書評

2014年12月号掲載

自分にしかできない生き方をしよう

――岩瀬大輔『直感を信じる力 人生のレールは自分で描こう』

岩瀬大輔

対象書籍名:『直感を信じる力 人生のレールは自分で描こう』
対象著者:岩瀬大輔
対象書籍ISBN:978-4-10-336871-7

「ライフ♪ ネット♪ 生命♪」と始まるテレビCMをご存知だろうか。対面セールスや訪問をする営業をおかず、その分のコストを減らし、他社より低価格で生命保険をネット販売する――それが社員約100名、僕が社長を務めるライフネット生命保険株式会社だ。
 当時社長の出口治明(現会長)と二人で、僕は副社長として2008年に開業した。ライフネットと共にあった30代を振り返り記録しておきたいという気持ちがあったが、本一冊分まとめての書き下ろしは不可能。そこで、『新潮45』という月刊誌に毎月連載して書きためることにした。実を言うと、担当者から提案されるまでこの雑誌のことは全く知らなかった。連載中「読んでる」と言われることも皆無で、その分、気楽に書けたというのが正直な感想だ。
 連載期間は1年数カ月に及び、その時々に関心のあったことも含め内容は多岐にわたった。自分の考えを整理することもできて、よかったと思っている。
 詳しくは本書をお読みいただくとして、20代もなかなか紆余曲折があった。東大法学部在学中に司法試験に受かったが、外資系企業に就職。さらに転職して同じく外資系ベンチャーの日本支社立ち上げに加わったがなんと1年ほどで撤退決定。その後、MBA取得のため米ハーバード大学経営大学院に留学し、その日々の記録を綴っていたブログがある投資家の目に留まり、彼に出口と引き合わされた。そうして全く専門外だった生保業界に身を置くことになろうとは思いもしなかった。
 今、思えば、20代というのは失敗しても失うものが、そもそも何もない。だから、誰だって思い切り何でもできる。他流試合に挑むような転職もできるだろう。今の時代は企業の枠にとらわれない個人のスキルが求められているから、それが身につく職場や仕事の仕方を模索するのもいいだろう。
 大きな企業の若手が集まる勉強会などで話をさせてもらうことがある。みんなとても張り切っているのだが、自分達は会社のためにどうすべきか、と「企業ありき」ですべてを考えているようだ。彼らの中の「自分」が見えてこないのだ。それではせっかくの人生がもったいないのではないだろうか。
 僕はこれまで、個人重視、というか自分がどう生きたいかを基準に物事を決めてきた。仕事と自分の関係を考える時、「自分ありき」の働き方でもいいのではないかと思っている。自分の都合のためなら仕事をおざなりにしていいという意味ではない。自分らしく生きていこうとすれば、仕事も生き方そのものになると思う。本書にもそんなことを書いた。
 個人プレーで仕事をする外資系企業での経験からすると、大勢で一緒に仕事を進めていくライフネットでの環境は、最初、新鮮だった。今では、彼らと一緒だったら、たとえ別の業種でも突き進んで行けると感じている。そんな仲間たちのおかげもあって、ライフネットは僕にとって「会社」ではなく、実際に「自分そのもの」という感覚を持って臨んでいる。
 見渡してみると、親しい友人は医者や弁護士、役人のほかはほとんどが起業したベンチャー社長だ。みんな20代で自分なりの修業をし、30歳を過ぎて次の一歩に踏み出した。30代というのは、誰にとっても何らかのターニングポイントなのだろうか。
 30代を過ごして実感したことがある。一般的なリタイア時期の60歳~65歳を考えると、年齢的にちょうど真ん中、折り返し地点であること。次は40代、そして50代と行くのか……とふと考え、初めて「終わり」を意識した。
 しかし、長期的に計画を立てるということはあまりしないので、自分が具体的にどう終わるのか、などは考えたことはない。「今」がこの先にどれだけ広がっていくか、広げられるか。それによって、さらに先にある新しい何かに結びついていく、というイメージがあるだけだ。
 ただ、自分の人生について、孫達に話して聞かせる日を想像してみたことはある。そのとき、どんな話ができるか。聞かせてあげたいか。できれば、胸を張って誇らしく話せる自分でありたい。今のところ、それが僕にとってのゴールなのかもしれない。

 (いわせ・だいすけ ライフネット生命保険(株)代表取締役社長)

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