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書評・エッセイ

チキュウノカラクリニイドム「地球のからくり」に挑む

大河内直彦

660円(税込)

3億8千万年前の隕石衝突、地底に眠るバクテリア、深海の「燃える氷」……壮大な謎解きがスリリングに展開! 【講談社科学出版賞 受賞第1作】

地球は謎の塊である。その塊からエネルギーを次々に獲得し、万物の長となった人類は、今やエネルギー中毒に罹っている。なぜこんなことになったのか? そもそも地球の定員は何人か? 宇宙から飛来した石油の源、毒ガス開発学者が生み出した新肥料、未来の新エネルギー……第一線の地球科学者が工学、文化人類学、文学などの広範な最新知見を縦横に駆使し、壮大な物語を綴る。科学と文明史が見事に融合した快作。

ようこそ、人類史の裏街道へ

大河内直彦『「地球のからくり」に挑む』

大河内直彦

 日々マスコミを賑(にぎ)わす原発とエネルギー問題。ある者は原発なんかなくても何とかなるさと言い、またある者は原発がないとにっちもさっちもいかないと言う。大震災から月日を経た今、右翼対左翼、保守対革新といったイデオロギーや政治姿勢の違いが、そのままこの問題の対立軸にすり替わっているだけにしか見えないこともある。
 そこで、利権が見え隠れする政治的駆(か)け引きや、聞くに堪(た)えない水掛け論の前に、私たちの暮らしに不可欠なエネルギーを、原点に戻って考えてみよう。そもそもエネルギーとは何なのか? 石油や石炭がエネルギーになるのに、なぜ水はならないのか? 化石エネルギーは誰が発見し、どのような経緯で開発されてきたのか? なぜ私たちの暮らしに欠かせなくなったのか? そう。歴史と同様、背後にある科学を知ることは議論の土壌を耕し、論旨を培(つちか)うツールにもなる。
 そんなわけで、拙著『「地球のからくり」に挑む』は、地球科学の視点に人類の歴史をブレンドして、こうした問いに答えようとしたものである。
 しかし……である。「科学」と聞くと、「科学者」と呼ばれる特別なトレーニングを受けた一部の人たちだけの世界、七三分け、メガネ、青瓢箪(あおびょうたん)、白衣の理系君というイメージをもつ人のなんと多いことか。まるで誤解である。本書の読者は、まずそんなイメージを壊してもらいたい。科学者だって、普通の人と大差はない。その多くは、昔勉強した数学なんてとっくに忘れてしまっている。私自身もつい先日、情けないことに中学で習ったはずの数学の公式が思い出せなかった。科学的でないことを平然と口にした後で、屁理屈をこねて開き直る科学者もいる(私は多分違うけど)。
 そんな科学者の著作を読むコツをお教えしよう。
 一.わからないところは罪悪感なくすっ飛ばす。
 二.理屈の展開がうっとうしければ、結論を先に読み、前の部分は斜め読みか、勝手に想像する。
 三.二度読み返して理解できない場合は、著者の知的レベルを疑ってみる。
 特に三つめは重要だ。かつて数学や理科が苦手だった読者も、決して自分の知的レベルを疑ってはならない。科学本といえども著者は他人にわかってもらうために書いているわけだから、読者が理解できない責任は著者にある。
 もう一つ大切なことがある。科学が歩んできた歴史にも目を向けてみることだ。時代小説や歴史小説がお好みなら、間違いなくこのジャンルも好きになること請(う)け合いだ。本書で紹介するエネルギーと人類の関わりは、革命や戦争といった激動の時代をかいくぐり、人間のドラマに溢(あふ)れている。
 また昔から政治と科学は決して無縁ではない。エネルギーが人類の必需品となった経緯は、二〇世紀に激動した政治情勢抜きには語れない。
 歴史の教科書に記されている内容が表街道なら、本書の内容は裏街道である。裏街道で起きた数々の出来事は、往々にして、表街道を仕切って来たのである。

 (おおこうち・なおひこ 地球科学者)

大河内直彦『「地球のからくり」に挑む』978-4-10-610472-5