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書評・エッセイ

青春ど真ん中! どこまでも続け「いと」の「みち」!

――越谷オサム『いとみち 二の糸』

藤田香織

 身長一五〇センチに満たないちびっ子(しかもドジっ娘)で、ストレートの黒髪ロング。今や地元でも絶滅寸前の濃厚な津軽弁が抜けきらず、いつまで経っても「ご主人さま」が「ごスずん様」になってしまう、萌え度抜群のヒロイン・相馬(そうま)いとが帰ってきた!
 昨年夏に刊行された前作『いとみち』は、津軽弁コンプレックス故に極度の人見知りで、高校に入学したものの友だちも出来ずにいた「いと」が、青森駅前の「津軽メイド珈琲店」でアルバイトを始めたことから動き出す、これぞ地味系青春小説の決定版! と称するに相応しいグルーヴ感MAXな物語だった。
 それから一年。本書では無事高校二年生に進級した、いとの新たな春夏秋冬が描かれる。
 人生初のアルバイト(なのにメイド!)を、歯を食いしばりながらも泣いて笑って続けてきた結果、週末の津軽三味線ライブが評判を呼び、今や店には欠かせぬ戦力になった。ようやく出来た高校の友人たちとの関係も良好で、いとの一年間はこれまでになく順風満帆に――と思いきや、物事そう上手くは進まない。
 前作で本人なりに少しだけ、でも確実に「成長」したいとは、本書の幕開け早々、それ故に新たな苦悩と直面する。厳しくも温かく仕事の基本を叩き込んでくれた先輩メイドの智美(ともみ)と幸子(さちこ)の様子がおかしい。どうも自分を避けているような気がする。嫌われる理由を考えてみても、思い当たることはない。時を同じくして、顔なじみの常連客・高校教師の山本の態度も急に他人行儀になった。どうしてなのか。アルバイトを始めた当時、仕事についていけないと落ちこんだときよりも悩みは深かった。
 加えて、迎えた新学期。いとは一年間という時間をかけて友情を育んできた早苗(さなえ)、絵里(えり)、美咲(みさき)の仲良し三人とクラスが離れてしまう。気の置けない仲間がいる幸福な学校生活が、同じクラスに友だちがいない状態からやり直し。気持ちが重く沈み込む。さらに、仲良しグループで立ち上げた写真同好会で、絵里と美咲にカメラを購入する費用を〈二万ずつぐれなら貸せねこともないよ〉と口にしたことから、いちばんの親友だった早苗との仲もこじれてしまう。善意のつもりだったのに、どうして早苗は〈いとっちは、恵まれてらよね〉などと当てこすりのようなことを言ったのか――。
 高校二年は、なんといっても十七歳になる学年である。ひとくくりに「青春」と呼ぶ時代のなかでも「十七歳」は特別青春濃度が高い。大人でもなく子供でもない揺れる心で、凸凹でジグザクな道を、それでも前に向かってひた走ることを強(し)いられる。十六歳ではまだ知らなかったことを、十八歳ではもう決めなければいけないことを、消化しきれないまま迷走すれば、当然、気力も体力も奪われてしまう。
 けれど、躓(つまず)いて、転んで、なんだかややこしく絡まってしまった「糸」を、作者は力技ではなく、丁寧に解きほぐしていく。ロリ系ドジっ娘方言使いメイドという、ともすればそれだけでお腹いっぱいになりそうな「いと」に、十七歳の一少女としてのリアルを吹き込んでいく。苦悩していた出来事の裏に隠されていた真実を知ったとき、いとは驚きや歓びと共に、寂しさや自分の未熟さをも噛みしめることになるのだが、それもまた確実に明日へと繋がっていくのだと感じられる強さが心地よい。
 本書のなかで、いとはある人物との別れを経験する。でも、それがただ悲しいだけではないことを、彼女はもう知っている。
 そして、忘れちゃならない、本書では大きな出会いもあった。中学時代には相撲で県代表にも選ばれた大柄な新入生・石郷鯉太郎(通称コイちゃん)が、写真同好会にも入部し、いとの心の中でも日増しにその存在感を膨らませ続けているのだ。果たして奥手で恋愛とはほど遠いいととコイちゃんの関係はどうなるのか。ひとつのゴールから新たなスタートを切ることになった津軽メイド珈琲店の、そしていとの進む道には何が待っているのか。
 心から楽しみに、再度のアンコールを叫び続けたい。

 (ふじた・かをり 書評家)

越谷オサム『いとみち 二の糸』978-4-10-472304-1