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書評・エッセイ

殺人事件と誘拐事件の二重奏

――麻見和史『死者の盟約 特捜7』

村上貴史

 麻見和史の《特捜7》シリーズの第二弾『死者の盟約 特捜7』は、まず、展開がユニークである。
 江戸川区の民家の植え込みで、一人の男の死体が発見された。顔は全体が包帯で覆われているという奇妙な姿だったが、警察がそれをほどいてみても、特に外傷はない。ならば何故包帯を用いたのだろうか。もう一つの奇妙な点は口にあった。口の中に保冷剤の小袋が押し込まれていたのだ。鑑識によれば、保冷剤と包帯による小細工は、男が絞殺された後に施されたらしい。なんとも奇妙なこの殺人事件に挑むのは、警視庁捜査一課の第七係――"特捜7"の面々だった。
 特捜7は、なんとか被害者が市野弘という人物であることを突き止めるが、その先には思いも寄らない出来事が待ち受けていた。その日の夜、市野弘の妻に電話が入った。電話の主は、市野の小学生の息子を誘拐したという。そして身代金五千万円と、さらに、市野弘を電話に出せと命じる。そう、殺された男を電話に出せというのだ......。
 市野弘という一人の男が、殺人事件の被害者となり、さらに誘拐事件の当事者となる本書、なんとも刺激的な展開である。しかもだ。SIT(捜査一課特殊犯捜査係)と誘拐犯との交渉が続くなか、市野弘殺人事件と関連があると思われる新たな殺人事件までもが発生するのだ。一体何が起きていて次に何が起こるのか、特捜7の面々は、事件の現場から現場へと引きずり回される。読者もまた先の読めない展開をたっぷりと愉しむことが出来るのだ。
 また、キャラクターもユニークである。
 特捜7のエースである三十五歳の岬怜司は、必要以上に女性に好感を持たれてしまうイケメンであり、肉体派だが心配性。岬と同年齢で、かつて付き合っていたこともある佐倉響子は負けず嫌いだ。美貌のバツイチ(結婚相手は岬ではない)で、証拠発見にずば抜けた才能を持つ。さらに安倍晴明の末裔を自称するベテランがいたり、データ分析を得意とする青年もいたりと、多様でそれぞれに得意分野を持つメンバーが特捜7を構成しているのである。彼等が独自の能力を活かして事件の解明に貢献していく様も味わえて嬉しい。
 そんな特捜7と行動をともにする里中宏美が、特にユニークだ。所轄署の刑事である彼女は、小柄で天然パーマでだぶだぶのスーツというおよそ刑事らしくない外見で、実際のところ刑事としての経験も浅い二十七歳だ。だが、この里中が侮れない。だぶだぶスーツのポケットからは、まさにその瞬間に必要なものが出てくるし(ドラえもんのようだ)、ドジでおっちょこちょいなようでいて、実はしたたかだったりもする。彼女と岬が、一組の名探偵として機能する姿は――現実離れしているが――《特捜7》シリーズの大きな魅力だ。
 そして著者は、展開とキャラクターというその二つの"暴れ馬"的な特徴を、巧みに一篇のミステリとしてまとめ上げた。特に、犯人と被害者という関係で完結する形で殺人事件/誘拐事件を作り上げるのではなく、なんらかのかたちで(ここは当然ながら書けない)警察も事件の一要素となっている点にミステリとしての特徴がある。こうしたセンスは、優れた本格ミステリを数多く世に送り出してきた鮎川哲也賞から二〇〇六年に『ヴェサリウスの柩』でデビューし、その後も、『石の繭』をはじめとして本格ミステリ味を特徴とする警察小説を発表し続けてきた作家ならではのものといえよう。そのセンスはまた、本書でも伏線に基づく終盤での驚愕としても発揮されているので、是非堪能して戴きたい。
 警察小説という観点では、組織における女性の活躍という面で踏み込んでいることに着目したい。佐倉と里中に加え、今回はSITにも一人、個性的な女性警官が登場している。彼女たちの組織内での闘いも読みどころといえよう。
 多様な魅力がバランスよく配置された良作である。

 (むらかみ・たかし 書評家)

麻見和史『死者の盟約 特捜7』978-4-10-335712-4