対談・鼎談

2016年9月号掲載

『二世』刊行記念スペシャル・トーク

尾崎豊から引き継いだバトン

黒田俊介(コブクロ) × 尾崎裕哉

対象書籍名:『二世』
対象著者:尾崎裕哉
対象書籍ISBN:978-4-10-350261-6

黒田 「音楽の日」で歌っているのを、観ましたよ。オリジナルの「始まりの街」、すごい良かったです。

尾崎 えっ、ありがとうございます!

黒田 いつ出てくるのかなって、テレビの前でずっと待ってたんです。

尾崎 うわー、うれしいです!

黒田 ギターもすごく目立ってましたね。

尾崎 リトル・マーチンなんです。絵は画家のともだちに描いてもらいました。人前で使うチャンスを狙ってたんです。

黒田 なるほど。白いのは珍しいんでしょ。何か意味があるんだろうな、って思いながら観てたんですよ。

尾崎 あれ、横に僕の名前が大きく書いてあって、後ろにも絵が描いてあるんです。ギターの名前はラ・ムール、フランス語で「愛」で......あ、すみません、僕、ギター小僧なんです(笑)。

黒田 そういうの聞くと、なんか羨ましいな。相方(小渕健太郎(こぶちけんたろう)さん)もそんな話しますから。歴史とか、意味とか。

尾崎 コブクロの結成は1998年でしたよね。

黒田 路上で歌っているときに小渕と知り合って。そのとき僕が歌ってたのが尾崎豊さんの曲だったんですよ。僕らの頃は路上でやるって言ったら尾崎さんか長渕(剛)さん、ちょっと上の人だと(井上)陽水さんの曲っていう感じだったんですけど、僕はとにかく尾崎さんでした。

尾崎 ありがとうございます。

黒田 そもそも、僕が今こうして歌を歌っているのは、尾崎豊さんの「I LOVE YOU」と出会ったからなんですよ。中2くらいのときに、JR東海のCMで流れてるのを聴いて、一気に好きになったんです。その頃カラオケで「I LOVE YOU」を歌ったら、女の子から「カセットに録音させて」って言われて、「俺、いけるんちゃうん」って(笑)。あれがほんとにすべての始まりでした。

 尾崎さんの曲をわーっと聴くようになったのは、亡くなってからです。ああ、なんでもっと早く聴かなかったんだろう、って後悔しました。最後のアルバムになってしまった『放熱への証』を買って、毎日聴いて、歌詞カードを端から端まで穴が開くまで読んで、尾崎さんがこめた意味を全部受け止めようって。あのアルバムが一番聴いたんじゃないかな。

――今日は3年ぶりの再会ですよね。

尾崎 はい、「集まれOZAKI」(註・2013年4月25日に大阪で行なわれた尾崎豊のトリビュートライブ)以来です。あのときのライブで黒田さんは「ダンスホール」と「I LOVE YOU」を歌ってくださいましたよね。

黒田 そうそう、懐かしいなぁ。ひとりでイベントに出たのは後にも先にもあの時だけです。ちなみにひとりで対談に出るのは今回が初めてです。いつも相方と一緒に出て、喋るのは相方の役目なので。

尾崎 ありがとうございます! 僕、前回お会いしたときに、印象に残っていることがあるんです。リハーサルで「ダンスホール」を歌っていた黒田さんにご挨拶したとき、まず「ハグしていいですか」って言われたんですよ。それと、イベントが終わったあとにも「ハグしていい?」って(笑)。

黒田 そりゃ、ハグするでしょ(笑)。

尾崎 黒田さんは父親のことをすごく感じてくれているんだなって、うれしくなりました。

タイトル『二世』にこめた想い

尾崎 実は、前回黒田さんにお会いした頃から、本を書き始めていたんです。

 父親と同じ音楽の世界に踏み出すなら、自分は何者なのか知らなくちゃいけないと思ったんです。これまでの人生で自分が何を経験して、どう考えてきたか、何を大切にして、何に悩んできたか。そういう記憶や想いを言葉にして自分の中から取り出そうとしていたら、なんだか父親と対話しているような不思議な感覚になれたんですよ。

 この3年、本を書きながら曲作りも進めていたんですが、納得のいくものがなかなかできなくて苦しかったです。でも、本を書くために自分の内面をずっと見つめていると、なぜ音楽を仕事にするのか、作った歌を誰に届けたいのかという意識がはっきりしてきて、あれだけ悩んでいたのが嘘みたいに、一気に「始まりの街」を書き上げることができました。本の執筆と曲作りが歯車のように噛み合って、前に進めたような気がします。

黒田 「音楽の日」で聴いたとき、母親へのアンサーソングというだけじゃなく、息子と父親のつながりの曲としてもいいな、と思いましたよ。

尾崎 ありがとうございます。僕はずいぶん長い間、納得のいく歌詞が書けなかったんです。自分が歌詞で伝えたいこと、たとえば愛について伝えたいと思ったら、そこにはすでに「I LOVE YOU」とか「OH MY LITTLE GIRL」があるじゃないですか。僕は父親を尊敬しているし、父親はひとつの理想形なんです。だから、じゃあ、自分はどう歌えばいいんだろう。自分らしさって何なんだろうって、ずっと悩んでしまって。

黒田 誰かが作った曲を強烈に意識しながら自分の曲を作るっていうのはしんどいですよね。しかも、その誰かの曲が強烈な原体験であり、ひとつの理想形なのに、そこから遠ざかるように曲を作るというのは......。お父さんが尾崎豊さんというのは、裕哉くんだけに与えられた「越えなければならない壁」だと思うし、その壁は高いと思う。

(そう言いながら、最初のページに1行だけ記された言葉「誰もが、誰かの二世である。」に目を留める)

