書評

2016年5月号掲載

面白く生きていける本

――成毛眞『これが「買い」だ 私のキュレーション術』

麻木久仁子

対象書籍名:『これが「買い」だ 私のキュレーション術』
対象著者:成毛眞
対象書籍ISBN:978-4-10-329223-4

 最初に目次を眺めていたら、成毛さんの「でしょ?」という得意気な顔が思い浮かびました。直接ご本人を知っている人は、愛嬌のある顔を思い浮かべると思います。具体的なモノの選び方から、人生指南、人をどこで判断するかまで、落語のような、ショートショートのような、どこにオチが来るのかをワクワクしながら読ませる工夫があります。
 成毛さんには、ノンフィクション書評サイトの『HONZ』でお世話になっていますが、私は途中で声をかけていただいたクチで、逆風下にツイッター上で「書いてみない?」と。見学に行ったつもりがいつのまにかメンバーになっていて、今ではすっかりおなじみに(笑)。居心地がいいんです。
 メンバーの顔触れは多彩で、年齢も職業もバラバラ、学生さえいて一見ランダムなんですが、どこかそこには統一感があって、声をかけた成毛さんの天性の「見る目」が行き届いている。ご本人は、「それはね、ただの勘だから」とおっしゃる気がするんですけど、勘というのは、積み上げてきた経験と知識の総量ですよね。
 そもそも、一人の人間が一生に会える人数は限られているのに、どうも成毛さんの周りにはユニークな人が多い。これは、「面白く生きていくぞ!」という構えが伝わってくるからかもしれません。フラットにモノや人を見て、変に裏がないんです。でも「面白く生きていく」ことって大変だと思いませんか。世間の目を気にして「もう少し面白いことがあったらもうけもの」と、自分をだましながら生きるのがせいぜいなのに、面白いことを本義にしていくのは、信念が必要なことです。でも、面白がる人の周りには、面白い人が集まります。HONZも、もしかしたらそれ以外のお仕事も、土台に邪心がないから人が楽しく集まってうまく回っていくのかな、と私は思います。
『週刊新潮』連載時のタイトル「逆張りの思考」の「逆張り」については、冒頭に説明がありますが、非常に難しい方法論で、ほとんどの場合はこの邪心が出てダメ。実は、なんでも逆張りにするのは、黒と言われたら白、白だったら黒、で、順張りと同じだから楽ですよね。本気で逆を張ろうという人は、実際はそれを口に出さずにやるはずで、冒頭でそこにずばり切り込むところからして「プロの逆張り師」ですよ(笑)。そのつど、状況をきめ細かくくみ取って、複雑な逆張りができるのは相当な感性、そして思想が必要です。腹が据わっているからこそできることで、実は「良い子は真似しないでね」という一冊なのかも。良い子はまず、お勧めのアプリをダウンロードするあたりから始めましょう(笑)。
 私が好きなのは「『テレビ見ない自慢』を裏切る」のところ、痛快です。「なんでもダメ」という人はなにも考えていない。面白いがあるからつまらないがある。必要があるから不要がある。その緩急を常につけて、物事を見ていることがわかるんです。成毛さんはよく、「○○が面白くてさ」と、いろんなことを楽しそうに話してくださるのですが、「面白かった」「よかった」「美味しかった」という評価は、どんどん確認しながら口に出しておくとよいかもしれませんね。自分がなにを必要としているのか、必要としていないかがわかってきます。逆張りを張る体力がつくかもしれません。
 それから、成毛さんは逆張りの極意を「ほったらかして待てること」と書いています。才能だってお金だって、もちろん限られているし、不安や心細さは誰にだってあるはず。芸能界なんて、来年がどうなっているかさえ見えない職業です。でも、楽しさや面白さに巡り会えるように次を待つ、過去の経験を引きだしに入れつつ、自分なりに待つ。この才能がある人は、一緒にいると楽しいし、話を聞くと面白い。だから、成毛さんはいつも「でしょ? 面白いでしょ?」って顔をしている気がします。
 この本は、そんな人の本です。

 (あさぎ・くにこ タレント)

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