対談・鼎談

2016年8月号掲載

『破婚 18歳年下のトルコ人亭主と過ごした13年間』 刊行記念対談

外国人年下男にハマった私たち

岩井志麻子 × 及川眠子

なぜ、私たちは奴らを甘やかし、お金を出してしまうのか――。
奇遇にも同じ破れかぶれな結婚生活から、脱出した及川さんと、とどまる岩井さん。
実体を語り尽くした二人は、理想の女性像にたどり着く。

対象書籍名:『破婚 18歳年下のトルコ人亭主と過ごした13年間』
対象著者:及川眠子
対象書籍ISBN:978-4-10-350141-1

母親としての社会的制裁とけじめ

岩井 先生、18歳年下のトルコ人元夫との13年間の結婚生活を綴った『破婚』のご出版、おめでとうございます。同じく18歳年下の韓国人ダメ夫を持つ身として、まるで自分のことのように拝読し、とりわけ元夫の名言、「あなたはトルコのシステムを知らない」には頷くところがありました。恐縮ですが、どうしても最初に及川先生に教えていただきたいことがあります。実は私、これまでの人生で一度だけトルコ人男性とセックスしたことがあるんです。その時彼が、「俺はイスラム教の敬虔な信者だから、おまえとは前の穴ではしない。後ろの穴でする」と言ったんですね。理由を問うと、「前の穴は妊娠出産で使うから、妻としかしない。おまえは俺の子どもを産まないから、後ろの穴だ」と。そういうイスラムの教え、ありますか?

及川 そんな教えは、明らかにありません。

岩井 トルコのシステムでもない?

及川 ない。

岩井 ......アイツの趣味かぁ! まんまと騙されたわっ。私事で失礼しましたが改めて、『破婚』、一気読みいたしました。人気作詞家である先生が、元夫のために3億円を失い、7000万円の借金を背負った壮絶な日々の実録ですが、読み進めるほどに、どんどんラストが気になる怒濤の展開で、ミステリー小説のような醍醐味もありました。

及川 ありがとうございます。

岩井 お二人は出会いからして手違いで。

及川 旅行代理店の手違いで変更させられたホテルの隣の絨毯屋で彼が働いていたんです。それで声を掛けられて。

岩井 手違いがなければ出会いもせず、こんな事態にもならなかったわけですが、そもそも、書こうと思ったきっかけは? やはり怒りですか?

及川 いえ、怒りは静まっています。それより、社会的制裁と過去との決別ですね。彼は、日本だったら逮捕されるような行為で、私だけでなく、一緒に仕事をしていたスタッフや会計士、友だちをも騙し、傷つけました。そんな人がのうのうと生きていていいはずがありません。とはいえ、正義感からではなく、私は結婚生活を送るうちに彼の〈お母さん〉になってしまったので、保護者として同じことをさせないために、書いたんです。全て終わったことなんだと彼に知らしめ、互いにけじめをつけたかった。

岩井 私も完全にお母さんですね。私の一目ぼれでソウルのカラオケスナックの店員と結婚したんですが、トルコ人元夫のような野心も事業欲もないダウナー系ダメ男のくせに、独身で金持ちだと若い韓国人女を騙して浮気したんですよ。ショックはショックだったんですが、いざ戻ってきたら、嫁と喧嘩した息子が帰ってきたみたいになっちゃって......。「マザコン男に育ててしまってごめんね。けど、私が面倒みてあげるから大丈夫。若い女に行ってもいいけど、また絶対に捨てられるわよ」と、離婚もしませんでした。手放した及川先生はむしろ優しいわ。

及川 いやいや、離婚は浮気相手との子どもが欲しかった彼が言い出したことですから。けど、そうでなければ今でも続いていて、もっとむしり取られていたかもしれない。被害金額は増えてますね(笑)。

卑しい笑顔

岩井 再婚したトルコ人女は、彼のことを金持ちだと思っていたんですよね。

及川 そう、有能な経営者だともね。彼女は彼の遠い親戚らしく、実家の近所に住んでいたから、私のことも当然知っています。

岩井 人気作詞家でお金持ちの日本人妻の存在を分かっていても、彼自身が稼いだお金だと思っていたんですか?

及川 私からお金が出ていることは知っています。

岩井 性悪女ですね。まさか、まだ先生からお金をひっぱれると?

及川 元夫がそう思っているから、彼女も同じでしょうね。私が何を言っても、「結局はお金を持っているんでしょ」と。彼らは、お金は私という打ち出の小槌から、永遠に出てくると思っているんです。それに、私は彼の母親のような存在で、とても愛してくれているはずだから、今はいじわるしているけど、いつかは助けてくれるだろうって。

岩井 甘えてんじゃねぇよ! 今でも元夫から連絡はあるんですか?