尾崎 『二世』というタイトルには、僕の想いをこめているんです。この本は、僕自身の、そして父親、母親との関係を綴ったごく個人的な物語なんですけど、誰もが誰かの子供として生まれ、親の真似をしたり、反発したり、その影響を多かれ少なかれ受けながら育っていくものでしょう。そして、自分の人生を生きる中で「一世」になっていく。この本を手にとってくれる人たちが、それぞれの人生と重ね合わせて読んでくれたら、と思っています。

黒田 『二世』が本になったら、是非読ませて頂きます。

テクニックと魂のバランス

尾崎 黒田さんにうかがいたいことがあるんですけど、いいですか。歌には、聴かせる歌と伝える歌があるような気がしているんですけど......。

黒田 ありますね。うまい歌と感動する歌、と言ってもいいかも。何年も訓練してれば、ある程度はうまくなります。人に聴かせられる歌になる。でも、テクニックは当然大事なんですけど、それだけでは人は感動してくれない。基礎の上に魂が乗っていることが大事なんです。このバランスが難しいんですけどね。

尾崎 はい。

黒田 僕ね、音楽を18年やっていて思うのは、始めたころに戻りたいってことなんですよ。

尾崎 えっ?

黒田 歌い始めたあの頃に、心が若返っていったらなあって。年をとるたび、人は伝えるということに鈍感になっていくような気がするんです。歌詞に意味があるはずなのに、気づいたらただ音階だけを追っている。そういう瞬間が出てきてしまう。その曲のすべてを噛んで噛んで吐き出す集中力って、やっぱりものすごく大変なんですよ。でも、それを持ち続けるってことがなにより大事なんじゃないかなあ。

尾崎 はい。僕はこれからですけど、その大切さはわかる気がします。

黒田 うん。そして余計なことを考えずに、そのステージで全ての力を出し切ること。お客さんは楽しみにして来てくれてるわけじゃないですか。目の前の人を感動でノックアウトするのがエンターテインメントなんです。

 でも、全力でやることがいかに大変か。ツアーだと、歌うのはその日だけじゃないでしょ。ステージが終わった瞬間、「どうしよ、明日絶対声出えへん」って毎回思いますもん。それでもいいって思うのは、尾崎さんのライブを観てるからですよ。あの人は、ステージで爆発して、電池なくなるまできっちり歌う。いや、エンプティになってもまだ伝えようとしてるじゃないですか。あれです。

尾崎 たしかに! わかります。

黒田 だからツアー始まる前とか、煮詰まってきたとき、尾崎さんのDVD観て、歌とはこういうもんだなと確認するんです。教科書みたいなもんですね。

尾崎 実際に声が出なくなった時はないんですか。

黒田 ないです。経験上、ステージで2、3時間、リミットはずしてバカーンって歌って声ガラガラになっても、医者に処方してもらった薬飲んで、半日喉を休めれば、次の日何とか声は出るんですよ。ただ、風邪をひいてるときは、それやったらダメですよ、風邪は一番こわいから。それと、終わって打ち上げ行くのもダメです。

尾崎 気をつけます。

歌にとって大事なことは何か

黒田 出し切るっていうことで言うと、僕の相方の小渕はすごいスピードで曲を作るんですよ。で、作った後はもう何も出てこないって、抜け殻みたいになってるんですけど......「ドラゴンボール」って知ってます?

尾崎 はい。

黒田 スーパーサイヤ人っているでしょ。あんな感じで、ちょっと経って復活したときは、前より強くなってるんですよ。

尾崎 うわぁ。

黒田 だから、やり続けないとダメだなと思うんですよ。全部なくなるまで吐き出して、吐き出して、吐き出して、ってやってると、だんだん幹が太くなってくるんで。デビューの前なんか、小渕はあんなんじゃなかったんですよ。それがいまは道端歩いてるだけで曲ができるんです。

尾崎 トレーニングですね。

黒田 そう思います。小渕はデビューする前も道端を歩いていたけど、そのときは曲できなかったですもん。プレッシャーを何回も、何十回も受けているうちに、なにか変わってくるんです。

尾崎 頑張ります! 黒田さんの今後の目標はあるんですか。

黒田 ライブメインでやっていくことは間違いないし、日々良い歌を歌っていく、これに尽きますね。どこでやるかより、どうやるか。そういう意味で、僕は尾崎さんみたいにやりたいと思い続けているんです。毎回しっかり振り切って、いま生まれた歌を初めて歌うような新鮮さを失わずに、歌を伝えたい。100人だろうが、5万人だろうが、観に来てくれた人を全員ノックアウトして「次も絶対来よう」と思ってもらえるように歌いたいと思うんです。

尾崎 全然ぶれないんですね。

黒田 それは、僕に影響を与えてくれた人の影響だと思います(笑)。

 やっぱりライブが一番ですよ。人前でやれば、自分の良いところも悪いところもはっきりわかる。課題や武器がわかれば、だんだん洗練されてくる。出し惜しみせずやっていったら、ポケットの中のものは自然と増えてくるんで。

 ステージに上がれば、それが誰かなんて関係ないんです。僕ら、活動休止したあとにストリートに出たんですけど、コブクロっていう名前で人は足を止めてくれるんですよ。でも、ダメなときって、聴いてる人のテンションがえらく下がってるのがわかる。ひたすら写真撮ってるとか。知名度なんてそんなもんです。反対に、バカーンと歌えると、夢中で聴いてくれる。初めて聴いた人が涙を流してくれるのを見ると、歌にとって大事なことが何なのかがわかります。

尾崎 聴いてくれた人を感動させられるよう、僕も頑張ります。

黒田 お互い頑張りましょう。

 (おざき・ひろや ミュージシャン)
 (くろだ・しゅんすけ ミュージシャン)

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