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書評・エッセイ

ハンセイサセルトハンザイシャニナリマス反省させると犯罪者になります

岡本茂樹

648円(税込)

「反省文」と「しつけ」はなぜダメなのか? 現場から生み出された「本当に効果的な更正メソッド」。

犯罪者に反省させるな──。「そんなバカな」と思うだろう。しかし、犯罪者に即時に「反省」を求めると、彼らは「世間向けの偽善」ばかりを身に付けてしまう。犯罪者を本当に反省に導くのならば、まずは「被害者の心情を考えさせない」「反省は求めない」「加害者の視点で考えさせる」方が、実はずっと効果的なのである。「厳罰主義」の視点では欠落している「不都合な真実」を、更生の現場の豊富な実例とともに語る。

言い訳を言えると健康になれます

岡本茂樹『反省させると犯罪者になります』

岡本茂樹

「なぜ皆、反省させることに疑問を持たないのかなあ」
 これが、『反省させると犯罪者になります』を書き始めたきっかけです。今、学校、家庭、会社、そして少年院や刑務所では同じことが起きています。悪いことをしたら、しっかり反省させるのです。親、教師、上司、そして法務教官や刑務官の大半は、反省して謝罪することが正しいと思い込んでいます。なぜなら、幼いときから彼らは、悪いことをしたら、しっかり反省させられて、謝罪の言葉を述べてきたからです。しかし、悪いことをした人を反省させると「すみません」「ごめんなさい」で終わり、何も問題は解決しません。それどころか、反省は本当の気持ちに蓋(ふた)をすることになるので、後々に大きな問題が起こります。
 本書を書いてから、私は自分の子ども時代を思い出しました。私には、一歳違いの優秀な従兄(いとこ)がいます。幼い頃、二人で遊んで、よく叱られることをしました。しかし、叱られたときの二人の態度は違っていました。従兄は、叱られても何も反論しなかったのです。一方、私は言い訳をする子どもでした。大人は、「言い訳するな」と言って、さらに私を叱りました。そして、従兄は「お前は、素直ないい子だ」と褒められました。その後も、相変わらず私は言い訳を言い続けました。そして、「またお前は言い訳するのか」と厳しく叱られました。なぜ私は、叱られることになるのも分からず、言い訳をしたのでしょうか。
 今なら、理由がはっきりと分かります。私は、優秀な従兄と比べられるのが嫌で、周囲の大人から「いい子」と思われたかったのです。自分の言い訳を聞いて(受け止めて)ほしかったのです。もし、周囲の大人が当時の私の言い訳を聞いてくれたら、従兄に比べられた悲しみや辛さを吐き出し、その瞬間から言い訳することを止めていたでしょう。中学生になって、私の言い訳をすべて聞いてくれる恩師との出会いで私は変わりました。言い訳は心が健康になるためには必要なのです。
 今、私は刑務所で受刑者の更生の支援をしています。私は彼らに反省を求めません。反省を求めると、「謝罪して終わり」となることが分かっているからです。したがって、私は受刑者の「言い訳」を歓迎します。受刑者は言い訳を聞いてもらう体験がなかったのです。なぜなら言い訳を聞いてくれる(受け止めてくれる)人がいなかったからです。言い訳を聞いてもらうことで、心が癒され、何が問題であったのかに気づけます。自分が起こした事件と向き合うことは、言い訳という「本音」を話すことから始まるのです。
 本書は、悪いことをした人が回復するために必要なことを書きました。何の疑問も持たれていない「反省させること」を、今一度皆で考えてほしいという思いを込めています。その点で、すべての人が正しいと思っている価値観に一石を投じています。この一石が、本書を手にした人にとって、「大きくて重い石」になることを期待しています。

 (おかもと・しげき 立命館大学産業社会学部教授)

岡本茂樹『反省させると犯罪者になります』978-4-10-610520-3