及川 とりませんけど、電話はかかってきます。あと、理解不能なメールも届きます。毎回、「これが最後のメールです。さようなら」って書いてあって、無視していると、「あなたはとても変わってしまった。そんな人じゃなかったのに、もっと優しい人だったのに、何があなたを変えてしまったの」というメールが送られてくるんですが、何がって、おめぇだよっ(笑)。

岩井 うちの韓国人夫も「お金ちょうだい、これでおねだり最後だから」ってよく嘘をつきます。私は及川先生ほど稼ぎがないので、3億とか出せませんが、トルコ人元夫みたいに絨毯屋の店頭にいた男の子にとっては、夢のような金額のはずですよね。先生が優しくしてくれて、大金もくれた年月は彼の成功体験みたいになってしまって、そこにしがみついているんでしょうか。

及川 金銭感覚は麻痺してしまっていると思います。離婚後、私はすべてのクレジットカードの番号を変えたのですが、元夫が新しい番号を教えてくれとしつこくて、仕方ないからスカイプで前のカードをひらひらさせながら、「カードの番号を言うよ」と言ったんです。その時、にやっと笑った彼の顔が本当に卑しくて......。彼を軽蔑した瞬間でした。私の場合、相手への軽蔑心が産まれたら、全てを断ち切れるんです。だからもうアウト。

岩井 軽蔑心ですか......。私も、一度だけ離婚を考えたことがありましたが、結局、私の場合は相手に罪悪感を抱いている状態が一番気持ちいいんです。だから、「ごめんね、ごめんね。あなたをそんな風にしたのは私なのよ」と母親みたいに謝りながら実は気分が良いから離婚もせず、そして、夫は一人では生きていけない男になってしまった。

外国人男のいいところ?

及川 夫の高知東生さんが逮捕された高島礼子さんも、記者会見で彼の保護者になっていましたね。

岩井 「愛が憎しみに変わる時はあるけれど、可愛いは絶対に憎しみにならない」という東京MXTV名物プロデューサー大川さんの名言がありますが、会見を見て、高島さんは高知さんが可愛いんだろうなと思いました。私も夫が可愛いですもん。あぁ、うちも高島さんも最初から夫が愛の対象ではなかったんですかねぇ。外国人に限定すると、年下男と関係がある人って......。

及川 宇多田ヒカルさん、浜崎あゆみさん。

岩井 松田聖子さんも元彼のジェフ君に暴露本を書かれましたね。忘れちゃいけないのが、私と同じ岡山出身の有森裕子さんです。夫は「I was gay」という名言を放ったガブちゃんですよ。あそこも有森さんがしっかりしていて、親子みたいでした。

及川 私たちと一緒にしては失礼ですが、この構図には、経済的に自立した女性がはまりやすいのかもしれませんね。私もそうですが、男からお金や物をもらおうと考えたことがない人は、よりいっそう注意が必要です。相手がちょっと可愛いくて、「このTシャツ、似合うかもよ」とか自分から言っちゃったら、もう始まりですね。

岩井 美味しい物を食べさせてあげたりね。

及川 Tシャツで終わりませんから(笑)。

岩井 水道橋博士によると、金を出す女は何度でも出すけど、出さない女は一回も出さないそうですよ。

及川 相手が変わっても出すんですよね。自覚しています。気をつけようと思っていますが、さすがに外国人は懲りました。けど、志麻子さんはずっと韓国人ですね。

岩井 外国人好きでもないのですが、ネタや娯楽になっていて、おまけに相手は言葉が分からないから、言いたい放題で苦情もこない。何より年下でもジェネレーションギャップを感じない! 日本人の若い男の子だと流行歌も何もかも違いますが、韓国人だとそもそも知りませんからね。

及川 確かに。それでも、トルコ、中近東あたりはもうごめんです。

○○○の心

岩井 及川先生は離婚されて、私も夫を飼い殺しにしているわけですが、最終的に失敗かどうかは、周りがなんて言おうと本人が決めればいいと、私は思うんです。

及川 そうですね。人は人。別れたいなら、別れればいい。ただ、出口がないままひどい経験をしてるのは辛いと思います。私は『破婚』を書くという行為によって整理できたし、消化もできました。

岩井 別居はいいですよ。四六時中一緒にいると、いちいち癇に障りますから。

及川 月イチ、三泊四日ぐらいが理想の夫婦関係を築けるのかもしれませんね。

岩井 そもそも、男って弱いところがあって、どんなに社会的地位があって、高学歴でも、トイレで隣合わせた男が自分より巨根だと、それだけでしゅーんとするんですよ。けど、女は、「ふん、あんた、いい気になるんじゃないわ。私の方が名器なのよ」なんて言いませんし、考えもしませんよね。

及川 中に隠れているか外に出ているかの違いかな......?

岩井 けど、女性でも顔なら、「私の方が美人ね」と比べてしまう人もいる。だから私は、佐々木希さんの顔になるより、谷亮子さんの心が欲しいんです。

及川 な、なるほど。

岩井 だって、佐々木希の顔になったって、絶対私のことだから、いやここがまだダメとか、あの人の方が美人だとか、いじいじ、コンプレックスから逃れられないような気がするんです。けど、谷亮子の心があれば、佐々木希と北川景子に挟まれても、「私が一番美人だわ」って思えるわけでしょ。彼女は、女の幸せを全部手に入れているんですよ。

及川 強いですよね。それに比べると、ちっちゃい男が多いですよね。

岩井 元夫は、『破婚』が出版されることを知っているんですか。

及川 ええ。何が書かれているんだって、恐れているようですよ。まだトルコで裁判中だから、自分に不利な内容が書かれているのが嫌なんだと思いますけれども。

岩井 その裁判って、もちろん及川先生が勝つんですよね。

及川 負ける要素がない。

岩井 よかった! 裁判にも勝って、『破婚』は、タイトルもすごくいいので、これで流行語大賞を狙ってください!!

及川 がんばります!

 (おいかわ・ねこ 作詞家・作家)
 (いわい・しまこ 作家)

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