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書評・エッセイ

教え子のライターが“カリスマ教師”に迫る!

――菊池省三・吉崎エイジーニョ『学級崩壊立て直し請負人 大人と子どもで取り組む「言葉」教育革命』

吉崎エイジーニョ

 じわじわっと湧き上がってくる幸福感。そこに浸ろうとすると、次に猛烈なプレッシャーが襲い掛かってくる。執筆と校正の期間はそんなことの繰り返しだった。書き手として、得がたい経験をした。
 小学校時代の恩師との共著を記したのだ。
『学級崩壊立て直し請負人 大人と子どもで取り組む「言葉」教育革命』は、26年前(1987年)の小学校6年生時に、私が1年間だけ担任してもらった菊池省三先生を取材し、構成を担当したものだ。「日本一忙しい」といわれるカリスマ教師の考えを、これまでの先生の著作の中でも最も簡潔かつ明瞭にまとめた一書となっている。
 菊池省三先生は、現在54歳。荒れた学校の多い福岡県北九州市で31年間教員を務めている。言葉を重要視した独自の教育メソッドで崩壊した学級を次々と立て直すことで有名となり、今や東京でセミナーを開けば教員としては異例の200人以上を動員するほどだ。
 共著を記すきっかけは、ひょんなことからだった。東京でスポーツや朝鮮半島情勢中心のライター生活を送って13年めだった去年の夏の夜、楽しみにしていたK-POPのDVD(書籍には記せなかったが、KARAのものだ!)を見ようとチャンネルをいじっていたところ……間違って地デジにチャンネルを合わせるボタンを押してしまった。NHKの「プロフェッショナル」という番組をやっていた。
「あ、先生……」
 四半世紀ぶりに姿を拝見したのだった。
 番組を観ながら、すでに決めていた。書籍の企画を提案しようと。番組の中でも出てきた「ほめ言葉のシャワー(ホームルームの時間にクラスメイトが次々に挙手して、日直の子をほめる)」や「成長ノート(先生と1対1の対話で日々の成長を綴る)」は、本書の軸でもある。26年前にもひたすら「話す」「書く」といった基礎的なトレーニングを積み重ねていった記憶が甦った。ずっと憶えていたわけではなく、その時に思い出したのだ。自分の書き手としての礎はこの時代にあるのではないかと。書くにせよ、話すにせよ、何かを伝える情熱を教わったのだろうと。言葉の使い方を教わった先生に、言葉で恩返しするような気持ちで取材・執筆に取り組んだ。ちなみに先生は出版社への企画提案前の時点で、細かいプロットを立てることを提案してきた。おかげで一番最初に提案した新潮社からGOサインが出た。さすがだった。
 当初、タイトルは『変われます!』を提案していた。先生の教育には「変化」という醍醐味があるからだ。崩壊していじめが起きていた学級や、厳しい家庭状況にある子ども個人が、言葉の力を得て変わっていく。そのさまを描きたかった。
 それゆえ、子ども個々人の変化にも踏み込んだ。本書の前半部分では、暴力団関係者の子息の話も出てくる。先生もこの項目の表現には頭を悩ませたそうだ。自分自身も構成者として考え抜いた。すべての編集作業を終えた後、先生にメールで報告をしたらこんな返事が返ってきた。
「戦いましょう」
 また、先生のメソッドを家庭での子育てに活用する方法を紹介することにも力点を置いた。わざわざ1章を設けたほどだ。教育関係者のみならず、子育てに悩むアラフォー世代の親に向けた書籍にしたかった。先生は言う。「教室は日本社会の縮図」。社会全体の問題として学級崩壊を取り上げた。
 内容はお堅いものばかりではなく、箸休め的な、先生と私による対談も織り込んだ。お互い言いたい放題だった。「6年の担任が菊池先生と聞いたとき、頭を抱えた。厳しい先生になったなと」。「先生のやっていたことは、めんどくさいことも多かった」。こちらがそう言えば、先生は「吉崎君は空気を読まず意見を言い切るような面があった。時にそれが青臭くてね」と。先生ご自身の子育てでの失敗談も飛び出した。
 先生は書籍の中で言っている。「仮にいじめが起きたとき、それに立ち向かう力は言葉からこそ生まれてくる」。取材中も繰り返し口にしていた。“力になれる本にしたい”と。その点をいかに表現していくか。それを考えることもまた、プレッシャーであり、幸福だった。

 (よしざき・えいじーにょ ライター)

菊池省三・吉崎エイジーニョ『学級崩壊立て直し請負人 大人と子どもで取り組む「言葉」教育革命』978-4-10-334361-5