インタビュー

2012年10月号掲載

『「弱くても勝てます」』刊行記念特集 インタビュー

打率2割でいい、強く振るなら

青木秀憲・開成高校野球部監督/聞き手・高橋秀実

高橋秀実、青木秀憲

対象書籍名:『「弱くても勝てます」 開成高校野球部のセオリー』
対象著者:高橋秀実
対象書籍ISBN:978-4-10-133555-1

――知り合いに開成野球部を取材していると話したら、開成は賢いからボールの軌道を計算したり、相手のデータを分析したりしているんですかと聞かれました。

 今は、進学校とそうでない高校かはほとんど関係ないです。野球強豪校は昔に比べると真面目です。戦力分析も外注したりしている。上手い上に真面目。だからすごく上手い。

――そうなんですか?

 うちの選手、よくこんな観察力、注意力、予測力で、生きていけるなと思うことがある(笑)。「おまえら、そんな観察力じゃ学外にいたら死ぬぞ」と。右から自転車が飛び出してきてはねられるとか、電車の中で不注意でコワイ人にカバンをぶつけて、東京湾の底にしずめられちゃうとか。

――周囲に気づかない?

 たとえば、相手ピッチャーのモーションがすごくゆっくりなのに盗塁しない。相手ピッチャーがゆるいストライクを投げ続けているのに見逃す。自分のことで精一杯なんですね。どうやって投げよう、どうやって打とうとばかり考えている。練習ではいいと思うんですよ。よく考え、周りが見えなくたって。

――監督がグラウンドで盛んにおっしゃっていた言葉が「出遅れるな」。私もどちらかというと出遅れるタイプなんで、耳が痛かった(笑)。彼らはそうして様子を見てるんじゃないですか?

 様子を見るのならいいんですよ。寝起きみたいな状態なんです。自分から何かをしようという意図がない。ぼーっとしている間に試合が展開しちゃう。それと、考えると体が動かなくなる。バッティングも構えたままで、体が止まっちゃう。ボールを投げられてから動くから、ますますうまく打てない。ボールを捕る時も考えている。はじめのうちはどのタイミングで捕ろうかを考える必要がある。ところが、しばらくしても、最初に構えた位置でずっとバウンドを見て、考えている。結果、捕れるタイミングを逸してしまう。

 あるいは、行け! というと、やみくもに突っ込む。普通、ピッチャーが投げた球種を判断してから、振ってほしいわけですよ。ところが、思い切り行けと言うと、まっすぐなのかカーブなのかまったく考えないで振る。300キロくらいの球を打とうとしているんじゃないかというタイミングで打ちにいく。おまえは、ピッチャーがミカンやリンゴを投げても見極めないで振るだろう、もしかしたら、大根でも振るんじゃないかっていうくらい、闇雲に振る。

――この夏の大会は、4回戦まで進んで惜しかったですね。

 6月中旬くらいでした。練習試合でひどい負け方をした時に、わざとこう言った。「俺は、このチームの監督としては世界一、能力が高いと思っている。それにおまえら教わっているんだから、絶対に負けるはずがない」と。力も備わってきたから、必要なのは自信だけだった。俺たちのチームは、こういう強烈なカラーを持っている、そういうプライドと自信を持たせたかった。連勝するような野球じゃないけど、歯車が噛み合えば、どーんと勝ち上がっていける、最良のやり方を今やってるんだと。そしたら、その次の日から、よくなった。原因はわかりません(笑)。

 試合でも相手チームのご父兄など大勢の観客が見ていると、僕すごく燃える。わざと大声で子供たちに戦略的な指示を出す。「でかいの打ってやれ! ノーアウトで、おまえがバントで1塁ランナーを2塁に送ったとしても、外野が前進守備だから、あいつの足じゃホームに戻って来られないだろう」なんて、まどろっこしいことをでかい声で言う。それは実は選手たちに言っているんじゃなくて、自分たちの野球のやり方を、観客たちに聞かせてるんです。このチーム、こういう野球しますよと知らしめて、開成高校の野球カラーを多くの人に知ってもらいたい。それよりまずは、開成高校に野球部があるということを知ってもらいたいし(笑)。通り一遍の野球じゃない。そこに、弱い野球チームが勝ち上がっていけるヒントがあるかもしれない。

――監督はよく、こざかしい野球はするなと言いますよね。

 打撃に関しては下手な選手をそこそこ打てる選手にするには、強くバットを振って、2割くらいの打率でいいから、当たったらラッキーみたいな選手にしちゃうのが一番、手っ取り早いんですよ。

 (あおき・ひでのり 開成高校教諭)

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