書評

2012年10月号掲載

日本人と外資系企業

佐藤智恵『外資系の流儀』

佐藤智恵

対象書籍名:『外資系の流儀』
対象著者:佐藤智恵
対象書籍ISBN:978-4-10-610485-5

 先日、テレビを見ていたら、バラエティ番組でIQの高い天才児たちを集めた小学校の授業を特集していた。知育教育の一環として、「人生年表」なるものを作成させていたのだが、ある小学四年生の男の子がこんなプランを掲げていた。
「十八歳・東京大学入学、二十四歳・日本IBM入社、三十一歳・IBM取締役就任……」
 十歳の少年の夢が、IBMの取締役!
 おそらく親や先生など、大人たちの価値観が相当反映されていると思うが、「外資系企業」の存在が小学生にまで浸透しているとは!
「外資系企業」は、日本人の若者の人生プランに想像以上に入り込んでいる。東大の学生を取材してみても、いまや「外資は憧れ」なのだそうだ。ところが、その外資系企業の実態は、あまり知られていない。それもそのはず。調べてみて驚いたのだが、日本の全雇用者の中で、外資系で働いている人は五十一万人。全体の一%しかいないのだ。
 筆者は、NHK退局後、海外留学を経て、外資系企業二社(ボストンコンサルティンググループと外資系テレビ局)で働いた。昨年末にめでたくガイシを卒業したのだが、最近、学生や日本企業に勤める方々から、年代を問わず「外資系って、実際、中はどうなっているんですか?」と聞かれることが多くなった。その問いにお答えしようと執筆したのが本書である。
 本書では、ゴールドマン・サックス、マッキンゼー・アンド・カンパニー、GE、IBM、アップルなど、日本で関心の高い外資系企業の社員・元社員五十人超に詳細なインタビューをし、外資系企業特有の流儀を思う存分語っていただいた。年齢は二十代から六十代まで、職位は秘書からCEOまで、様々な視点から外資の現実を浮き彫りにしている。『ビジョナリーカンパニー 時代を超える生存の原則』(日経BP社)等、多くのビジネス書を参考にしているが、本書では、なるべく多くの「肉声」をお伝えするように心がけた。
 そこから見えてきたのは、外資系日本法人特有の流儀である。「歯並びには要注意」「朝早く出社する」「極限状態で長時間働く」「会社の悪口を言わない」といったグローバル企業では当たり前の流儀から、「本社のCEOは全力でもてなす」「海外赴任の受け入れ先は自分で探す」といった日本支社特有の流儀まで、日本人が外資系企業で働く上で必要不可欠な「外資の鉄則」を集大成した。
 外資系企業では、日本企業とは内部の価値観や論理が全く違う。外資系企業を知るということは、実は日本企業の価値を客観的に見直すということにもつながる。本書を読んで日本企業の家族的な温かさをあらためて感じる方もいれば、成果主義の外資で自分の可能性を試してみたいと思う方もいるだろう。
 日本人が外資系企業で働くということはどういうことか? 本書が多くの日本人ビジネスパーソンのキャリア選択、および、仕事術の一助になれば幸いである。

(さとう・ちえ コンサルタント)

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