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書評・エッセイ

変貌する刑事小説

――麻見和史『特捜7(セブン) 銃弾』

香山二三郎

 警察小説というとまず思い浮かぶのは警視庁捜査一課ものだろう。しかし今日の警察小説ブームの発祥をたどると、意外なことがわかる。まず逢坂剛の公安シリーズ第一作『裏切りの日日』が出たのが一九八一年。『二度のお別れ』で黒川博行の大阪府警捜査一課ものが始まったのが八四年で、最近テレビドラマ化された逢坂の『百舌の叫ぶ夜』が出たのが八六年、そして『二重標的(ダブルターゲット) 東京ベイエリア分署』で今野敏の安積班シリーズがスタートするのが八八年。
 九〇年代に入るとさらに、大沢在昌『新宿鮫』のシリーズが登場してくるが、そうした作品には警視庁捜査一課ものが案外少ないのだ。
 逢坂作品は公安警察ものだし、黒川作品は捜査一課は捜査一課でも大阪府警もの、安積班もののベースも東京湾臨海警察署。してみると、現代の警察小説を切り開いてきた旗手たちは、警視庁捜査一課ものという正統的な路線を意図的に外したようにも思われる。
 むろんそうしたチャレンジが警察小説ジャンルの裾野を広げることとなり、今の人気につながっている。
 近年警察小説に手を染める新鋭作家は少なくないが、彼らもまた、いかにして独自の路線を演出するかに苦慮しているに違いない。『石の繭 警視庁殺人分析班』を皮切りに警視庁殺人分析班シリーズ(「警視庁捜査一課十一係シリーズ」改め)をすでに五作刊行している麻見和史もそのひとりである。
 一見オーソドックスな警視庁捜査一課もののように思われるこのシリーズの特徴は、まず本格ミステリー趣向にある。第一作『石の繭』でいえば、男の毒殺死体が何故かモルタルで固められていたりするわけだが、それに加えてもうひとつ、主役を務めるのが十一係の新米刑事・如月塔子巡査部長であること。鷹野秀昭警部補を始めとする先輩刑事たちに支えられ、彼女が成長していく姿も読みどころになっている。
 では、新たなシリーズの開幕となる本書ではどんな趣向が凝らされているのか。
 ひとつは、やはり謎解き趣向のたたみかけだ。
 物語は一〇月後半のある日、江戸川区臨海町の葛西潮風公園で男の惨殺死体が発見されるところから始まる。その捜査に当たるのが、郡司壮一郎係長(通称「軍曹」)率いる「特捜7」こと警視庁捜査第一課第七係の面々。程なく被害者は板橋区志村署地域課の巡査部長であり、所持していた拳銃が奪われていることが判明するが、この事件には幾つもの謎があった。遺体が臨海地区に運ばれたのは何故か、肩関節から両腕を切断されていた理由は、そして裸に派手なオレンジ色のレインスーツをまとわされた理由は……。
 主人公を務めるのは特捜7のひとり岬怜司警部補だが、所轄の葛西署の里中宏美巡査とコンビを組まされ、当初は不満たらたら。里中は小柄で、だぶだぶのパンツスーツ姿――岬いわく「女チャップリン」じみた変わり者だが、岬は次第に彼女本来の能力を見出していく。特捜のエースと天然キャラの女性刑事が次第に歩調を合わせていくありさまは、まさに女性警察官の進出が目覚ましい現実の警察事情を反映させたものだろう。本書に凝らされた、もうひとつの趣向であることはいうまでもない。
 事件はやがて、奪われた拳銃が使用され連続殺人へと発展するが、捜査はなかなかはかどらず、ついには犯人の挑発まで受ける。特捜7がこの難局をどう乗り切ってみせるかに注目だが、そういってしまうと、いかにもオーソドックスな警視庁捜一ものっぽく聞こえるか。
 実はこのシリーズの狙いはラストに呈示されているように思われる。そこでは岬の同僚、佐倉響子が自らの捜査チームを作ることを夢見ていることが明かされる。表題の「特捜7」の本当の意味も、その佐倉チーム(別名「佐倉の園」!)が結成されていく過程を追ったものなのではないかと。

 (かやま・ふみろう コラムニスト)

麻見和史『特捜7 銃弾』978-4-10-335711-7