる。朝食はカルディで買ったアップルシナモンフレーバーのシリアルで、時間がなくてもベースメイクに手は抜かない。出かける前に、鏡の前で一回転。
 男子から見たら面倒臭いとしか感じられないかもしれないけど、女子だもん、楽しいんだよねー、こういうの。
 そんなガールズライフを謳歌しているヒロインのみきは、アパレルメーカーに勤務。職場はブラック気味だけど、同僚のかおりちゃんとは合コンで援護射撃するくらい仲がいい。最近まで友人のともちゃんとルームシェアをしていたが、ともちゃんが恋人と同棲することになり、今は2LDKのマンションに一人暮らしだ。
 家賃を考えると、そろそろルームメイトを見つけなくちゃな......なんて考えていたある日、仕事から帰ると部屋の前に男がいた。高校の同級生だった後藤。元カノの借金のとばっちりで、住むところがないと言う。部屋に入れたのが運の尽き、そのままなし崩しに同居することに......。ちょっと、なんで私が男と住まなきゃなんないわけ!?
 というのが第一章の流れなのだが、この説明だと「なるほど、有川浩の『植物図鑑』とか、高須賀由枝の人気コミック『グッドモーニング・コール』みたいな同居ラブコメだな」と思う人が多いだろうなあ。さーて、ここからどうしたものか。というのも、ここまで私は一切嘘は書いていないが、敢えて触れてないことがあるのだ。
 それがファーストサプライズなので、前情報なしで読んでいただきたいのが本音なのだが、この設定を隠したまま紹介するのは困難。ということでざっくりふんわり書く。
 みきは、ヘテロの女子とは少々(?)異なるセクシャリティの持ち主なのである。
 具体的にどういうことかは読んでいただくとして、本書はそんなみきの生活を描いた連作短編だ。合コンや仕事で出会った人、昔の同級生など、いろんな人と関わる中でのみきの闘いが、パワフルに且つコミカルに綴られていく。
 勝手なドリームを女に押し付ける男、テンプレ思考の男、自己愛の強いかまってちゃんな男、意識高い系家庭的アピール女、他人見下しマウンティング女。「いるいるっ!」とのけぞるようなヤツらを、みきは小気味よくばったばったとぶった斬る。言いたかったけど我慢していたことや、こんなの間違ってると思いながらも抑え込んできたことを、ズバッとスパッと言葉にしてくれる。もうサイコーに気持ちいい。読んでいくうちに、日々の生活の中でたまった疲れや毒がどんどん体から抜けていく気がする。
 と同時に、そんなストレスと闘う毎日が、不思議と「なんだか悪くないぞ」と思えてくるのだ。
 女にとってこの社会は、嫌だったり腹が立ったりすることだらけ。それをあるときは軽やかにかわし、あるときは正面から叩き潰し、負けたときはこっそり泣いて、でも翌日は高いヒールととっておきのワンピで笑いながら前に進む。これってかっこよくない? 至るところにいる敵に「かかってらっしゃい」と微笑んで、闘うことを楽しんで。そのパワーこそが女子力と呼ばれるものなんじゃないか。
 みきの、自分でも「どういうジャンルにいるのかはわからない」というセクシャリティは、日常での困難も多いし将来の不安もある。それでもみきは、女であることを選んだ。そして選んだ性を、力一杯、全力で、謳歌している。だったら、私たち〈フツーの女〉にそれができないはずはない。
 女子たちよ、楽しもう。闘いを楽しもう。
 みきに、そう背中を叩かれた気がした。
 疲れた女子、メゲそうな女子に、一冊ずつ配ってまわりたいくらいの超オススメ栄養剤である。女子だけじゃなく、男子にもぜひ読んでいただきたい。きっとグサグサくるはずだ。
 女子たちよ、楽しもう。闘いを楽しもう。
 私たちには闘いを〈楽しむ力〉がある。本書は、そう高らかに宣言しているのである。

 (おおや・ひろこ 書評家)

坂木司『女子的生活』978-4-10-312052-0