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波

書評・エッセイ

第二十四回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作

歴女の大好物に、萌え!

――三國青葉『かおばな憑依帖』

小日向えり

 突然ですが、一番好きな歴史小説って、ズバリ何ですか?
 私は圧倒的に『三国志』! キャラクターもストーリーもすべて完璧だから、何回読んでも面白い。歴史好きになったきっかけも『三国志』なので、歴ドル(歴史好きアイドル)として活動する私の基盤と言っても過言ではなく、あらゆる意味で尊い作品です。
『三国志』と同じくらい好きな時代は、日本の戦国と幕末。『三国志』好きなのに、いきなり日本史かい! と思われるかもしれませんが、『三国志』ファンには戦国好きが多くて、彼らおすすめの戦国小説を読むうちに真田幸村のファンとなり、自発的に開拓した幕末で土方歳三にメロメロになった、という次第です。ちなみに好みの武将は、頭が良くて情に厚いタイプ。おまけに志半ばで夢破れ、滅びの美学を貫いて最期の時を迎えていたら、もうたまりません。その代表格である幸村と土方がかっこよく描かれている司馬遼太郎さんの『関ケ原』と『燃えよ剣』は何度も読み返しました。
 私の例をみるまでもなく、歴史小説は、他ジャンルの小説以上に、登場人物がどれほど魅力的に描かれているかが重要だと思うのですが、『かおばな憑依帖』はまさに、主人公達の魅力に満ちあふれた作品でした。
 舞台は八代将軍吉宗の治世です。主人公の剣士・桜井右京は剣術の腕はピカイチなのに、父が遺した道場も継がず遊び暮らすダメンズ。
 なんですが、イケメンで粋で、とにかく全てがかっこいいんです! そんな彼は美也という田沼家の令嬢に一目惚れしてしまいます。その姿が実にかわいらしくて、やっぱり色男が恋に落ちるとそのギャップにしびれてしまいますね。もともと真面目な武市半平太みたいなキャラが純愛に走っても面白くないんですが(笑)。
 右京以外にも魅力的な人物がたくさん登場します。サブを固める、田沼龍助とその家臣・柾木信吾はその筆頭。龍助は後の意次ですがとてもピュアで、意次のダーティーなイメージが一新されました。信吾の、龍助への忠誠心に溢れる姿は歴女の大好物。萌えます〜。吉宗に仕える覚悟を持ちきれない龍助を、「主にお仕えするというのは、そういうことでございます」とたしなめる姿にはハッとさせられました。右京の母・茅野と吉宗の母・浄円院も、子どもを守るために命をかけていて、その母性愛に強く惹かれました。
 そんな彼らに著者の三國さんは常にミッションを課します。京都へ怨霊退治に行かせたり、尾張藩の屋敷に隠密を忍び込ませたり……。そのたびに彼らは皆、大事な人のために命を捧げて尽くします。悪役でさえもそうで、その純粋な姿は実に美しかったです。
 一方で、設定はとことん破天荒。いやだって、江戸の町が、将軍位の簒奪を狙う尾張藩の怨霊にバイオテロで襲撃されちゃうんですよ!? しかも、ヤマ場は人間と怨霊の決戦。妖術と剣術が入り交じった少年漫画の戦闘シーン顔負けの迫力で圧巻なんですが、とんでもない実在の人物まで登場して、びっくりの連続。けど、これほど突飛なのに、怨霊界の世界観がきちんと構築されていて、設定も細かく描写されているから、展開に違和感を覚えさせません。ちなみに「怨霊界」という言葉は私が作ったんじゃありませんよ! 本文中に一度だけ登場するんですが、「芸能界」みたいなネーミングで面白かったです。そういうギョーカイ、本当にありそう。三國さんの造語かな。
 とにもかくにもこの本には圧倒されっぱなしでしたが、さすがに最後は、悪は滅び、右京と美也が結ばれてハッピーエンドになるんだろうなぁと思っていたのですが……。
 ラスト、唖然。私が甘かった。展開についていけなかった。正直、焦りました。まさかあんな複雑なことになるとは――。右京的にこの展開はどうだったのかな……。あぁ、本人に聞いてみたい。新たなストーリーの始まりを予感させる作りにもなっているので、その答えは続編で明かされるかもしれませんね。期待しています。アニメとかもむいているんじゃないかな。とはいえまずは、この怨霊界の世界観にはまってみてください。読み終わったら、生きるのが楽しみになってますよ!

 (こひなた・えり 元祖歴ドル)

三國青葉『かおばな憑依帖』978-4-10-333081-3